第13話

「ほうほう」

「おぶおぶ」

「これはこれは」

「むぶちむぶち」

「いいねいいね。こんなにはっきりとした子は、久しぶりだ」

「じゅ、潤一じゅんいち。助けて」

 優奈ゆうなのヘルプに俺は、そっと首を振る。

 優奈が少し悲しそうな顔をした。すまん、でも、その人を止めると面倒くさそうなんだ……。

 そう。嬉しそうに優奈をムニュムニュと触り続けている女性。

 浮雲うきぐも論理ろんり。俺のアパートの隣人である浮雲倫理りんりさんの双子の姉。

 双子というだけあって、顔のつくりなんかは、倫理さんとほぼ変わらない。しいて言うなら、論理さんは、倫理さんにはない泣きほくろが右の目もとにある。あとは、髪型が違う。倫理さんは、茶髪のウルフカット。対する論理さんは、うなじに届くかどうかという長さの黒髪のポニーテールだ。

 しかしながら、見た目は少し違うが、中身はほぼ一緒だった。

 ひょうひょうとしていてつかみどころがない。行動が予測不可能なのだ。

 優奈を見て、いきなりムニュムニュと触り始めたし。というか、現在進行形でやっているし。というか、もう5分くらいやっているじゃないんだろうか。

 流石に話を進めたいので、勇気をだして話しかけてみる。

「あの、論理さん」

「ん、ああ。すまない。テンションがあがってしまった」

 そう言って、ようやく優奈を開放する論理さん。優奈は、少し涙目になっていた。まぁ、初対面の人に5分以上ムニュムニュされたら、怖いわな……。

「で、阿部君。この優奈ちゃんの未練に関する調査を希望するんだね?」

「ええ、お願いできますか?」

「うん、全然大丈夫」

 意外とあっさりだった。

「依頼を受けるのは、構わない。だけど、わりと時間がかかるかもしれないのは、ご了承いただきたいね」

「時間がかかる?」

 論理さんは、煙草を取り出すが、吸おうとしたところを倫理さんに止められた。渋い顔をして、論理さんは話し始める。

「倫理から聞いてるかもしれないが、この地区で事故や事件ってここ数年は聞いたことがなくてね。もしかしたら、優奈ちゃん自身は自覚がないかもしれないが、かなり時間が経っている可能性もある。あるいは――」

 論理さんは、ちらりと優奈を見て、それから俺に視線を戻した。

「もっと遠い場所で未練を抱えているって、場合もある」

 遠い場所。このアパートで死んだってわけではない、ってことか。

「ま、そこは任せておくれよ。これでもプロだからね」

 そう言うと、論理さんは、下手なウインクをした。こう言うところも似てるのね。

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