第四話 現実と遊戯の区別はつけてくれ

卓上話演ジョーシャンファーユェン』。

 それは、僕の妻である美雨メイユーが編み出した遊技だ。

「囲碁とか六博とかやり方わかりにくいわ。足して二で割って色々付け足しましょう」という美雨メイユーの発案により、最早原型がなくなってしまったわけだが、その分自由度が上がり、周囲に受けいれられた。

 自分の角色キャラクターの能力値や特徴を決め、その能力の成否をダイスによって決める。遊戯主人ゲームマスターは脚本を用意し、成否に応じて報酬を与えたり、角色キャラクターの行動を報告する。遊戯玩家プレイヤーはその脚本と遊戯主人ゲームマスターの指示に従いつつ、角色キャラクターを演じて通関クリアを目指す。

 これは、近所の学習所にも受け入れられ、僕の周りではちょっとした流行を呼んでいた。


 呼んでいたが、あくまで遊戯である。

 邪神を倒したのも魔物を倒したのも仙術が使えるのも、遊戯の中の角色キャラクターたちなのである。

 それでなんで美雨メイユーに超人伝説ができるんだ。誰だ現実リアル遊戯ゲームの区別ができてない奴。


「いや、しかし、書物屋にはこのようなものが」


 渡された竹簡は、とても見覚えのあるモノ。『卓上話演ジョーシャンファーユェン』の記録をとってまとめたものだ。

「ここに、確かに殿下の名前が」

「あー! 角色キャラクターの名前を自分の名前にしちゃったからー!」

 そうだね。それで何回も生き残ってるね、君(の角色キャラ)。

 そして生活の足しに記録を売っていたね僕ら。結構売れたよね。そりゃ勘違いされてもおかしくない。いやおかしいだろ。

 


「とにかく! 私は別に邪神も魔物も倒してませんし、仙術も使えませんから!」

「もう皇帝を廃することは決まっていますので、どうか」

「早過ぎない!? まだ一ヶ月も経ってないわよね即位してから!?」

 本当に早い。そして最早敬語をぶん投げた美雨メイユー

「今上陛下は、そこまでの不祥事を引き起こしたのですか?」

 恐る恐る僕が尋ねると、そうですね、と藍大将軍が言う。


「深酒して汚物を撒き散らすわ、そこらで女子をつかまえて酒池肉林するわ、色々ですな」


 噂以上の酒癖と女癖の酷さだ。


「その後片付けに追われ、火急の案件が全く片付かず、会議も遅れております……」

「そ、それは……かなり大変ね」

 よく見れば疲労のせいなのか、藍大将軍には、目の下に隈ができていた。キレていた美雨メイユーだったが、逆に同情し、冷静になる。

「……とんでもないことを言ってる自覚はあるけど、あえて尋ねるわ。あなたがやっちゃダメなの? 皇帝」

「……本当にとんでもないことを仰いますな」

 藍大将軍は、目を丸くしている。

「黄河国を建国した初代皇帝も、滅んだ紅河国皇帝の部下だったのでしょう? 血筋はどうとでも出来るはずよ」


「その為に、多くの血が流れたとしてもですか」


 藍大将軍が、厳しい声で言い放つ。

 暫く考えたのち、美雨メイユーは、ゆっくりと口を開いた。

「……条件があるわ」

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