第十話 くだけた態度の護衛
「俺は羽林左監の
ニカッ、と笑う、僕と同じぐらいの歳の男は、拱手をしながらそう言った。
羽林騎は九卿の一つ光禄勲の属官で、皇帝の警護を務める官職だ。
しかし、かなり態度がくだけた護衛だなあ。
「俺、あんまりかしこまった態度がとれないんだ。よく注意されるんだが、最近じゃ放置されてる」
心を読んだかのように、
「決してあんたを見下してるわけじゃないんだ。一応礼典では気をつけるから、目溢ししてくれるとありがたい!」
「普段は礼についてはそこまで気にしなくていいよ」
多分
「これからよろしく。僕のことは
成人した時につけられる
彼は『叔』がついているので、三男だということがわかる。
「と言っても、孝武帝の時代に、父も兄も北胡との戦で、皆死んでしまったがな」
「……それは」
孝武帝は北部の異民族――北胡との戦いにより名を馳せた。だがその被害は甚大であり、多くの兵士が戦死したという。
その殉死者たちの遺児らを集めて軍人として育て上げたのが、「羽林孤児」だそうだ。
一族で軍人として仕えているなら、
「……変なことを聞いて悪かった」
「ん? ……ああ、気にしなくていいぞ。この時代、大切な人を亡くしているのはお互い様だろ」
そう言って笑う
日焼けした浅黒い肌に、彫りの深い顔。服の上からもわかるほどがっしりと均等にとれた体格は、彼が武人であることを示している。
対する僕は肌が白く、貧弱な身体付きだ。情けないことに、最初
「ところで、随分時間がかかったんだな。護衛役の決定」
藍大将軍から、羽林騎から護衛を決めると聞いてはいたが、あと数日で即位式というところでようやく決まったらしい。
「あー、今、頑丈なのが俺ぐらいしかいなくてなー」
頑丈? と尋ねる僕に、「俺、毒には強いからな。酒も強い!」と
どうやらこの護衛は、毒味役も兼ねているようだ。
「そんで、帝は今どこに?」
「ああ。そろそろ……」
「聞いてよ
この世で一番偉い人が来た。でも威厳ゼロなんだよなあ。
■
「羽林……って、光禄勲所属よね。じゃあ、
「同じ所属でもそっちは文官ですから、俺はよく知らなくて。ただ、藍大将軍の右腕的存在であることは聞き及んでます」
「そうなの……あ、無理にかしこまらなくていいわよ。私、そういうの苦手だから」
「よっしゃ。じゃあお言葉に甘えて!」
上に立つものとしてはダメな気がするんだけどなあ。ま、いっか。誰もいないし。
「
「そう。全然資料が残ってないの。蘭台でこれ以上調べるのには、手続きがあるみたい。さすがに即位式で忙しい時にするのもね。……別のことも気になってきたし」
はあ、と銀でできた茶器を口につけて言う。
「で、懲りずに藍大将軍に会わせて欲しいって頼んだのか?」
「ううん、そっちはしばらく置いておく。そうじゃなくて、――私、見合いさせられるのよ」
見合い。
…………見合い?
一瞬なんのことを言っているかわからず、頭の中で北斗七星と月と太陽が回る。
「はぁ――!?」
現実に帰った瞬間、思わず大きな声が出た。
「私だってしたくないわよ! でも、私には貴族との繋がりがほぼないから、ほかの貴族との縁を作っておけって……即位式終わったらさせられるらしいの」
とにかく貴族との顔合わせをしたいみたい、と
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