第15話 この時代で動員兵力を増やすにはどうすりゃいいかね
さて、今のところ水銀を元手にした交易による上がりは順調で銭に関しては全く問題ない。
そのうち真珠の養殖などが成功すればそれらも利益を上げるのに一役買ってくれるだろう。
しかし、貿易による金儲けは手段であって目的じゃない。
問題があるとすればいざという時の動員兵力だ。
これが戦国時代であれば、家格に関係なく実力があれば主人を押しのけて土地の領主になり他の豪族や大名などを倒して土地を奪い領土を広げていけば、自然と動員兵力も増えるが、鎌倉時代末期の現在はそうは行かない。
現状は戦乱の時代というわけではないし、源平藤橘の家格の慣習がまだ大きすぎるのだ。
この時代では平安時代と同じくいまだに前九年の役や後三年の役のときに活躍した武官の清和源氏の血を引くものが、最も家格が高いとされている。
平清盛の居た桓武平氏や武官としての藤原氏はその下で、橘はさらにその下だ。
源氏は日本において天皇の子供や孫などの皇族が皇族から外れ、皇族に仕える臣下の籍に降りる際に名乗る氏の1つで、元になった天皇がたくさんいるためかなり多数の流派がある。
清和天皇の子孫であり、源頼朝などを産んだ清和源氏が日本では有名だが、家格では村上源氏が一番とされ、その系統が北畠だ。
そして赤松や名和などはその親戚筋だと名乗っている。
だから源氏を名乗っていても先祖の天皇は全然違ったりするから源氏だからといって必ずしも仲がいいというわけでもないし親戚だとも限らない。
平氏も
とはいえ治承・寿永の
で、源平合戦の頃の坂東で頼朝と同じ河内源氏の子孫だったのが常陸の佐竹、下野の足利、上野の新田、甲斐の武田、信濃の木曽などだ。
この内、足利は
もっとも新田義重の子の山名義範は足利同様早めに頼朝のところに行ったので、足利同様幕府の中で重要な地位を持てたし、室町幕府のときには重用されることになるんだが。
佐竹と木曽は討伐されたし、武田は弱体化されて当面の間日の目を見なくなる、これらの名前がもう一度歴史に上がるのは戦国時代だな。
そういうわけで、この時代の後の南北朝の戦いがほぼ足利軍対新田軍と北畠軍になるのは彼らが源氏の名家の生まれだからだ。
さて、そうなると単純に考えれば、俺が率いる兵の数を増やすのはかなり難しい。
楠木は河内守護の北条の代官にすぎないうえにここに来たばかりだからだ。
実際に楠木正成が運用できた兵数はせいぜい2千から最大で5千がいいところだが幕府軍やら足利軍やらは桁が一つ違う。
「さて、ならばどうするかな」
もちろん、現状で何万もの兵を集めるのはそもそも無理だ、海賊討伐の名目があるにせよ、それこそ六波羅に難癖をつけられる。
しかし、将来も同じでは心もとない、そのために行ってるのが壱岐での朝鮮半島からの元寇の際に連れ去られた日本人の奪回だ。
水軍の構築と育成にもなるし、恩を感じたり復讐の念から参加するものも増えてきた。
壱岐にとどまらず対馬、五島列島、博多周辺で被害にあったものは多いからな。
とは言え壱岐で養える人口は全部で1万五千程度、対馬はその半分くらい。
もちろん全員を兵として使えるわけではない。
だが、海上の戦力としてはそこそこの規模になりつつはあるのは頼もしい。
「ま、海上の戦闘ならそう簡単に負けるきはしないな」
原始的とは言え大砲も積んでいるから攻撃力はかなりのものだし、ローマン・コンクリートを塗って木材の腐食や火矢対策、フナクイムシ対策もできてる。
まあその分速度が少し遅くはなっているがな。
実際は大砲については虚仮威しの側面は強い、砲弾は実際にはほとんどあたらないのだ。
だが当たった時にダメージは大きい、発射音は恐怖を誘う。
「問題は陸戦だな……」
少数で多数を撃破するというのは、一見かっこいいが、実際には簡単にできるものではない。
だからこそ戦いで重要なのは数、兵数なのだが……。
家格や名声がつきしたがう豪族の数を左右する現状では北条の代官の俺に付き従う豪族の数は知れてる。
「重税から田畑をすてて逃げ出したり孤児になったものを保護する施設でも作るか?」
孤児院、この時代だと悲田院と呼ばれるものだな。
金はあるから施設を作るのは難しくないが運営を誰にやらせるかね。
別にすぐに結果が出なくてもいいし、うまくいくかは正直分からないがやれるだけやって見るとしよう。
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