第18話 密偵、背信、不実(2)

 外で、何か鈍い大きな音がした。

 わたしは目覚める。


 耳もとで、イリがはばたいた。


 寝台から起きあがって、窓から外を見る。通りで荷車が横倒しになっていた。

 人々は大騒ぎだった。


 イリがまた、ひとつ嘶く。

 わたしは、部屋にガルディーンの姿がないことに気がついた。

 外とはまったく反対に、部屋の中はしんと冷たい。


「ガルディーン……どこ?」


 自分の声だけが響いて、わたしは得体の知れない怖ろしさにとらわれてしまう。

 さして広くもない部屋に、視線をさまよわせた。


 ふと、寝台の上に置かれた書き付けに目が留まる。


 ――部屋の中にいるように。誰が来ても、戸はぜったいに開けてはならない。


 丁寧に書かれたサリトリアの文字。


 ガルディーンはいつ、出て行ったのだろう?

 わたしはどれくらい眠っていたの?


 部屋の暖炉の火は、かなり弱まっていた。

 窓の外の街は賑やかすぎて、どれほど夜が更けたのか、まるで解らない。


 ……怖い。


 胸のあたりがざわついて、いてもたってもいられない。

 通りの喧噪が部屋の静けさを際立たせ、わたしの恐怖を、どうしようもなくかき立てた。書き付けを握る自分の手が、小さく震えていることに気づく。


 このまま、ガルディーンが帰ってこなかったら……。


 なぜそんなことを思うのか、自分でも解らない。

 でもそう考えた瞬間、息が苦しくなった。


 わたしは外套を手に取ると、部屋の戸を開け、廊下へと飛び出した。


 長い暗い廊下。

 わたしは、どちらに行けばいいのかも知らぬままに駆け出す。


 やがて、階段に突き当たった。

 上り下りする人々の間をぬって、下へと足を進める。


 宿の入口がある広い部屋へと辿りついた。


 たくさんの人。

 部屋中に飛び交う、どこかで聞き覚えのある言葉や聞いたことのない言葉。


 わたしの視界が、にじんで歪む。

 すれちがう人が、わたしの肩にぶつかり、苛立たしげな溜息を吐き出して舌を鳴らした。


 どこにも、灰色の髪は見当たらなかった。

 あの大きな背中も。


 胸が激しく打って、喉の奥が締めつけられる。


 ガルディーン。

 くちびるは動いたが、声にならない。

 わたしは、ひっきりなしに人々が出入りする宿の扉を抜け、表通りへと足を踏み出した。


 暗闇に、無数のたいまつの光が浮かび上がる。 

 赤く小さな火の粉が、風に舞い踊っていた。

 けれど、すっかり夜の闇に沈んだ街では、たとえどれほどの明かりが灯されていたとしても、人々の顔は黒く翳り、表情すら良く解らない。


 石畳に映し出される無数の人たち。

 歩きすぎる人々と、その影。

 どちらが「影」なのか、だんだんと区別がつかなくなる。


 人々の足音と話し声、そして熱気。

 光と影がめまぐるしく交差して、わたしは目が回り、とても立っていられない。


 ――部屋の中にいるように。

 ガルディーンの「書き置き」を、そこでやっと、わたしは思い起こす。


 耳もとで羽音がした。イリがわたしの肩に舞い降りる。


 そうよ。部屋で待っていなくては――


 この街の雑踏の中からガルディーンを探し出すことなんて、とてもできない。

 だから部屋に帰らなくては。


 ふらつきながら宿の階段を上がる。

 自分が戻るべき部屋がどこなのか、それすらもひどくあやしい。

 そんなわたしを案内するかのように、イリが廊下を低く滑空した。


 部屋の戸の向こうに、人の気配がする。


 ガルディーンが戻ってきたのだ……。

 安堵と歓びがこみ上げた。


「ガルディーン!」

 戸を開いて呼びかける。


 荷の袋にかがみ込んでいた人影が、はたと顔を上げた。

 わたしは息を飲んだきり、声が出せない。

 部屋の中で、ガルディーンの荷を乱暴にかき回していたのは、顔中に濃い茶色の髭を生やした見知らぬ男だった。


 その男の手に、自分の腰帯が握られているのが目に入る。

 何を考えるよりも先に、身体が動き出していた。


「……いや。返して! 返して!」

 わたしは、男の手を掴み、帯に指をかける。


 とりすがるわたしの手を払い除けようと、男は立ち上がって強く腕を振った。

 頬に鋭い痺れが走る。目の前が白くなった。

 身体から力が抜けて、わたしは床にくずおれた。


「返して……お願い、その帯を持って行かないで」


 わたしは男の上着に手を伸ばして、懸命に掴む。

 被っていた外套の頭巾が滑り落ち、髪が波打って頬にこぼれかかった。

 それでも、わたしは必死に男に取りすがる。


 腰に、熱く鈍い痛みを感じた。

 男に蹴り飛ばされ、わたしは頭と背中を、壁にしたたかに打ちつけた。

 目の前の景色が歪み、音すらも良く聞えなくなる。


 わたしは部屋を出て行く男に、なおも手を伸ばそうとする。

 でも身体は、まるで動かなかった。


 男がふと、立ち止まって振り返り、わたしの方へと戻ってくる。

 そして手を伸ばして乱暴に、わたしの髪を引き掴んだ。


 男は目を瞠り、わたしに何ごとかを言う。

 意味はまるで解らない。ベルグの言葉なのだろうか?


