第14話

 とある昼下り。

 俺は、コーヒーを飲みながら渋い顔をしていた。

 別にコーヒーが不味い訳ではない。先日、心霊調査員である浮雲うきぐも論理ろんりさんに俺の部屋に住まう幼女幽霊、優奈ゆうなの未練に関する調査を依頼した。したのはいいのだが、2週間経った今もあまりかんばしい成果をあげられていないらしい。

 定期的に調査の経過報告を聞いているのだが、そこでも「あまり進展はないね」ということがほとんどだった。

 しかしながら、急いではいないとは言え、何だか落ち着かない。

 何もできないので、待つしかないというのが、かなり歯がゆい。

 優奈自身は、あまり未練をどうのこうの思っていないかもしれないが、命を落としてもなお諦めきれない想いを抱えているのは、事実だろう。

 それなら、早めに見つけてあげたい。きっとそれが、優奈にとってもいいことだろうし。

 すっかり冷めたコーヒーを一口飲んだその時、テーブルに置いていたスマホがブルブルと震えた。電話のようだ。

 スマホの画面には、浮雲論理の文字が表示されていた。

 俺は、慌てて口の中のコーヒーを胃へ流し込むと、電話に出る。

「はい、阿部あべです」

「おっすおっす、論理おねいさんです」

「なんすか、そのしゃべり方」

 何かのネットミーム……?

 論理さんは、俺のツッコミなど気にする様子もなく続ける。

「さて、優奈ちゃんのことなんだけどね。どうやら、阿部君のいる町から電車で2時間くらい行った町に住んでいた可能性が出てきたんだ」

「結構、離れてますね」

 てっきり隣町くらいの距離間かと思っていたが、全然違った。というか、そんな範囲で捜索してくれていたのか。

 真剣に仕事に取り組む姿勢は、妹である浮雲倫理さんと似ているみたいだ。流石、双子である。

「さて、調査も大詰めかもしれない。いい結果になるよう、祈っていてくれ」

「はい。……ところで、論理さん」

「なんだい?」

 俺は、気になっていることを恐る恐る聞いてみる。

「あの、結構な捜査期間になってますが、調査料って……」

 ちらりとテレビの方へ視線を向ける。視線の先には、優奈がゲームに熱中していた。

 昨日のことである。

 優奈がぽつりと、「論理の調査って、どのくらいお金かかるんだろー?」と無邪気に言った。

 優奈のことで頭がいっぱいで、お金のことなど全然考えていなかった。

 論理さんと俺の間で、しばしの沈黙。

「阿部君」

「はい」

「ファイト☆」

 論理さんは、それだけ言うと電話を切ってしまった。

 ……しばらくもやしメインで生活するか?

潤一じゅんいち、なに話してたの?」

 ゲームがひと段落したのか、優奈が俺の側に寄ってきた。

「いや、少し世知辛い話を」

 俺は、心で冷や汗をかきまくりながら答える。

 まぁ、直近で大金を使う予定はないから、大丈夫か。

 そう思った矢先だった。

「あっ!」

「どうした、優奈」

「潤一、来週の金曜日、私の誕生日だ!」

「……へ?」

 ご馳走ちそうとプレゼント、用意してやらねぇとなぁ!

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