第7話

 スホ、という名前に私は聞き覚えがあった。ゲーム内で数少ないイベントの一つにイジュンとスンアの出会いがある。それはイジュンがパーティーで酒を飲んでいるところでエリスがスホと楽しそうに踊っているさまをみて、怒りだしているシーンでスンアが声をかけるのである。そのシーンを再現しているに過ぎないため、踊っている時にイジュンの姿は見えて実際にスンアに出会っている。バイタリーチェックを行うと、ゲームでは嫉妬だったものが、実際はただ、エリスが楽しんでいることに怒っているらしい。この後、部屋への幽閉が本格化するのである。エリスはエリスで政治的駆け引きをしていたのか、と思うとなんだかこの二人は考えている事が違うんだな、と感じる。

 スホは夜、エリスの部屋に来た。彼は紳士にエリスと会話をするだけだ。そして、雰囲気的な状況になった時に私を人形に入れて、正直に告白した。

 「私、子どもを産まないと決めたのです。理由はロストテクノロジーでリスクのある出産を避け、施設で科学的に産み、育てることがわかってしまったからです」

 その言葉を聞いて、スホは興味深そうに尋ねる。

 「それはどこで知ったのですか」

施設バレるのはまずい。AIが記憶を消すツボを教えてくれる。

 「私の頭の中にいる昔からの友だちに教えてもらったのです」

 「なるほど、やはり祝福をされた側の人間なんでしょうね」

 そういって、笑顔で納得していた。宗教的解釈をしてくれてよかった。

 「では、私はどのようにしたら良いでしょうか?」

 と尋ねたため、私が動き出し、答える。

 「ミルクを頂きます」

 そういって、彼を優しく包んで、ツボを押し、即座に試験管でミルクを回収した。・・・人形状態の私の最初の仕事が精子採取もなんかやだな。

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 スホとは恋文とともに政治的な行いもするようになった。これに協力してくれたのは意外にもウヌである。彼は現女帝に最も近しい存在であり、また政治を放棄した女帝に代わって多くの政策を代理で決断している人物。女帝が体調を崩し出して以降、ちょくちょく見張りのためか、私の様子を部屋から覗いてきてはいたが、ここまで接触をしてくるのは初めてである。

 「私はなにか国に対する反逆を行うのではないかと感じ、個人的に監視しておりました。イジュン様についても同様に監視しております。イジュン様については血筋と立場上、命令されることもありましたが。軍事演習までは戦争になっても、キョウルナラ国の配下になる可能性が高かったため、女帝からも許可を得て、行いました。しかし、現在の機密情報漏れは私の意図しないものでした。まさか、あそこまでロジャ王国に心酔していたとは。そして、エリス様がここまでキョウルナラ国のことを考えて行動しているのかも、昨日のダンスで聞き耳を立ててわかりました。今後はたとえ、イジュン様が皇帝となろうともエリス様に就かせていただきます。私のミスの埋め合わせを含めて、まずは今回の件で協力させていただきます」

 ソアがAIで彼のAI残滓を探ってみると、なるほど聴覚機能を上げる箇所だけこの人のAIは復活していることがわかった。それを踏まえると、結構多くの情報がこの人に漏れている可能性もある。あくまで彼は今の生活に満足し、維持をし続けたいのだと信じて、仲間に加わってもらうこととした。・・・政治のブレインが味方です宣言してくれるなら安心だし。ウヌのお陰でスホに送る恋文兼政治的やり取りの書かれた文面は検閲もなく、そして誰にも見つかることなく、スホに届けられていた。

 順調に事が運び、キョウルナラ国とオース国は同盟を結ぶことができた。ウヌは女帝に対して、「オース国が我が国のために協力したい、との申請を受けられました。戦況を考えて受け入れてあげた次第です」とあくまでオース国が同盟を結びたいとお願いしてきた体で報告するとキョウルナラ国の権威は他国にも理解が広がりだしているのか、と感動していたそうだ。これで戦況はどうにか拮抗することができるだろう。

 しかし、周りでは不穏な流れが出てきている。そもそも同盟を結ぶという経験がないこの国、そして、そんな話は今までなく突然出てくるのはおかしいと言い出す人が現れたのである。特に戦争で負けることで上が入れ替わることを期待していた者たちが、秘密警察なども使ってでっち上げの犯行にして多くの人を捕らえ拷問しだしたのである。今のところ、私には何も起こらないが、もしなにか起こった時に取り返しがつかないことになるかもしれない。ソアはAIで出力した爆弾を大量に宮殿に夜な夜な人形となって、仕込みながら私には『以前スホとのやり取りのうちであなたが意味のわかってなかったものを実行するときだよ』、と言われた。

 「皇太子妃、第二子のご懐妊です!」

 民衆中が話題になる。キョウルナラ国の戦況があまり芳しくない事もあって久々の大きなめでたいニュースとなった。なるほど、これで少なくとも同盟の疑いがこちらに飛び火する可能性は下がるし、終息する可能性もある。今回も私は大きなボールを入れて、対応した。前回は一切の前兆もなく、生まれたことにしてごまかしが効いたのでそれでいける。ただ、一つ問題があるとすれば、大公との関係である。ただ、ソアにはゲームのシナリオがあることを思い出してくれて、それを教えてもらっている。大公は子供の作り方を理解するようになったのである。そのため、自分との間の子どもでないとわかり、大公がソンユを連れて「勝手にしろ」と怒るそうだ。堂々と浮気宣言をする、ということか。実際本当にそのシーンは現実となり、食事会でイジュンの隣にはスンアがいたのである。お腹が苦しそうな(フリをして)私に対して、大公は一言「お前のような不躾で不真面目で世間を考えないような女などいらん! 私の隣にはこれからスンアがいることとするからな」といって食べ終わって出ていくのである。・・・あなたも勝手にすればいいわ。

 そして、息子になにかあったときのため、女帝にとっても国にとっても後継者の「ストック」が必要という考えもあった。すでにスターが秘密にしていた情報である大公は「種無し」は周りの噂で認識として受け入れられ、民衆たちもそうだろうなと知れ渡っているのである。もうどんな人の子でもいいからもうひとりはほしい、というのがこの国の現状だった。私は『なんか嘘ついてるみたいで悪く感じる』とソアにぼやいていたが、『国なんてそんなものよ』と返答された。

 そんな感じもあってか大公の態度、政治への介入の仕方から評価はもともと低いのに更に低下し、このままいくと具合を悪くしつつも献身的に女帝が育てている私の息子に皇位継承権が与えられるんじゃないか、と噂までされるようになった。

 宮殿では静かだが、確実に物事が進み、戦場では新たな光が見えだされたところで女の子が誕生した。周りは残念がりながらも女帝がまたしても引き取っていった。その後、秘密警察がついにオース国まで至り、スホが事情聴取を受けることになったのである。

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