第5話

「ねぇ、今度さ、阿部あべ君の家に遊びに行ってもいい?」

 バイトの休憩時間中。突然の申し出に、危うく口の中のコーヒーをぶちまけるところだった。

 軽くむせる俺に、遊びに行きたいと言った張本人で、バイト先の先輩でもある北上きたがみ美緒奈みおな先輩は、心配そうにこちらを見ていた。

「……えっと、むせるほどおどろくこと?」

「いえ、まぁ、確かにびっくりしました……」

 俺は、どうにかごまかした。だが内心、汗でだくだくである。

 北上先輩は、単純に俺の部屋に遊びに来たいのだろう。俺がすすめて以来、今までやってこなかったゲームにもはまったようだし。遊びに行きたいと言ったのも、話題の新作ゲームを俺が手に入れたという会話の流れからだった。

 下心のない純粋な申し出だし、少し前の俺なら普通に招いていただろう。

 だが、今は違う。家には今、不本意ながらできた同居人がいる。

 幼女幽霊、優奈ゆうな

 あいつがいるのを見られるのは、マズい。

 幽霊と同居とか、奇怪な目で見られることが確定してしまう。

 ただでさえ、俺自身の見た目のせいで、怖がられて友人が少ないというのに。そんな友人たちから、変な目で見られるのは避けたい。

 ……いや、待てよ?

 そもそも優奈は、俺以外の人間に見えるのか?

 仮に見られても、親戚の子を預かっているとかにすれば、切り抜けられるのでは?

 そう考えると、なんとなくいけそうな気がしてきた。

 俺は、北上先輩に向き直る。

「俺の部屋に来るのは、かまいませんよ。いつにします?」

「んー、今日はダメかな? 来週少し忙しそうなのよね」

 今日、か。まぁ、問題ないだろう。

「いいですよ」

 そうと決まれば、優奈に連絡を……。

「あ、もう休憩終わるね。あとちょっと頑張りましょう」

 時計を見ると、休憩時間の終わりまであと3分もなかった。

 これでは、優奈に連絡ができない。だ、大丈夫だよな……?


「へー、今親戚の子が遊びに来てるんだ」

「そうなんです。もしかしたら、迷惑かけるかもしれません」

「大丈夫。私、子供好きだから」

 何気ない会話をしつつ、伝えるべきことを伝えた帰り道。

 北上先輩は、バイト中はまとめていた髪を降ろしていた。降ろした髪は、綺麗な黒髪だ。結構長く肩甲骨の少し下まで伸びている。服装もジーンズに白いシャツとシンプルだが、良く似合っている。

 対して俺は、黒いパーカーにチノパン。おまけに自前の三白眼。

 ……釣り合ってねぇ。

 少しへこみながらも、俺の部屋に到着する。

 頼む、優奈。普通にゲームしててくれ!

 意を決して、ドアを開ける。

「ばぁ!」

 そこには、天井から逆さまになって上半身のみを出している優奈がいた。

「え! あ、え!?」

 当然ながら、驚く北上先輩。

 そして、知らない人を見てこちらも驚く優奈。

 そして、最後に。

「てんめぇぇえぇぇぇぇえぇええ!」

 驚きを通り越して、ブチギレる俺がいた。

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