END.僕たちの恋と革命の物語

「中央区に学校を立てちゃダメだなんて、そんなのわかんないじゃないですか...」


「えっ、シエルちゃん、もしかして私のせいにするんですか!?

ダメですよ。

これは全部、星なる神の適正がないくせに余計なことをした...


王族だからって甘やかされて育って、なんでもさせてもらえるからって調子に乗って、やりたい放題好き放題したロゼットくんが、招いた事態なのですから!」


「うるさい!」

シエルは精一杯声を張り上げた。


コズミキ=コニスは表情をしゅんとさせた。


「イービルデモンズ平原とか...カースブラッド盆地とか...そう言う名前ならともかく、ただの中央区ですよ...?」


「ありがとう、でも...許しなんか、僕にはいらないよ」


「許したりなんかしません!!」

シエルはもっと精一杯声を張り上げた。


「私は、あなたがしてくれたことをなあなあにしたりなんか...絶対にしません!」


「!?」


「私は、許したりしません。あなたがしてくれたことを、なかったことになんかさせません!!」


俯いていた僕はその声を聞いた。つい彼女の方を向いた。


「あなたが学び舎を作らなきゃ、私とサマーちゃんはきっと今ほどは仲良くなれなかった...

きっと、私たち以外の生徒の間にも、そんな関係があったはず...


だから、感謝しています。私は、あなたに感謝しています!!」

2回、念を押して言われた。


するとトキロウが言った。

「言ってなかったんけど実はおれ、家出先を西の禁足地に選んだのって、ロゼットが作ったっていう料理をミルクシェ王女...彼女からもらったからなんだ。」


トキロウは僕の瞳をみた。

「そこに行ったら、もしかしたらまだお前が生きてるんじゃないかって、なんとなく思ったから西の禁足地に......ここに来て、お前にまた会ったんだ!」


「あなたは人を殺したり傷つけたわけじゃありません。

作ったんです!学び舎を!人と人との絆を!」


「いいえ、壊したんです!私のためにね!!」


するとサマーが言った。

「ロゼット、あなたがうちのお城の前に来てくれたことがあったでしょ?

その時ロゼットが、豊穣の化身タ・ケノコ・スの着ぐるみを着て踊ってくれたこと。

今でも憶えてる。」


サマーは僕の瞳をみた。

「他の人にはあんなことできない。ロゼット、あなたは最高のダンサーで、最高の着ぐるみ職人で、最高の王子で...最高のロゼット。」


「そうです、ロゼットくん!あなたは最高なんです!」

シエルが言う。


「いいえ、最低です!!」

すぐさまコズミキ=コニスが口を挟む。


「最低なんかじゃありません!!!」

しかし更にすぐさま、シエルが言った。


「最高...それもただの最高じゃない。


ロゼット=フラストノワール!

あなたは私の知る中で"世界一の料理人"で、そして"史上最高の王族"です!」


「史上最高?小娘が偉そうに!何を根拠にそんなことを!」


「私はあなたに憑依されたことで、あなたの記憶を見ました!」


「っ??」


「あなたは封印されながらも、そのしいたけの切れ目みたいな十字の入った"魔眼"で、外の世界を...歴史を見守り続けていた。


あなたはお姉さんが嫌いと言いながら、お姉さんが守った世界から、お姉さんが仲間たちと作った国々から、ずっと目を離せずにいました!!」


すると古代の星の国の王は一瞬たじろいた。


「彼が最高な根拠は、紛れもないあなたの記憶そのものです!!!!」


しかし彼女は開き直って言った。


「!?........そ、そうです!

私やあなたたち王族は、所詮生まれ持った力のおかげで快適に過ごせているだけなのです!


