第13話 船の上での砲撃訓練
さて、中国大陸が元の後継者争いと地方反乱が起こっている混乱に乗じて、官製武器の横流し品の武器を手に入れた俺はそれを壱岐に持ち帰って構造を調べ、石を切り出して丸く削って砲弾を作らせていた。
砲は重いので陸上での運用は難しい。
平野の少い日本では特に。
だが船に乗せて固定運用するなら使えるだろう。
「ふむ、大砲の構造についてはおおよそ後世のものと変わりないみたいだな」
無論後ろ側をパカっと開けて砲弾を詰め込めるタイプのものではないが、石を包むと書いて砲であるようにようは筒の底が閉じられたもので青銅を鋳造したものだ。
青銅は溶ける温度が低いので鋳物を作るのに適しているし、錆びにくい。
しかも、脆い銑鉄に比べれば素材としては使いやすい。
ただし青銅は合金なので材料としては鉄より高くなりやすいという欠点も有ったが、日本は銅が豊富でで鉄が少ないという珍しい国だ。
点火方式はこの時代では火縄や導火線がないのでやはりタッチホール式だ。
発射の仕方の基本は銃でも大砲でも同じでまず火薬のはいった袋を詰め、それが転がり出さないように「おくり」と呼ばれる布製の丸い蓋のようなものを入れ、その上に砲弾をいれて、また玉が転がりでないようにおくりをいれ、棒で突いて押し固める。
つぎに点火口に錐を差込み先に入れていた火薬の袋に穴を開け、発火薬を点火口に詰めて熱した鉄の細い棒を点火口に押し付けて爆発させる。
この手順にはおおよそ30分程度かかったから砲を一度撃ったら再装填にはすごく時間がかかった。
ただし、基本手で持って討つ銃と違い砲は砲車もしくは砲架に乗せて運用される。
最も原始的な臼砲は土に砲身を埋めて使っていたようだが、艦載の砲はそういうわけにはいかない。
俺はガレオン船などでそうしていたように砲架を載せる架台を小さな車の付いた台車にして、砲車が狭い船内で大きく後退して人を跳ね飛ばしたり轢いたりするのを防ぐためにロープで繋ぎ留めるようにした、とは言え後退自体はするので気をつけないと発射の時に引かれたり跳ね飛ばされたりの事故がおきるんだが。
「というわけで発射のときには砲の後ろには絶対行くなよ。
車輪に足を轢かれたり、跳ね飛ばされて死ぬほど痛いめを見たくなかったらな」
「へい、わかりやした」
しかしながら大砲を撃つと、砲弾を発射したガス圧などで、主に砲身の底を痛めるので、このころ砲は最悪数発撃てば壊れてしまうものだから運用はむずかしい。
練習で壊れちゃ意味ないからな。
まあ、構造自体は簡単なので鋳造をできるやつに作らせるとしよう。
戦闘中に一度発射したあとは、砲身を前から清掃したあとでもう一度弾込めをするわけだ。
俺は長年つかっていてボロくなった船を標的に砲撃の訓練を来なう。
人間を載せると危ないから藁人形で代理をさせる。
俺は船に砲や架台、砲弾やその他必要なものを載せて実際に船の上で訓練を行う。
「よし、まずはあっちの船に砲の向きを合わせろ」
「へい」
部下が砲を架台にのせてから向きを船に合わせる。
「で、舷側に縄でしばれ」
「へい」
船のヘリに縄で架台を地張りつける。
「それができたら大砲に火薬袋を詰めろ」
「へい」
部下が黒色火薬のはいった火薬を砲に詰めていく。
「詰め終わったらおくりでちゃんと蓋をしろ」
「へい」
指示通り布を詰めて火薬がこぼれ出ないようにする。
「それができたら砲弾を詰めろ、指を挟んだりしないように気をつけてな」
「へい」
2貫(おおよそ8kg)ほどの重さの丸く削って磨いた石を二人がかりで持ち上げて砲に押し込む。
「おくりを押し込んで、火薬をつき固めろ」
「へい」
おくりを押し込んで棒でガシガシ突き固める。
「よし、点火口から錐を刺し入れて袋に穴を開けたら、火薬を詰めろ」
「へい」
錐を差し込んで袋に穴を開けて、火薬を詰め込ませた。
「よし、じゃあ、点火口に焼き鉄を押し付けろ」
「へい、いきますぜ」
熱した鉄の棒の先を点火口へ押し付けると”ドォン”と火薬が爆発し砲弾が飛び出したが、目標には届かずに海へと沈んでいった。
「飛距離はこのくらいか、なるほどな。
よし砲身の中を掃除しろ」
「へい」
大砲の掃除が終わったら最初からやり直し砲弾をまた詰める。
船を近づかせてもう一度大砲を打たせると今度は船底に着弾した。
船底には穴が空き、石が砕けて破片が飛び散り藁人形に破片が飛び散る様子が見えた。
そして穴の開いた船は浸水して沈没した。
「甲板がない和船だと穴が空いたら一撃だな……。
高麗の船には甲板があるから簡単にはいかんだろうが」
「たしかにすげえもんですな。
しかし、手間がかかりすぎやしませんかね」
「確かにな」
単純に船を攻撃するだけなら火矢を用いたほうが楽かもしれないが、火攻めは両刃の剣でもある。
次は銃の改良だな。
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