63話 まだまだ密会は続く
〈今夜会える?〉
〈もちろん!〉
メイにメッセージを返してから、僕は学校を出る。
北峰女子高校の文化祭が終わり、メイと初めてのキスを交わしたあの夢のような一日から時間が経った。もうすぐ十月が終わろうとしている。
自分に彼女ができるだけでも信じられなかったのに、とうとうキスまでたどり着いてしまったのだからとんでもないことだ。
あれからはまだ会えていないけれど、今日はようやく密会ができる。
メイの心にも、あの瞬間は焼きついているだろうか。
そうだったら嬉しい。
それに、今日はメイに報告もあるのだ。
たまには僕がウキウキしながら密会に行ってもいいだろう。
☆
「お待たせユッキー!」
「お疲れっ!」
「あ、あれ? 思ったより元気いい返事だったね」
コインランドリーにやってきたメイは、水色のデニムシャツを着て、下は相変わらず半ズボンだった。もうだいぶ寒くなってきたけれどおしゃれ優先。強い。
「今日は報告があってね」
「ほーん、嬉しいことがあったのね。聞かせて聞かせて!」
「ふふふ……」
「なにもったいぶってんの~? なんかキャラ崩れてるよ?」
文句を言いつつも、メイは楽しそうにしている。
「なんと、中間テストで総合7位に入りました!」
「ええーっ!? マジ!? すごいじゃん!」
期待通りのリアクションをしてくれて僕はそれだけで大満足だ。
「ユッキー、一桁順位狙ってるって言ってたもんね。ついに入ったんだー!」
「メイがたくさんやる気をくれたから勉強もめちゃくちゃ
「でもでもめっちゃすごいことよ! ユッキー超優秀!」
褒められまくって最高の気持ちだ。
メイが横にやってきて抱きしめてくれる。僕はイスに座っていたものだから、顔が彼女の胸に突っ込んでしまう。
「えらいよ~。よく頑張ったよ~。ホントにお疲れ様~」
謎のリズム感で言いながら、メイが頭を撫でてくれた。
これもご褒美だと思って、僕は素直に受け入れる。
勉強はもちろん自分のためでもあるけど、メイのためでもあるのだ。
僕はメイと別れる未来を想像できない。
だったら、たどり着く先は一つ。
その時のために一番いい進路を目指したい。
最近はそんなことを考えている。
「ユッキーが頑張ってるんだから、あたしも得意なことで頑張らなきゃね」
「次の踊ってみた、出すの?」
「それもやりたいな。まずは配信しなきゃ。文化祭に集中してて全然できてなかったし」
「そういえば雑談配信も聴いてないな」
「でしょ。また燃え尽き症候群みたいになりかけててさ~」
あれだけのものを披露すれば気力も使い切るよな。
「そろそろフォロワーさんが待ってるから動かないとね。まあ、一番期待されてるのはダンスだろうけど」
「あんまり最新の曲では踊ったりしないよね」
「確かに。一回くらいはそういう曲で動画撮るか~」
僕たちはこれからの予定を立ててみる。
やりたいことはまだまだあった。
それでもベースになるのはここ、コインランドリー・まっさらピュアだ。
ここでしか話せないことがたくさんある。
もうすぐ冬がやってくるけれど、この場所に通ってさらに思い出を積み重ねていこう。
「あのさ、ユッキー」
「うん」
「あたし、キスはすごく大切なものって考えるタイプなんだ」
僕はうなずく。
「だから、普段から気楽にはやりたくないっていうか……わかってくれるかな」
「わかるよ」
メイはみんなが思っている以上にピュアな女の子なのだ。
「特別な時だけ。それでいいんだね」
「ん。……よかった、ユッキーならわかってくれるって信じてた」
「僕も軽いノリではできないよ」
「お互いウブっぽいね?」
「そうだね。でも、ここまでの関係になれたよ。ウブでも進化できるってことだ」
メイがクスッとする。
「あたしは初めてキスした日、全然眠れなかったけどね」
「それ、僕も同じ」
僕たちは同時に笑った。
「進化までは行ってないか。慣れるには時間かかりそうだ」
「慣れたいからしようってのはダメよ?」
「大丈夫。今日は雪降ってるからキスで体温上げようとかはあるかも」
「わー、また恥ずかしいこと言ってるー! ユッキーの性格がいまだに読めないんですけど!?」
洗濯機の音の中、僕たちは笑顔で時間を過ごす。
メイはどんどん有名になり、僕は無名のままだ。
それでも、お互いを支え合える関係になった。
この場所がある限り、まだまだ密会は続いていく。
〈第2部・おしまい→第3部へつづく〉
――――――――――
こんにちは、作者です。
今回のエピソードは第2部のエピローグとなっています。
二日ほどお休みをいただいたのち、第3部に移る予定です。
本作は3部構成でイメージしているため、次章で完結となります(引き延ばしてマンネリ化するのが一番怖いので……)。
第3部の締めまで、もう少しだけおつきあいくださいませ。
ひとまずはここまで読んでいただきありがとうございました!
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