 続けて、男はわたしを、床へと叩きつけるように引き倒した。

 男のくちびるが、わたしの口に押し当てられる。


 男の舌が口の中をまさぐった瞬間、激痛が走った。

 錆びた血の味を感じ、そこで初めて、わたしは、自分の口の中が切れていることに気がついた。


 背中と肩の骨が何度も固い床の上に叩きつけられ、擦りつけられる。

 痛みに叫び声を上げようとするのに、声は喉の奥に詰まって出てこなかった。


 下穿きの中に、男の手が滑りこむ。

 懸命に身をよじったが、わたしは男の腕から逃れることができない。


 腿の内側を撫で回す男の掌は、がさがさとしている。

 身体中の膚が粟立って、頬をひとすじ、涙が伝う。


 イリのはばたく音と鋭い嘶きが部屋に響き渡った。

 鋭い黄色の嘴で攻め立ててくるイリを追い払おうと、男の手が、わたしの脚から離れる。


 男の腕にイリがとまり、噛みついた。

 叫び声とともに、床の上に男の血が滴る。

 その刹那、わたしの上にあった男の重みがかき消えた。


 そして鈍い音がした。

 次の瞬間、少し離れたところへ男の身体が投げ出される。

 男はそのまま、ぴくりともせず、ただ物のように転がった。


 大きな暖かい掌が、血で汚れたわたしの頬を包む。


 その人の広い背中に腕を回したい。

 そう思うのに、身体が思うように動かない。


 何度も彼を呼んで安堵したいと願うのに、くちびるからは声が出てこない。


 その人の揺らめく灰色の瞳。

 黒目がちな大きな目、それを縁取る髪と同じ色の長い長い睫毛が震えている。

 それを、ただ見つめて――


「ガルディーン……」

 わたしは、やっとのことで呼びかけた。


 けれど呼び名の持ち主は、瞳に白い炎を燃え立たせ、荒々しくわたしの声を遮る。


「なぜ、言うことを聞かない?! なぜだ?」


 ガルディーンの声は怒りにみち満ちていた。

 わたしはすっかりと怯えてしまう。


「『誰が来ても開けるな』と……『戸を開けるな』と書いておいただろう、テラ・スール?!」


 謝ろうと口を開くが、一切、声にならなかった。

 ただ、ガルディーンの外套の袖を懸命に握りしめる。


 指が震えてうまく力が入らない。

 指だけではない、足も、肩も、身体中が震えて仕方がなかった。


 ガルディーンは深い溜息をつくと、わたしのくちびるから溢れる血を、長い指でそっと拭う。

 髪を撫で、頬を撫で、その大きな掌でわたしの肩から腕をゆっくりとなで下ろす。

 そして、ガルディーンの大きな胸の中に、わたしは抱きすくめられた。


「……ないで」

 言葉がやっと、声になる。

「だまって……いなくならないで」


 わたしは、ガルディーンの首もとにすがりついて言う。

「もう、眠っているときにいなくならないで、お願い、ガルディーン」


 ガルディーンの手が、わたしの背中をさする。

 まるで、ひどく傷む場所が分かっているみたいに、ゆっくりと何度も何度も。


 わたしは、ガルディーンに震える身体を強く押し当て、声を絞り出した。

「……ガルディーン。置いていったら、いや」


「あなたを『置いて行く』などと。俺が信じられないのか? テラ・スール」


 触れている大きな胸板から、ガルディーンの低い声が、じかに身体に響く。

