第6話

 私が無事に出産するふりを隠し通し、立派な後継者を産んだ。普通は落ち着くようになる1ヶ月間ほどだそうなので、それまで大人しく部屋に閉じこもっていた。期間が過ぎて、沈黙しかしない女性ではないんだぞ、と社交界で金の刺繍の青ビロードの豪華なドレスを着て、出席した。嘲笑的なほほ笑みを浮かべて、延臣たちの間を歩き回りながら、辛辣な言葉を投げつける。ソアはさすがに『辛辣な言葉はよしなよ』と宥められてる。ただ、ソアはソユルの研究のおかげで修理前の機能してない機械のAIにも入れるようになったので、宮殿内のいろいろな所にあるAIの残滓に入って調査しており、私が行動的になっているのを内心は黒い笑いで迎えている。情報を得やすくなるのはありがたい。

 ただ、そういった生意気とも取れる悪役令嬢、というか自分の妻の態度が気に食わなかったのか、大公は私室で夕食を取りながら伝える。

 「我慢できないほどの傲慢で胸を張って、お前は何様のつもりだ?」

 「私は奴隷のように腰をかがめていないとあなたのお気に召さないのですか?」

 速攻の返答に腹を立てたのか、刀を持ってきて、半分抜き出す。

 「なら、私の分も持ってきてもらいましょうか」

 エリスは全く動じることなく、女中にお願いをする。

 「全く恐ろしく意地の悪いやつめ」

 と捨てセリフを吐いて出ていってしまった。『皇太子妃に奴隷の態度はたしかにないけどね。ただ、注意したほうがいいよ』とソアが言うが、『あなたは、私側でしょ』と注意しておいた。

 後継者を出産しても、私の優遇が良くなることは全く無かった。政治にも外交にも、裁判にも軍にも関わることができないでいる。そして最近になって知ったが、家族以外に手紙を書くことも許されなかった。おかげでスターにお礼さえできていない。それでも社交界や舞踏会、演劇なんかは出席できるのと、商業、医療は専任なのでその関係者や外交官にお願いして本をこっそりもらう。私のAIの機能もだいぶ進化してきて、どの言語であっても即座にキョウルナラ国語に翻訳できるようになった。ただ、翻訳が変なときは原文に加えて、単語、熟語の訳を出力させている。そうやって、多くの言語と知識を得ていっている。

 閉じ込められているだけでなく、もはや見放されてもいるのであるものが完成する時間もあった。それは宮廷地下の赤ちゃん製造所にあった人形をソユルとともに部屋に持ち出して構造把握、修理に成功したのである。同時にAIにこれの製造された当時の場所も判明した。そこがたまたまソユルの故郷の近くだった。エリスはお願いをして、彼には一度故郷に帰ってもらいそこの開発をしてくれないかと、お願いした。彼はすぐに承諾してくれた。と、同時に機械人形の中にあったAI技術を応用して、AI機を次々に作ったのである。これにソアが移ろうと試みると、なんと移れる!

 「エリス! 私移動できたよ!!」

 ソアは機械音で喜んで発言している。と、同時に一気に色々なことができるようになった。宮殿にあるロストテクノロジー化した監視カメラや盗聴器、飛躍すれば過去に街で見た現在はただ回ってるだけの風力用の風車や太陽光、雪力発電機にまでAIを仕込めばまず修理できるようになった。そして、AI機さえ入れておけば意識するとそこにソアが入ることができ、直っていれば起動までするのである。そして、ソアが驚いていること。全く理論がわからないがAIによって電気を共有する事もできている。そして、修理した人形に関してもソアが入ることで起動できるようになったのである。人形はまだ動きがぎこちないから修正が必要だな、ということで改修箇所が見つかれば常時私が修理している。服はちなみに着ることはない。何かあって発火しても困るし、と言ってソアが断った。