星の目、月の頭脳、風の足、鳥の手、花の髪、常人が持ち得ない血族の力があるからこそなのです!」


「......だからなんなの?」

サマーは言った。


「えっ...!?」


「私たちは私たち。」


するとトキロウは続けて言った。

「そうだ。おれはおれ。王族とか巫女とか以前に、一人の人間なんだ。

知らん能力がどうとか今更言われたところで、そんなことどうでもいいぜ」


「な、何...!?」


「王族の血筋でも、紋章の力でもない。

私は、あなたという人格を…

ロゼット=フラストノワールという男を、ただ純粋に私は評価します!!!」

シエルは僕の瞳を見て言った。


初めてあった頃のどもっていた彼女とは見違えるようにすらすらと、しかし今思うと当時からこの芯の強さは変わっていなかった。

僕は、それを思い出した。


僕だって。

そんなことを言われて、いつまでもくよくよしているわけがなかった。


「そうか。僕は僕でしかない。

僕は広い世界から見ればちっぽけな、何でもない人間だ。


...いや、それは言い過ぎだ。


僕は王族。フラストノワール最後の生き残り。それだけは絶対に変わらない...

力も、その責任も、一生背負っていかなければならない。

それは確かだ。」


「そうです、そうなのです!」

コズミキ=コニスは便乗して言った。


だけど僕はそれには同意しない。


「コズミキ=コニス。

あなたにとって花の国の王族はみんな同じに見えていたのかもしれない。


顔も声も、まるで同じに見えていたのかもしれない。」


「よくわかっているじゃないですか!」


「だけど実際にはみんな、一人一人違う人物だったはずだ。」


「は......?」


「食べ物の好みも、普段の暮らしも、みんな同じだっただろうか?

髪や瞳の色がみんな同じでも、髪型や服装、話すことも何もかも同じだっただろうか?


僕は違う。少なくとも、僕の知ってる中だけでも、僕と兄様と父はみんな、同じところも違うところも、どちらもあった!そして父が話してくれた母もそうだ...!


例え同じ国の王族でも、全員がそれぞれ"違う歴史"を持っていたはずだ!」


たじろく彼女に、僕は挨拶をした。


「星の国の王コズミキ=コニス殿、ご機嫌よう。貴女と会えて光栄です。


我が名は、これより再び建国される花の国フラストノワールの王・ロゼット=フラストノワール!」


僕は啖呵を切った。でもそれは、ただ口から出ただけの言葉じゃない。


自分自身に対して。そして、大地に咲く花へ、さえずる鳥へ、陸や海を吹く風へ、空の彼方に浮かぶ月へ、そしてそんな世界へ......この星に対しての宣言だった。


そして......


「それと同時に僕は、人間・ロゼット=フラストノワールだ!

広い世界も、ちっぽけな等身大の人間としての自分も、両方受け止めて、背負って生きていく。それが僕だ。」


「はあ?はあ?はあああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


「サマー、トキロウ、シロ。それにシエル。」


僕を僕にさせてくれた、親愛なる四人を見た。


「ありがとう。僕はロゼット、ロゼット=フラストノワールだ。これからもどうぞよろしく。」

見知ったみんなに、自己紹介をした。


「うん、よろしく、ロゼット。」

「よろしくな、ロゼット 」「ガウガウ!」

「よろしくお願いします、ロゼットくん!」


みんな、晴れやかな顔で返事をした。


でも1人、コズミキ=コニスは悶え苦しんでいた。

だけど突然止まって、恍惚とした表情になった。


「でも、でもね、でもでもでもでもでも!もう、そんなものはもう、関係ないのです!!!!!


"準備"は、今、既に、整ったのです!!!!!


何を言おうが何をしようが、意味がないのです!!!!!!

