第24話 大塔宮護良親王との語らい
翌日、目を覚ました俺は朝餉を済ませた後、俺は人払いをして大塔宮と対面で話をした。
宮はいきなり聞いてきた。
「で、正成、今の時代をどう思う?」
オレは首を傾げた。
「どう、というのはどういう意味でしょうかね?」
宮は苦笑して言葉を続けた。
「そのままの意味だよ。
私は親王でしかも気がついたら坊主になっていて世情にはあまり詳しくない。
民とともに生きているお前がどう思ってるのか聞きたい」
俺は頷いて言った。
「なるほど、実際の所いい状態だとはいえないと思いますな。
北条の得宗とその側近の専制状態による腐敗はひどい。
京では六波羅が好き放題している。
税は高くなり寺社や地頭はかってに関を設けて通行税を取るから商いもやりづらい。
俺はそういうのは面倒なので河内や和泉、摂津には関を設けなかったから最近はこっちのほうが栄えてるくらいですな。
まあ、本来その御内人であり交易で金を得てる俺が偉そうに言えることじゃないが、
富めるものと貧しいものの格差は広がるばかりだ。
税を払えず子を川に捨てるものも少なくない」
宮は腕組みをして頷いた。
「うむ、やはりそうか。
私も長い間寺の中こもっていたせいでしらなんだが、旅に出てみてよくわかった。
今の世の酷い有様をな。
たしかに打ち捨てられた死体が路傍に転がっていることも少なくない」
「確かに寺で仏法を学ぶだけでは世のことがわかったことにはなりませんな。
俺も長く仏法やその他の学問を習ったがその全てが役に立ったとはいえません。
まあこれから役に立つこともあるかもしれませんが。
で、宮としてはどのような時代になればいいとお考えですかね」
「うむ、政治を行うもの腐敗が少なく、裁判に私情や賄賂が持ち込まれず税に苦しんで土地を投げ捨てたり子供を打ち捨てたりしないでも済む、そんな時代こそが望ましい。
武家がその武力を背景として好き勝手するようではいかん」
「理想は立派ですが、人間は欲を捨てることはできませんよ。
今上の周りの集まっている物を見ればわかるでしょう。
それに鎌倉幕府は実際に武士の武力を拠り所として権力を持ち好き勝手に振る舞ってるのは否めませんがね」
「うむ、だが其れは女狐の毒に当てられているだけかもしれんぞ。
私も今上の側近の中にあまり好ましく思えぬものがいることは認めざるを得んがな」
「たしかにそういうものもいるでしょうな。
しかし、そうでないものもいるでしょう。
先祖代々からの貴族どもなど、今の世では必要ですかね?」
「う、うむ、まあ、そうだな。
ところで……我が父である今上は幕府を倒さんとしておる。
其れは成功すると思うか?」
おや、俺と同じ未来からの転生者なら結果は知っているはずだが違うのか?
「俺は今よりはるか先の時代から来ましたからこの先が本来ならどうなるか知ってますが、そちらは違うのですか?」
「うむ、私は元は以仁王という名であった。
まさか平家も源氏も滅ばされ、北条などというものが権力を握っているとは思わなかったがな」
なるほど、そういうことだったか。
「なるほど、あなたが以仁王の生まれ変わりならだいたいわかると思いますが、今上は後白河法皇が延暦寺や東国の武士を用いて平家を潰そうとしたように寺社や北条に不満を持つ武士を用いて鎌倉幕府を潰します。
具体的に言えば、足利尊氏を筆頭とする武士団ですな。
そして、あなたは尊氏の台頭を阻もうとするがあなた自身が持つ兵力を恐れた今上や自分の子供を次の天皇としたい寵姫の阿野廉子によって謀殺されることになります。
まあ、その結果として日ノ本は、その後長い間戦乱の世となるのですがね。」
後醍醐にとっては軍事的名声を手に入れた大塔宮は尊氏よりも身近な政敵だったのだろうな。
無論、阿野廉子の入れ知恵も有っただろう。
「なんと、そうであったか……。
ではなんとしてでも、奸賊である阿野廉子や文観、円観を討たねばなるまい」
「だが、寺のことはそちらが、野での戦いは俺がなんとかするとして後宮に手出しをすることは難しいと思うのですが……」
「ならば我が実妹の妣子内親王を手がかりとするか?」
「内親王かならば、後宮に出入りしていてもおかしくはないが……連絡はどのようにしているのです?」
「文でやり取りをしている」
ふーむ……今のところはこれしか手立てはなさそうだな。
「では、そちらはそのように頼みます」
「うむ、わかった」
三面大黒に連なるものとして大黒と毘沙門がいるならば、弁才天もいるのだろう。
琵琶を持つ音楽の神なのか弓、矢、刀、矛、斧、長杵、鉄輪、羂索をもつ戦闘神なのか。
会ってみたい気もするが、まあ難しかろうな。
「これからも寄進の名目で三千院によらせてもらうことにしますよ。
流石に天台座主になられてしまっては、会うのは難しいだろうとは思いますがね」
「うむ、今後とも宜しく頼む」
そしてその後、彼は俺がやっている農地の開梱や水銀の採掘、堺などでの売買などを見ていったあとに、ふたたび旅に戻っていった。
「まあ、各地をその足で見て回れば世間の空気もわかるだろうし、決して無駄にはなるまいな」
なんとか彼には長生きしてほしいものだ。
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