 そして、ソユルはさらにすごいことを始める。小型AIをソアが入ったまま作ることでそのままもう一人のソアが生み出されたのである。ただあくまでコピーAIであり、私の命令とソアの命令に従うプログラムだった。さすがにクローンというわけではない。そして、それにもソアは難なく乗り移れる。これをありとあらゆる機械に入れれば・・・。

 ソユルは上司に家族が病気になった、という理由で実家に帰郷することになった。人形の設計図をもっての別れである。ただ、ソユルの存在は1週間後、すぐに出てくる。コピーAIも持ってくれた彼がありとあらゆる所のAIの入ったロストテクノロジーを道中修理しまくってコピーAIを入れたのである。最終チェックは本物のソアが入れれば成功としてテストした。つまり、ソアはずっとソユルと同行しているような状態だったのである。ソアが彼の故郷にたどり着いた瞬間、機械人形の工場と一緒に何があるのか気づいたのである。宇宙ステーション跡地もある、とのこと。うん、何? 空の向こうにある世界に行ける施設とソアは説明してくれた。そこにはソアの時代に移住計画が進行していたという。ソアは修理するようにして、と懇願してきたのでコピーAIを使ってソユルに同時に宇宙ステーションも開発してもらうよう依頼した。

 私が地に足をつけようとしている頃、大公はとんでもないことを実行したのである。隣国のロジャ王国と合同練習をする計画を立て、それを強引に実行してしまったのである。ロジャ王国は現在キョウルナラ国が最大の敵とみなす国でいつ戦争が行われてもおかしくない状態である。それにもかかわらず、イジュンは議会などで強引に皇太子権限を発動して女帝の許可なしで決行してしまったのである。

 その手紙を送った使者は二度と帰ってくることはなかった。その代わりやってきたのはロジャ大国の軍隊である。そのまま、軍事演習の誘いはロジャ大国の存亡を脅かすための罠であり、宣戦布告であると受け取り、戦争が始まってしまったのである。この頃には武器や艦に内蔵したAIには侵入できたため戦況は理解できた。当初は、女帝も突然のことに驚きつつも血なまぐさいことが好きな人のため、その戦争を受け入れ、不意打ちの劣勢はあっという間に取り返して有利な状況となった。しかし、中盤に差し掛かる頃には作戦の裏を書かれて次々に敗戦が続く状況になっている。宮殿内を調査すると原因は大公が作戦をロジャ大国に漏らしていることがわかった。ただ、次期皇帝の正当な血統のため皆、勝とうが負けようが明日の我が身が無事ならどちらも構わない、といった状態で黙っているのが華と黙認してしまっている。あの女帝さえも、だ。このままでは、国が滅ぶ可能性が出てくる。

 「何とかしたいけど。しかし、いま現状私も味方がいないし・・・」

 ソアにゲーム内だとどうだったか聞くと、ラストしか分からないのでゲームは参考にならない、とのこと。ただ、一応なんとかなる方法をAIで弾き出せてはいる。本の中に現代の国事情があってよかった・・・。オース国、という国がロジャ王国に負けており、土地を奪われ、賠償金の支払いもしている状態である。しかも、ロジャ王国が一方的に仕掛けた戦争で、だ。キョウルナラ国とは距離も近い関係の国でたまに外交官がこちらにくる。つまり、その国と同盟を組もう、というのだ。キョウルナラ国は同盟っというものを組んだことがないそうだが、私はそんなことは構わない、と思っている。大切なのはキョウルナラ国を守ること。となると、接点を持たなければならない。

 「スホって外交官がオース国の外交官。その人と接点を持たなければ」

 今回、スホは舞踏会の日に現れた。彼は女帝とともに踊り、政治の情報を聞き出そうと虚しい努力をしていた。それが終わると、エリスからスホに近づく。

 「おや、そちらから参るなんて珍しいですね、エリス様」

 軽く跪き、手を出し、ダンスの誘いをしてくれる。私は彼の手に手をのせ、ダンスを受け入れた。

 「珍しいですね、あなたが誘うなんて。このまえ私がお渡しした本はいかがでしたか?」

 彼は非常に読書家で知性があり、そして優しい人である。ダンスの時のリードも完璧でステップ一つ間違えないし、私のペースに合わせてくれる。私のことについて、いつも心配してくれて部屋で退屈にならないように本をくれるのである。

