第10話

「会議をします」

「はい、じゅんいちぶちょー!」

 なんか勝手に部長にされたが、置いておこう。

 先日のことである。俺は、アパートの隣人である浮雲倫理うきぐもりんりさんから、この地域で物騒な事件が起きたことがない、という証言を聞いた。

 だが、俺の部屋は事故物件で、実際に目の前に幽霊である幼女、優奈ゆうながいる。

 今まで「あー、なんか起きてこの部屋にいついているんだろーな」と深く考えたことはなかったが、この幼女幽霊は一体何者なのか知りたくなった。

 もし、優奈が幼女らしく迷子になっているとかなら、送り届けてやらないと。見ず知らずの俺と一緒にいるより、おそらくいるであろう保護者的な存在の元にいる方が、こいつも幸せだろうし。

 なので、優奈について深堀してみることにした。

「優奈。お前、何でこの部屋にいるんだ?」

「うーん、覚えてない!」

「お前は、この辺で死んでしまったのか?」

「えーと、覚えてない!」

 ……マジで手がかりないの?

 やっぱり頭を強く打って記憶喪失になった可能性がある。幽霊に記憶喪失があるのかどうか、眉唾物まゆつばものだが。

「何でもいいんだ、優奈。覚えていることはないか?」

「ん~……」

 これは、ダメそうだな。どうするか……。

「あ、思い出した!」

「やっぱりか……、ってぱおうぃ!?」

 変な声が出たじゃねぇか!

 でも、これで何かわかるかもしれない。

「で? 何を思い出したんだ?」

「えっとね、お母さんがいたの」

「お母さん?」

 優奈は、コクリとうなずく。

「優しくて、私といっぱい遊んでくれたの。お仕事で忙しそうでも、毎日ご飯作ってくれたの」

 優奈は、うれしそうだが、どこかさびしそうだった。

 ……辛いことを思い出させたかもな。

「優奈は、お母さんに会いたいか?」

「うん!」

 これで、道筋は見えた。

 優奈の未練は、もう一度お母さんに会うこと。

 道筋は見えたが、手がかりはほぼない。

 さて、どうしたもんかねぇ。

「ところで、じゅんいちぶちょー」

「なんだ?」

「お腹が空きました」

 言われて、時計を見るともう19時だった。夕食時である。

「よし、なんか作るか。何がいい?」

「ハンバーグ!」

 めんどくさいものをリクエストしてくれるな……。

 まぁ、今日はいいか。

「ところで潤一じゅんいち。なんで急にお母さんのこと、聞いてきたの?」

「んー、ちょっと気になっただけだよ」

「あ、分かった!」

「? 何がだよ?」

「潤一は、人妻フェチに目覚めて――」

「はい、晩飯のメニューはピーマンの肉詰めに変更でーす」

「すんませんマジ勘弁してください!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る