 その声の固さと冷たさに、わたしは思わずガルディーンを見上げた。


 違う、そうじゃない。

 激しくかぶりを振って、ガルディーンに訴える。


 でもガルディーンは、わたしを見ようともしない。

 そして、鋭い溜息を吐き、わたしを押しのけるようにして立ち上がった。


 わたしは床に座り込み、言うべき言葉も見つからないまま、ただ彼の背中を見上げる。


 わたしは、ガルディーンを怒らせてしまったの?

  

 「信じていない」んじゃない。

 ガルディーンを「信じてない」なんて。そんなことあるはずない。


 ただ怖かった。ひとりぼっちにされて。

 この賑やかな大きな街の中、たったひとりで目覚めたのが、どうしようもなく心細かっただけなのに……。


 大きな背中は、わたしの言葉を拒絶するかのように固く強ばって見えた。

 ガルディーンは床に倒れている男を足で蹴って転がし、その身体をあらためている。


 男が盗みだそうとした物を取り返すと、ガルディーンは片手で男の襟首を掴んで、床を引きずる。そしてそのまま部屋を出た。


 何かが階段を転がっていく音がした。

 最後に、ひとつ大きな鈍い音がして、それが終わる。


 足音が近づいてきて、ふたたびガルディーンが部屋に入ってきた。

 ガルディーンは、ひどく鋭い視線をわたしに投げかけ、口の端を歪める。


 謝らなくては。

 そう思うのに。


 ガルディーンの態度があまりに棘に満ちていて、わたしは、なんて言ったらいいのか、もうまるで解らなくなった。


 男に蹴りつけられた横腹が痛んで、立ち上がることができない。

 口の中だけではなく、頬やこめかみも、ズキズキと疼く。


 途方に暮れてしまったわたしは、床に座り込んだまま、ガルディーンを見上げ続けた。


 すると、ガルディーンの腕がわたしへと伸ばされる。ガルディーンは、わたしの腰を両手で掴み、抱え上げようとした。

 痛む部分に触れられて、わたしは思わず悲鳴を上げる。


 ガルディーンが、一瞬、動きを止めた。

 だが、ひとつ苛立たしげな吐息を洩らしただけで、そのままわたしを持ち上げて寝台の上へと座らせた。


「……ここが痛むのか?」


 さっき掴んだ部分に、ガルディーンが、また手を置いた。

 わたしは唾を飲み込み、小さく頷く。


 ガルディーンは、わたしの服を捲り上げようとした。

 わたしはそれを押え、なんども首を横に振る。


「だめだ、見せるんだ、テラ・スール」


 ガルディーンが、わたしの手を払いのける。そして、乱暴に下穿きを引き下げた。


 蹴られた部分に、ガルディーンの指先が触れる。

 焼けるように痛みが走ったが、両手で顔を覆って、わたしは悲鳴を押し殺した。



□□□



 廊下を歩いていると、イリの嘶きと男の叫び声が、耳に飛び込んできた。

 戸を押し開けて、部屋の中へと駆け込む。


 テラ・スールの上に男が圧し掛かっているのを見た途端、俺の頭の中は真っ白になった。


 男の背の急所に拳を打ちつけて気絶させ、テラ・スールから引き剥す。

 テラ・スールの頬が赤く腫れ、口の端から血が流れているのを目の当たりにして、俺は言葉を無くした。


 この男は何者なのだ?