 「えぇ、とても良かったわ。外の世界で起きている人々の自由の歌声が聴こえるようでした」

 彼は、ちゃんと読み、そして喜んでいることを確認する。

「それは良かった。今回持ってきた本もなかなかいいものですよ」

 その言葉を聞いて一気に勝負に出る。

「ええ。本ももちろん嬉しいから継続したいのですが、今はもっと面白いことに興味をもったの。例えば・・・オース国とキョウルナラ国が協力しあった後のロジャ大国の姿とか?」

 ここで、彼は驚いた目をする。恐らく私の目は挑戦の目をしているだろうか。てか、ソアが『あんまり睨まないの』と宥める。

「まさか、エリザ様でなく、あなたが、ですか。世の中はやはり面白いです。そして、私の見る目に間違いはなかったようです。具体的な要件は何でしょうか?」

 そして、彼は彼女の目に答え、政治的駆け引きに応じてくれた。

 「現在、ロジャ王国との戦況は悪いものです。原因は、大公がキョウルナラ国の作戦をロジャ王国に売っているからとみています。・・・皇太子様は以前ロジャ王国の土地だったところの生まれのためか、どうもロジャ王国に帰属したいと考えているのです」

 『結構な情報をしゃべちゃってるよ』とソアがぼやく。私も正直カードを持ってないので情報を話すしかない。

 「なるほど。これまた重い話ですね。どうしてそんな大事な話をエリザ女帝は話されないのか」

 女帝は知ってるけど、次期皇帝のやってることだから黙認している、と答えた。彼は悪戯な笑みで笑う。あ、ちょっとイケメン。

 「要望としては、ロジャ王国との戦争に同盟国として加担していただきたいこと。見返りは勝ったとき、オース国の領土だったところはそちらのものにします、と伝えていただければ」

 「あとひとつ、足りないです。エリス様。もとに戻るだけでは私も国に同盟を提案しづらい。富国の利益は知識で得ているでしょう」

 彼はさすがプロ、といったところだ。ソアは『なら、これでいけるはずだよ』と言う。

 それをそのまま、言葉にした。

 「賠償金の一括返還の競技も協力すること。さらに勝利した際に得られる賠償金は山分けにする。というのも追加します」

 「さすがです。それで交渉してきますね」

 駆け引きは成功した。わたしはほっと、一息つけると

 「では、私にも見返りが必要ですね。あなたはあくまで政治への介入は禁止されている。秘密裏でやるには何か必要ですよ」 

 困った要求をされた。普段の贈り物とは「別の」何かがほしいということだ。流石に困ってしまったが、ソアが『なら、この人にはもう一つ仕事をしてもらおうかな』といって、ソアが言ったことをそのまま伝える。

「私が女帝となった時、選挙でキョウルナラ国の市民を使い、あなたをオーコ国のトップにしましょう。そして、あなたの子どもをこちらで育てます」  

 はぁ? いや、ソア何言ってるの。たしかに彼はイケメンだから恋人とかになってくれるなら願ったり叶ったりだけど。というか、クーデター起こします、という隠喩までだしてるわよね。

 私が困惑している傍らで、彼は声を抑えるのに必死な様子で笑う。

「いや、あなた様なら確かにあの無能反逆皇太子より、それどころか政治放棄現女帝よりよっぽどベットする価値があります。自分の価値をよくわかっておりますね、エリス様。何せ、私はあなたのことをお慕いしておりました。いいでしょう。その勝負関係なく、あ

なたに忠誠を誓います。今回の結果が仮に失敗したとしても最後はあなたがかならず勝つと信じて行動しましょう」

 なんかうまくまとまっってしまった。

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