第33話 嵐の前の静けさ
後醍醐天皇が後宇多天皇に嫌われていたのは後宇多天皇と後二条天皇の母、西華門院基子とは仲が良かったが、後醍醐天皇の母の五辻(藤原)忠子とは不仲で、母親は後宇多天皇の父親の亀山法皇のところに幼い後醍醐天皇を連れて転がりこんだあげく、そのまま亀山法皇の愛人になってしまい、亀山法皇は幼いころから利発だった後醍醐天皇をを非常にかわいがっていたのだが、亀山法皇に後醍醐天皇よりも若い子供ができたあとはその愛情も後醍醐天皇からその子供に移ってしまったからだ。
もちろん後宇多天皇から見れば後醍醐天皇を愛せるはずもなかったろうが、後醍醐天皇から見れば理不尽な話だった。
そういった幼少の環境が後醍醐天皇の性格を歪めたのは間違いがないだろう。
現在の倒幕計画はある意味正中の変のときよりも後退していた。
後醍醐天皇にとってほぼ唯一の武力であった美濃源氏の土岐氏は倒幕計画から外れざるを得なかったからな。
そのかわりとして手に入れた戦力は畿内の大きな寺社勢力だ。
以仁王が比叡山延暦寺や園城寺、興福寺などを頼ろうとしたのと同じだな。
さてもう一つは文観が引き入れた真言密教立川流を信奉する武士や北条家に反発している伊賀兼光のような御家人や武装商人である悪党だな。
とは言え、日頃から戦闘訓練に明け暮れている武士とまともに戦って勝てるような戦力じゃない。
まあ、武士は学問や兵法を学んでるやつは少ないから付け入るすきはあるがな。
後醍醐天皇としては南都の興福寺や園城寺、東大寺にまず蜂起してもらい、そちらへ兵を出して六波羅が手薄になったところで比叡山に六波羅を攻撃させたいようだが、それでは比叡山だけが美味しいところを持っていくわけであるから南都の寺院が了承するわけがない。
そんな感じで相変わらず無謀な倒幕計画しかたてられない後醍醐天皇が中原章房を暗殺してゴタゴタしていた頃、鎌倉幕府側も内輪もめで揺れていた。
嘉元3年(1305年)の嘉元の乱のあと北条貞時は政務を放棄した、そして其れを支える内管領である長崎円喜・高資は腐敗政治を行って御家人たちから恨みを買っていた。
しかし、長崎円喜が貞時の行状を利用して自らに都合の悪い奏文は差し止めさせた。
政治を疎んじるようになっていた貞時は耳に優しいことばかりを言う長崎円喜を重用するようになり北条高時の補佐役として取り立てた。
そして1318年から1328年まで続いた蝦夷大乱は陸奥や出羽の治安を極端に低下させ、北条得宗の威信を低下させた。
北条貞時が病没し、北条高時は幼少だったために3代の中継ぎ執権を経て高時はようやく執権となったがその時には長崎円喜の権力は絶大だった。
さらに高時は体が弱く度々病となり太平記にあるような闘犬、酒宴、田楽に明け暮れ遊び呆けることができる体力もなかった。
蝦夷大乱が繰り広げられている1326年に北条高時は病の為に24歳で執権職を辞して出家するが、その後継を巡り、高時の実子邦時を推す長崎氏と、弟の泰家を推す安達氏が対立する嘉暦の騒動が起こる
長崎氏の推す邦時が執権職を継承するまでの中継ぎとして北条氏庶流の金沢貞顕を15代執権に推挙し貞顕は執権となったが、在職10日余りで15代執権を辞任し出家することになる。
赤橋守時が就任することでようやく収拾した。
こういった状況を憂慮した北条高時は長崎円喜・高資らを誅殺する計画を立てている。
恐らく蝦夷大乱の処罰の失敗が原因で長崎円喜、高資親子がこれ以上権力を壟断すれば鎌倉幕府が危ないと理解していたのだろう。
こんな風に朝廷側も鎌倉幕府側も内輪もめで忙しく、お互いにかまっていられる状態ではなかったが、零細の御家人は窮状に喘ぎ、小さな謀反が各地で起こっていた。
そんな中で俺が何をしていたかというと、各地に送った芸能を生業にするものや商人からの情報収集だ。
「まあ、どちらにしろすぐ動くつもりはないんだがな」
後醍醐天皇が何かあれば責任を下のものになすりつけて逃げ出す人間であるのはもはや疑いようがないから、俺は後醍醐天皇を直接支持するつもりはない。
負けたときはオロオロとうろたえ、勝てば自分の徳によるものだと本気で思ってるのは度し難い。
だからこそ大塔宮とは歩調を合わせるつもりであるのだが、大塔宮とだけ近づくというのは結構難しい状況では在る。
だからこそ慌てるべきではない。
いつも通り土地を開墾し、交易に励み、兵を鍛え、情報を集める。
一見平和に見える現状が嵐の前の静けさにすぎないことはわかっていた。
「長い長い騒乱の時代の到来を食い止められるだろうか、俺は」
生まれてきた子どもたちにためにも、なんとかしたいところだ。
俺は万里小路藤房や北畠具行には来年は京を離れなるべく俺のもとにいるように勧めた。
京にいれば万里小路藤房はともかく北畠具行は捕らえられて処刑されるからな。
この二人は割りと貴族らしくない貴族だから個人的には気に入ってるし、できれば死んでほしくはないと思う。
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