第8話

「そう言えば、優奈ゆうなちゃんって、阿部あべ君が出かけているとき、どうしてるの?」

 バイト中、北上きたがみ先輩がそう尋ねてきた。

 現在は、商品の陳列中。人気漫画の最新刊を平積みしていた。……漫画が好きというだけで、本屋のバイトにしたが、意外と重労働だよな。本って、量があると重いし。

 それにしても、優奈か。あいつは……、あいつは……?

「……何してるんでしょうね?」

「……把握してなかったんだね」

 北上先輩の言う通りだった。

 確かに、あの幼女幽霊、優奈は俺が留守の間何してるんだ?

 一応、俺の部屋にはゲームやら漫画やら暇をつぶせるものは多い。だが、それも飽きが来るだろう。案外、ドアをすり抜けて、外へ遊びに行ったりしているのだろうか?

 先日、北上先輩が俺の部屋に来た時、優奈が俺以外の人にも見えることは分かった。外に出て、北上先輩と同じように見える人と遊んでいるかもしれない。

「帰ったら、聞いてみたら? ずっと暇してるとかなら、可哀かわいそうじゃない」

「そうですね」

 でも、もし変なことしてたら、あいつ隠しそうなんだよな。

 ……ペット用カメラでも買うか?


 バイトが終わった昼時。今日は、早上がりだった。外が明るいうちに帰れるのは、なんだかうれしい。

 ペット用カメラを家電量販店で見てこようか、少し迷ったが、そもそも優奈がカメラに映るか分からないので、一旦スルー。

 さて、昼飯をどうするかだな。……乾麺のそばがあったし、それにするか。油揚げもあるし、きつねそばにしよう。

 優奈に飯を作るようになって料理スキルが上達している気がする。いいこと……なんだろうか?

 そんなことを考えていると、家に着く。

 ドアを開けると、ベッドに寝っ転がりながら漫画を読んでいる優奈がいた。

「おー、潤一じゅんいち、おかえりー」

「おう、ただいま。飯作るな」

「やったぜ、ベイビー!」

 手を洗って、そばを準備する。って、そうだ。あのことを聞かなくては。

「なぁ、優奈。お前、俺がいないとき、何してるんだ?」

「うん? ゲームか漫画読んだり、あと潤一の本読んでる」

「へー」

 なんというかおおむね予想通りだった。……ん? 俺の本?

「俺の本? 俺の本って、なんだ?」

「こーいうのだよー」

 そう言って、棚から一冊の本を抜き取り、料理中の俺に見せてきた。

 え、これって……。

「大学の教科書!?」

 そう、それは、大学の講義で使用する教科書と指定された、学術書だった。

「え? お前、理解できるのか、これ?」

「うん。そんなに難しくないよ?」

 幼女幽霊、優奈の驚愕きょうがくの特性その4。

 めちゃくちゃ勉強ができる。

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