第48話 山崎の戦いそして太宰府政権軍の入京
さて、山城近辺まで交代して兵をまとめ山崎に集結した建武新政軍は、尊良親王を上将軍に新田義貞を大将とし、
「とりあえず兵糧攻めを継続するか……。
しかし、あまりのんびりしていると北畠顕家が来るかもしれんしな……」
京は人口が多く、さらに軍の兵が集まっている状態では糧道を塞がれれば食料が不足するのは目に見えている。
だが奥羽鎮守府の北畠顕家は昨年の京都攻防で建武新政軍の勝利に大きく貢献した公家武将だ。
とは言え奥羽方面での反乱の鎮圧に手こずっているらしい。
まあ、建武新政のグダグダを考えれば奥羽の人間も従いたく無いだろうさ。
俺達は播磨と山城の間の山崎と、宇治川経由の物流を遮断するための宇治方面へと兵を分けた。
山崎方面は護良親王を上将軍として九州の主力武士の菊池武時・阿蘇是直・名誉回復のためと参陣した
正季には和田などの同族や紀伊半島の豪族とともに宇治方面に回ってもらった。
一方の建武新政軍も軍を分けた。
山崎は建武新政軍主力の新田義貞や宇都宮公綱が、宇治には弟の脇屋義助がむかった。
千草や名和は天皇の護衛をしてるらしい。
土岐や佐々木は念のためと瀬田方面の守備に回されている。
これはこいつらの裏切りを警戒してるんだろう。
「うーむ、こいつはきついな」
新田義貞は山崎の天王山宝寺城を本陣として陣取っていた。
紀清両党と呼ばれる益子貞正や芳賀高名を率いる宇都宮公綱は坂東一の弓取りで一筋縄で行く相手じゃない。
天王山宝寺城がある天王山は淀川を挟んで男山があり、宇治川、木津川、桂川の合流するところだが狭くなっていて大軍が一度に通過するのは難しくなっている。
そしてや宇都宮公綱の軍は狭くなっている後ろの比較的広い地域にすでに布陣していて、こちらが無理に通り抜けようとすれば出口を塞がれた状態で城からうってできた武士に横逆されるだろう。
「さて、どうするかな……」
俺は楠木軍の先陣を務める神宮寺と話していた。
「まあ、佐々木道誉や土岐頼貞がまじってないのが救いだな」
神宮寺は苦笑して答えたが 新田義貞としても彼らは信用出来ないのだろう。
全兵力では負けているが佐々木や土岐を瀬田の守りに回している分ここ山崎の兵数ではこちらが勝っている。
ただし騎兵の数では負けてるのが痛い。
西国は馬の名産地が少ないので仕方ないがな。
「巣穴にこもってる相手をおびき出すなら巣をつついて逃げ出すしか無いか」
要するに釣り野伏だな。
しかし、歩兵主体の俺たちに機動力でまさる宇都宮や新田をうまくおびき出せるだろうか。
「ならば、その役目は私に任せていただきたい」
俺たちに話を聞いていた菊池武時が俺に言ってきた。
「これはかなり危険な役割だが……」
「なに、多々良浜で死にかけていた我らを救っていただいた恩返しでありますよ」
「ふむ……」
そこに声をかけてきた男が居た。
「危険であるというのならば、その役目この島津貞久にまかせていただきたい」
あー、鬼島津が出てきたか。
「菊池殿にも言ったがこれはかなり危険な役目だが?」
「危険を恐れていては武家は務まりませぬ。
時勢を見間違え薩摩守護を降ろされた我らに武勲の機会を与えていただきたい」
「わかった、島津勢で敵陣への攻撃を行いわざと負けて逃げてきてくれ。
潰走したとなれば勝ちに乗じて追撃してくるだろうからそこを討つぞ」
「では、よろしく頼みますぞ」
島津は2000の兵を率いて先陣切って敵陣へ突入した。
「俺達は沼地の後ろで待機する。
菊池殿は天王山方面を降りてくるやつを受け持っていただきたい」
「承知した」
やがて、敵陣突入から反撃を受けた島津軍が疑似敗走してきた。
実際に損害も結構出ているようだ。
「皆、持ち場につき弓に矢をつがえよ。
この戦いにわれらの未来がかかっている各自の奮戦を期待するぞ」
「おおー!」
島津の部隊を追ってきた宇都宮の部隊を横より弓でさんざんに射落としてから、俺達は槍を持って突撃した。
宇都宮方も奮戦しこちらにも少なからぬ被害が出たが、沼を迂回して宇都宮の後背をつくと兵は潰走して宇都宮公綱は降伏した。
一方の新田義貞も島津を追撃しようとして山を降りたところで菊池武時・阿蘇是直らの横からの攻撃を受けた。
そこへ反転してきた島津の部隊が襲いかかり新田軍も潰走した。
こうして、新田軍は島津の決死の囮作戦によって潰走し、京へ逃げ帰った。
敗北した義貞は京へと撤退し天皇と合流、山崎での大敗を受け、衝撃を受けた建武新政の帝と側近は比叡山へと避難した。
俺達はゆっくりと京の都に入り、土岐や佐々木は建武新政軍から俺たちへと降った。
島津は今回の功績で阿波守兼守護となった。
建武新政軍は比叡山に篭城して北畠顕家の援軍を再び待つ方針のようだったが、俺達は比叡山へ進攻し、その攻撃で千草忠顕、名和長年が討死、後醍醐天皇の愛人、阿野廉子の親衛隊とも言えるものたちはここにすべて倒れた。
しかし、比叡山そのものは落とせず撤退し、兵糧攻めへ方針を切り替えた。
やがて、こちらへ鞍替えした佐々木導誉が近江を制圧し叡山への糧道を断ち、叡山僧兵達が尾張・美濃方面への通路を切り開こうとしたがこちらは土岐頼貞が其れを阻み、比叡山の建武新政軍は兵糧の不足にあえぐことになった。
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