正和三年(1314年)
第17話 楠家継承と異国警固番役
さて時は流れて正和三年(1314年)楠木一族の頭領楠木正澄が亡くなり、俺が楠木一族の当主となった。
理由としては母方の家格が一番高いということと、俺が一番財力があるということのようだ。
もちろん俺は大陸との交易を続けて行っていて結構な財産を持っていた。
そして交易で得た宋銭や大陸で買った綿を加工した衣服、砂糖、胡椒、領地で取れた干し椎茸、水銀などを鎌倉と朝廷に献上し続けていたし、寺社への喜捨も行っていた。
そういったものによるのだろう、俺は右兵衛少尉兼河内少掾に昇進した。
「ふう、俺が楠木一族の棟梁か……」
喪が明けた後、任官を受けた俺は細々とした雑務に追われていた。
「まあ、頑張れ、書類仕事は大変そうだな」
神宮寺が笑いながら言ってくるが実際に大変だ。
「笑ってないでお前も手伝え」
「そうはいっても、俺はただのお前の家人で、官位なんぞ無いぞ」
「別に無位無官だから書類仕事をしちゃいかんというわけではない」
「へいへい、じゃあ手伝いましょうかね」
俺は仕事のやり方を教えながら、神宮寺とともに書類仕事を勧めていた。
「兄上今戻りました」
俺の兵法などの学問の師匠である大江時親のもとへは今は俺の弟が通っていた。
「うむ、
どうだ、勉学の方は」
「なかなか難しいものですな、なかなか覚えられません」
「まあ、焦らずともいいだろう、俺も随分時間がかかったものだ」
「はい、頑張っておぼえるようにします」
正季とはだいぶ歳が離れているが、まあ珍しいことでもない。
「さて、そろそろ夕餉の時間か、今日はこれくらいにしておくか」
「ああ、いい加減肩がこるしな」
俺達は書類を片付けると、下女が作ったものを夕餉に食べてその日はねた。
・・・
一族の当主となった俺は兵の調練を行うようにした
平野で槍を持って戦う方法、山間部で太刀を持って戦う方法、そのどちらも行えるようにした。
弓は山に入って鹿などをかることで鍛えさせた。
訓練は基本的には山の中での戦いを優先させた。
軍馬は多少手に入れたが、俺と家人以外の兵は基本徒歩での戦いの訓練に専念させた。
馬術と馬上弓術を鍛えるには赤坂は向いた地形ではなかったし何より時間と金がかかりすぎる。
・・・
しばらくして俺に
異国警固番役というのは三ヶ月間、博多湾などの元の再度の襲来が危惧される九州北部の沿岸を警備する軍役だ。
御家人や御内人には大番役という京や鎌倉の警護が命じられ、京ならば皇居や院、摂関家などの屋敷を鎌倉なら鎌倉の軍御所や侍所などの役所施設を警備する。
平安時代末期は番役は3年勤務とかなり長かったが、源頼朝が半年勤務に短縮し、承久の乱以降3ヶ月勤務と大幅に短縮された。
武士と朝廷の間の力関係の変化がよく分かるな。
それでも負担は大きいんだがな。
もちろんかかる費用は自腹だ。
石築地役と言うのは防御のための石の塁を作ることだな。
基本的には九州の守護や御家人が行っていたが、今では全国の御家人だけでなく御家人でない荘園領主なども行うようになっている。
「ま、しかたない、行ってくるか」
「ああ、後は任せておけ」
神宮寺に留守を頼むと俺は500名ほどの太刀で武装した兵を率いて船で博多に向かった。
そして博多に到着した後鎮西探題の
金沢政顕は北条家の一門だ、とりあえず金品を献上してご機嫌伺いをしておこう。
俺の付届けを受け取った金沢政顕は上機嫌だった。
「この度のそなたの志、ありがたく思うぞ」
「は、我が兵は微力につき、もうしわけなく思います」
「いやいや、仕方があるまい、今後とも宜しく頼む」
「それでは失礼致します」
その後、阿蘇や菊池、大友や島津や少弐といった有力守護や御家人のところにも挨拶回りをして付届けを配った。
どこも、財政的には困窮していたからありがたられたが、特に菊池は喜んでいた。
「この恩はいずれ必ず……」
この一族は結構義理堅い一族のようだから、今のうちに友好的にしておくいのもいいかもな。
足利尊氏が九州に落ち延びて反後醍醐の兵を集めたとき、菊池だけは裏切らず尊氏と戦った。
それは菊池武時が、後醍醐天皇の綸旨を携えて、阿蘇氏、大友氏、少弐氏らと共に鎮西探題北条英時を攻めようとしたが大友、少弐氏の裏切りで菊池武時、阿蘇是直らは討ち死にした後もそうだった。
建武の新政の御前会議の席において、貴族共は菊池武時の命を賭けた戦いを知らん振りして恩賞を与えようとしなかった、俺が「武時は帝(後醍醐天皇)に一命を賭した忠臣第一の人」と後醍醐天皇に進言したことで、後醍醐天皇が、菊池家に充分な恩賞を与えるよう命じ、菊池武重は、父武時の武功を後醍醐天皇に評価され肥後の守に任ぜられた。
湊川の戦いに一族である菊池武吉が参加して俺と一緒に自害してるぐらいだからな。
尊氏よりも先に九州の豪族と友好関係が築ければ色々今後も変わってくるかもしれない。
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