41話 ギャルはみんな強い
「お母さん、久しぶりにメイちゃんに会いたいんだけど」
プールデートから数日して、お盆の真ん中。実家で久しぶりに母さんと過ごしていたら、いきなりそんなことを言われた。
「向こうがいいって言ったらね」
僕はさっそくメッセージを送る。
〈いいよ~!〉
と返事が来た。
〈どこで会う?〉
訊いてみると、しばらく間があった。
〈よかったらうちに来ない? お父さんがユッキーのお母さんに会ってみたいって!〉
マジか。
「メイちゃんのお父さんって確か社長さんなのよね。ふふ、あちらのご家族もあんたのこと気に入ってくれたみたいね」
「そうなのかな」
「わざわざあたしまで呼ぶってことは家族ぐるみでつきあいたいってことなのよ。もう誰にもあんたたちの関係は邪魔できないわね」
「ネット民がいるよ」
「現代っ子らしいと言えばらしいわね……」
母さんはため息をついた。
「とりあえず出かける準備しましょ。道教えてね」
「オッケー」
☆
母さんに道案内をしてメイの家まで向かう。
連休で道も混んでいたが、住宅街に入っていくと車とすれ違わなくなった。
メイの家の前までやってくると、ふくよかなおばさんが手を挙げる。
「こんにちは。葉月家でお手伝いをやっています、福山と申します。車はこちらへどうぞ」
福山さんに指示をもらって駐車スペースに車を入れる。
メイのお父さんは家にお客さんを招くことが多いので、こういう区画がちゃんと作られているのだ。
「ユッキー久しぶり~!」
「まだそんなに経ってないよ」
「あ、またそーいうことを……」
メイと辰馬さん、有希さんが玄関で出迎えてくれた。
今日のメイは白い半袖シャツに黒の半ズボン。最近露出が多めだったのでこのくらいの格好だと安心する。
「初めまして、翔太郎の母で結城
「いえいえ、うちのメイこそ非常によく面倒を見てもらっているようです。今日はぜひ両家で親睦を深められたらと思いまして……」
辰馬さんと母さんは堅苦しい挨拶を交わしつつ、お互い何度も頭を下げていた。
「なんだか同族の気配がしますわねえ」
ざっと自己紹介が終わった時、有希さんが母さんを見て微笑んだ。
「あら、ではもしかして、有希さんも昔は……」
「ええ、この子のように」
「でしたら同じですね。あの頃は怖いもの知らずでした」
「次第に丸くなっていくのですよね」
……同族。この子。
僕はメイに近づく。
「メイのお母さんって、もしかしてギャルだった?」
「そうみたい。高校時代の写真だとメッシュとかにしてたよ。スカートもめちゃ短くてさ」
「メイもしっかり引き継いでるよね」
「不思議だね~。やっぱ好みって似るもんなんかな」
隣では母さんと有希さんによるギャルだったトークが盛り上がり始めた。辰馬さんが居心地悪そうにしている。
「お父さんたちで仲良くやってもらえる? あたし、ユッキーにダンス見てもらいたいから」
「ああ、そうしなさい」
「ユッキー、外行こう」
「了解」
僕たちはガレージに移動した。
今日はラジカセにCDを入れて音楽を流すらしい。
「あれから振り付けのムダとかなくして、パートごとの動きとかを考え直してみたの。大きく動くところは余裕持って動けるように」
「もう何度も通しでやってるの?」
「うん、月詩に撮影してもらってる。よさそうならお盆明けに本番撮るつもり」
「そういえば、最近ムービーキャストは動いてないよね」
「ちょっとサボり気味だね。でも、ユッキーと遊ぶとき以外はダンスの練習してるんだから、フォロワーさんを忘れてるわけじゃないんだよ」
「雑談で告知とかなしにいきなり公開する?」
「うーん、それだと初動が弱くなりそうだから一回配信は挟むと思うなあ」
ムービーキャストで目立ちたいなら、最初の伸びでランキングに入るのが重要だ。
メイはあのサイトで上位の人気配信者だし、告知なしでも簡単に伸びそうな気がした。
とはいえ彼女のスタイルを優先するのが一番だ。
「じゃ、通しで見てくれる?」
「ぜひ」
「いくよ~」
メイはぴょんぴょん跳ねてから、ラジカセのボタンを押した。
曲が流れ始める。
顔を横に向けた体勢から、鋭い動きで音楽に自らを重ねていく。
ほとんどウォーミングアップもしていないはずなのに、いきなり始めてこれだけ動ける。メイの素質は圧倒的だ。
しかしさすがに無茶だったのか、メイは何度かバランスを崩しかけた。これでノーミスだったら逆に怖いのでなんとなく安心する。
メイは大崩れすることなく最後まで動き続け、フィニッシュポーズを決めた。
「はあ、はあ……」
猛暑の中だ。汗がすごく、かなり息も上がっている。
「ふう~、けっこうミスっちゃった」
「でも振り付けがよくなってるの、わかったよ。これが完成すればみんな満足してくれると思う」
「そうかな?」
「絶対に」
「ふふ、ユッキーの言葉、信じるよ」
各パートの確認を少しだけやって、僕たちは玄関に戻った。
「瑞穂さん、ギャルピ知ってます?」
「わかりますー! こうやるやつですよね?」
「それそれ! いつから流行り始めたんでしょーね?」
「さあー。気づいたら使われるようになってましたよね。そんな名称までついちゃって」
「うちの子も普通に使ってるんですよー! 確かに似合うけど!」
「うちに来たとき見せてくれましたよ! メイちゃんがやるのは強いですよね! もっと写真撮りたい!」
「おっ、ちょうど来た! メイ、あなたのギャルピを瑞穂さんに見せてあげて!」
「ええ……?」
ヒートアップしている母さんと有希さんを見てメイが困惑している。僕も同じだった。
辰馬さんは床にあぐらをかいてげっそりしていた。横にトレイと麦茶のコップが置いてある。福山さんが持ってきてくれたのかな。
「お互い昔はギャルやってたことがわかったのよー! 共感できる話いっぱいあるし、これが彼氏のお母さんとか最高なんですけど!」
「翔太郎、あんたにとってもお母さんにとってもいい関係になりそうよ! これからが楽しみ!」
「そ、そう……」
「瑞穂さん、今度コーヒー飲みに行きません!?」
「行きたいです!」
「やったー! ライン交換しましょう!」
「ぜひー!」
「……」
僕はメイを見た。
「あはは……なんか、とりあえず上手くいったみたいだね?」
「そうらしい……」
「あたしもギャルとか言われるけど、お母さんには勝てないなあ」
「勝たなくていいんじゃない……?」
僕たちは苦笑を交わして、盛り上がる母親二人を眺めるしかなかった。一番ダメージを受けたのは辰馬さんだと思う。
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