私が最新で最善で最高の<星なる神>となり、この大陸を消し去ります!!!」


コズミキ=コニスの姿はねじれ、稲妻が鳴る漆黒の雨雲へと登っていく。


不気味な拍手のリズムが聞こえる。


「hahahhahhahhahahhahahhqahahhahhahahahq.................!!!!!!!!!!」

コズミキ=コニスのハハハという、元より不気味だった高笑いは、だんだんともっと不気味な音が混じり、そして変わっていく。


とてつもない閃光と共に、その姿を表した。


「えdジェウdfひぇrkじ3fぽkq3おkdjwxsj→ぉ;qz。wpこx、sん8おmcoxmz,2as3qowimxedd3」


それは清廉とは程遠く、純潔とは捉えがたい、何周も回って神々しいとも呼べるような、そんなおぞましい姿だった。


「dhirekjidrsmph3jdwhづヲイl亜zsmhぢぅあsrぢじょsめrhゔうきdじょあmc4位おjdlぃm、3qcwqx2」


彼女はいくつもの瞳をギョロギョロと見回し、いくつもの手足を騒がしく動かしながら空中で暴れまわっている。


雨雲を背にする星なる神を、僕たちは目の前にした。


「いいや、この大陸は消えない。

コズミキ=コニス。貴女はこれからも、空の彼方から見届けることになる。


僕の、僕たちの物語を」


この世ならざる怪物を目の前に、サマーは僕の手を握って言った。

「作ろう、私たちの物語を」


トキロウ。

「ああ、思い切り見せてやろうぜ」


シエル。

「行きましょう!みんな。」


「ああ。それじゃあ、行こうか!」

僕は空に浮かぶ彼女を、星なる神を見た。


「あっ、ちょっと待って」

サマーが言った。


「今のタイミングで!?」


「なんか、みんな国宝がロゼットのみたいに灰色になっちゃってるけど、大丈夫?」

サマーが言った。


「あっ」


「本当だ!」


コズミキ=コニスがあの姿になる時に、エネルギーを吸っていってしまっていたのかもしれない。


その時だった。


「fr4kjwぢおktpf3ウウィオエk5hdぃmcぉ、z沙;qmsx3お、え」

星なる神は雷を落とした。


避けるのは無理そうだった。


僕は決死の覚悟で、サマーが作ってくれた風の靴の力を借りて、瞬時に飛び上がる。


剣を星なる神に向け、一点突破を目論み目標を定める。


雷の中心線、そこだけを真っ直ぐに突いた。

そして雄叫びをあげながら、力強く推進する。


僕の叫びに剣が呼応するように、次第に花が咲いていく。

空中を花弁が舞い散った。


花弁に当たった雷は、まるで水滴のように流されて、枝分かれに分散した。


「fkjc5nrwfcいおx4、dqw;s、↓x1、3クォ;。lz3」


雷を通り抜け、星なる神の体も貫ききった僕は、一度に噴出できる風エネルギーを使い切ったのか体勢を崩し落下していく。


そこを星なる神の手足は狙うが、それを風来の大蛇が巻きつき縛り付けた。


僕の体は星なる神とは別の何かにさらわれた。

「わあっ!?」


自分も靴で飛んできたサマーが、僕をキャッチしたのだった。

「ありがとう」


「赤くなってる」


「いやっ、今はそんなこと言ってる場合じゃっ!」


「髪。」


長く伸びた自分の髪を確認すると、真っ赤に戻っていた。

「あぁ、おお。」


僕は彼女から下りた。


すると逆に、地面から熱線が放射された。


「わっ!?」

僕はすんでのところで避けた。


「あっ、ご、ごめん!」

それはシエルがファーレス・アインから放った熱線だった。


すると僕の前を、空飛ぶ靴を前後の足に履いたシロ。

そしてそれに乗るトキロウが通り過ぎた。


「行くぞロゼット!」


「...ああ!」

僕はすぐに後を追い、同時に別方向から斬りつけた。


星なる神は、豪快な十字に切り裂かれた。

そして地面に降り立った。


僕たちも地面に着地する。


そして4人と1匹が、星なる神と対峙する。

星なる神は地を這うように突進してくる。


僕たちもそこに向かっていく。


激突。


そして    貫いた。


僕らは星なる神と背中合わせになり、そして。


星なる神は死んだ。


「.........」


黒い雨雲が晴れていき、青空になる。


すると、拍手が聞こえてきた。


僕は思わず振り返った。


だけどそれは不吉なリズムの拍手ではなかった。


民衆の歓声だった。

僕らが戦っている最中に、起きていたみたいだ。


僕は思いっきり息を吸って、そして吐いた。

深呼吸だ。


「すううううう、はああああああ...!」


こうして僕らの物語は、ひとつの区切りを迎えた。

これからも続いていく物語をまた始めるための、ひとつの区切りだ。

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