 正体を失って床に伸びている男の身体を検める。


 どうやら、俺の薬草の袋とテラ・スールの帯を持ち出そうとしていたようだ。


 ただの盗人だろうと、俺は判じた。

 蒼の王の間諜ならば、不用意に誰かを……ましてや、テラ・スールを傷つけるとは思えない。


 俺は、その男を廊下の突き当たりから階下に蹴り落した。


 それにしても、テラ・スールは、なぜこんな者を部屋に入れるようなまねをしたのか?


 鍵が壊された痕もない。中から戸を開けたのだ。


 ああ……もし、あとほんの僅かでも、俺の帰りが遅れていたら?

 そう考えると、頭が熱くなり目が回る。


 テラ・スールは声も出せないほど、怯えて震えている。

 だが俺は、一体何と言って彼女を宥めたらよいのか、もうまるで分らない。


 床から抱き上げようと、身体に触れた瞬間、テラ・スールが悲鳴を上げた。

 その切ない声を聞き、俺は背筋に冷水を流されたような心持ちになる。


 いやいやをするテラ・スールを抑えつけ、下穿きをおろして痛がる場所を確かめた。


 雪のような膚に、大きな赤黒い痣が広がっている。

 俺は、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。


 テラ・スールは両手で顔を覆い、じっと痛みをこらえていた。


 あの男に蹴りつけられたのだ――

 そう解った瞬間、階段を駆け下り、とどめを刺してやりたくて堪らなくなる。


「……他に痛むところは?」


 そう訊ねても、テラ・スールは、ひと言も答えなかった。

 ほかに怪我がないか確かめようと、俺は彼女の服に手をかけた。


 テラ・スールは嫌がって、また身体を固くする。俺は半ば無理やり、服を引き剥がした。


 肩と肘にもひどい痣があった。腫れて熱をもっている。

 膝の擦り傷からは、血が滲んでいた。


 冷たい水を取ってこようと、俺は立ち上がった。

 するとテラ・スールが震える指で、俺の袖を掴む。


 俺は黙ったまま、その指を解かせ、部屋を後にした。


 階下に降りると、くだんの客引きの子供が、帳場の前に佇んでいた。

 少年は俺に目を止めると、すぐに急ぎ足で近づいてきた。


「ちょうどよかった、冷たい水が欲しいのだが、氷でも雪でもいい」

 

 俺は客引きの少年に頼む。

 少年が、怪訝そうに俺を見上げた。


「……傷の手当をしたいのだ」


 そう付け足すと、少年の表情が途端にこわばった。

 そして、すぐに俺の袖を引いて歩き出す。


 少年は、宿の建物のすぐ裏手にある厩まで、俺を引っ張っていった。

 桶一杯に綺麗な雪を掬って、俺に手渡す。


 ふと、俺たちが乗ってきた馬に目がとまった。


 丁寧に毛づくろいがされ、足裏も掘って洗ってあった。

 馬房に厚く敷き詰めてある寝藁も新しく、踏みしめれば、パリパリと音を立てそうなほどだ。


 誠実な仕事ぶりだった。

 俺の張りつめていた心が、すこしずつ解けていく。


 俺は、馬と雪の両方に対して、少年に礼を言った。

 しかし、客引きの子供の表情はひどく暗い。

 まるで、なにかに怯えているかのように――


「どうした?」


 顔を覗き込むと、少年は俯いて視線をそらす。

 重ねて訊ねるれば、半分泣きそうになりながらも、少年が声を絞り出した。


「……あの綺麗なサリトリアのお嬢さんが、怪我をしたんだね?」


 無言のままの俺に、少年が、ふたたび口を開く。


「ごめんよ、おれのせいなんだ」

 客引きの子供の目から、涙があふれ出した。


「一体、どういうことだ?」


 なるべく穏やかに訊ねたつもりだった。

 だが、少年はしゃくりあげて泣き始める。

 ひとしきり泣いて、少年は声を震わせながら、こう続けた。


「ほんとは嫌なんだ、俺は。でも、やらないとダートが……帳場のヤツが、俺をここの馬番から追い出すって。そうなったら、俺も…母さんも喰っていけないよ」


「帳場人がお前に何をさせるのだ?」


「……部屋から客が出たら、おれが見てて、それを知らせるんだ。ダートから合鍵を貰ってるヤツにさ。それでそいつが、客の留守の隙に部屋に入って……」


「なんてことだ?! そんなことをしていたら、この宿は商売にならないだろう? 『信用』というものがまるでなくなる」


 俺の声に、少年は怯えて肩を震わせた。


「だ、だから。ひとつの部屋からは、ほんの少ししか盗まないんだよ。気づかないままの客もいるし。もし失せ物に気づいても、大した額じゃないから、結局諦める……でも、この宿は大きいだろう? だから……」


「ひとつ所からのあがりは『わずか』でも、いくつかの部屋にもぐりこめば『それなり』の身入りになるってわけだな」


 なるほど。

 ダートとかいう、あの帳場人も、「鍵を渡す見返り」にいくらか「分け前」を手にするのだろう……。


 すると、そんな俺の気持ちを読んだかのように、少年が口を開く。


「違う、仕切っているのは盗人じゃなくてダートの方だ。『あがり』は全部ダートが集めて、盗人は分け前を貰うだけだ」


「……お前もいくらか貰うのか?」


「貰わないよ! おれが取る金は、宿に客を引いてきた分と馬の世話代だけだ。あんなこと……やりたくてやってるんじゃないんだ、ほんとだ!」

 少年が激しくかぶりを振る。 


 その言葉を、俺は無条件に信じた。

 この子供の馬の扱いから、正直な心根が知れたからだ。


 そして、少年は、ふたたび声を詰まらせながら言う。

「ダートは……『もし部屋がお嬢さんだけになったら、まず自分に知らせろ』って、そう言ったけど。でも、おれは知らせなかったんだ」


 あの帳場人め……。

 少年の言葉に、俺の怒りの先が、またひとつ増えた。


「あんたが部屋を出て行って、しばらくしたら、あのお嬢さんも外套を着て、部屋から出てきたんだ。だから今なら、あの人も危なくないって思ったんだ。それで知らせたんだよ。盗みを早く済ませてくれればって。誰もいないうちに、みんな済ませてくれって思って。そしたらお嬢さんはすぐに部屋に戻ってきちゃったんだ。それで、おれ、どうすることもできなくて……」


 「誰が来ても戸を開けるな」などと。

 そんなことを言い置いたところで、盗人が「合鍵」を持ってやって来たら。

 テラ・スールとて、何を防げるはずもない。


 喉に苦い笑いがこみ上げた。

 彼女に叱りつけるような口をきいたことを思い返し、俺は情けなさに打ちのめされる。


 置いていったらいや――


 そう、テラ・スールは言った。

 そして、俺は、そんな彼女を「俺が信じられないのか」となじった。

 あんなに怯えていたのに。


 そうだ。

 テラ・スールは「不安だった」のだ。

 見知らぬ部屋に取り残されてひとりでいることが、ただ怖くて、震えていただけだ。


 なのに俺は。

 あんな風に苛立ちをぶつけて――


 そんな自分自身に対し、さらに憤りがこみ上げ。

 俺はただ、奥歯を強く噛みしめるしかなかった。



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