36.亡者のキミの革命前夜①

僕とサマーはやってきた。

僕の故郷に。


フラストノワールだった森の、うちがあった場所に。


すると突然、周りの風景が変わった。白や赤茶色のレンガで彩られた城下町。

よく知るフラストノワールの風景だった。


僕はつい振り返った。

すると一緒にやってきたはずのサマーの姿はどこにもなかった。


全部夢だったのかな...そう、ほんの一瞬だけ思った。


しかし突如、不吉な音がした。


振り返ると、空から物凄い音と共に隕石が落ち、気がつくと、辺りは真っ赤な火の海になっていた。


人が何人か走ってくる。


そしてその人たちは、僕にまとわりついた。

「ああ〜助けてえぇ〜。あああぁぁぁぁ!!!!」


他にも人がたくさん、僕の周りに、おどろおどろしさや痛々しさをアピールしながら迫ってくる。


僕は一瞬驚いた。

だけど落ち着いて、その人の手を握った。


崩れ落ちそうな姿勢を正し、開けっ放しのボタンをとめ、襟を正し、一人一人の名前を呼んだ。


「しゃんとしてください。身嗜みにうるさかったあなたが、そんな格好でいてはいけません。」


そう、僕はこの人たちを知っていた。


彼らはフラストノワール城の執事やメイド、料理人に大臣たちだった。


全員にそうしていき、そして-


-最後にいたのは父だった。


「父様...あとは任せてください!必ずフラストノワールを再建させます。」


「オエ゛ゥオ」


「だけど、心配しないでください。

王家の責任とか義務とか、そんなふうには思っていませんから。


僕というただの人間が、ただ単純に叶えたいと思う夢の一つ。

たった、それだけでしかありませんよ。」


すると、父は見覚えのある顔に変わって、頷いた。


そして振り返る。

ローブの男が立っていた。


「悪趣味な幻影を見せようとしたみたいですが、無駄だったようですね。

僕の中のみんなの記憶は、そう簡単には捏造できません!


それに...1人だけ、足りませんよね。」


そう、お城で僕と過ごしたはずの人が、1人だけ足りなかった。


「なぜ、見せてくれないんだ?

兄様を...ヴァント=フラストノワール第一王子を!」


灰色の剣を抜き、僕は飛びかかった。

するとローブはそれをさらりと避けた。


ローブは僕の斬撃を、華麗な身のこなしで避け、後退していく。

その間、周囲の風景は次々と別物変わり、流れていく。


フラストノワールの各地を駆け抜けて、ついには見たことのない街並みに変化していた。


僕とローブは、今度は、いくつもの灰色の塔がそびえ立ち、カラフルな箱たちが行き交う場所に出た。


警告のような大きな音を鳴らし、小さな列車のような箱はこちらに素早く直進してきた。


僕は飛び上がり、移動する箱の上に乗った。


見回すと、ローブの男も僕とは別の箱の上に乗っていた。

しかし2つの箱はそれぞれ反対方向に進み、距離が離れていく。


僕は踏み込み、勢いをつけて飛び上がった。

空飛ぶ靴のおかげで安定した跳躍力と共に、箱から箱へと飛び辿っていく。


そしてローブの男に追いつき、飛びかかり、ついに首元を掴んだ。


そのまま倒れ込むと、地面は草の生えた地面に変わった。


「ロゼット!」

サマーが呼ぶ声がした。


森に戻っていた。


ローブの男の至近距離に来た僕は、そいつの正体に気がついてしまった。


信じがたい、とてつもなく嫌な所感に襲われた。

「...!?」


その隙に、彼は僕の腹を蹴り飛ばした。

僕の背中は地面に激突する。


「《ファレムフェスティブ豪炎の祭囃子》!」


《ファレムファーレ》と比べて少し大きな、荒い形状の火球たちが飛び出す。

サマーの放った無数のそれは、ごおっと猛々しい音を立ててローブの男に殺到する。


「待って!」

僕は思わず叫んだ。


「えっ!?」


「《ブルックホリント黒き星の穴》」

ローブの男が言うと、空間に小さな黒い裂け目が生じた。


そこに豪炎は全て吸い込まれていき、その轟音が無音になった。

そしてローブの男は、そのまま黒い裂け目をチャクラムのようにして投擲した。


サマーは髪を若干吸い込まれそうになりながら、それを避ける。


黒い裂け目は木に直撃し、木をドロドロに溶かした。

そのドロドロは黒い影となり地面に落ち、なんと小さなだいだらぼっちに変化した。


小さなだいだらぼっちは、親を見つけた子供のようにローブの男の足元へとやってくると、すぐに踏み潰された。


「あなたがフラストノワールを滅亡させた、そういうことで合ってる?」

サマーは彼に聞いた。


「そうだ。俺が消したのさ。不愉快な国をな。」


僕はその声を聴いて、思わず身震いした。

僕の当たってほしくない、嫌な予想と合致して、悪寒が走った。


サマーは怒りで飛びかかりそうなのを我慢して、続けて訊いた。

「シエル...ミルクシェ=ルカルゴ=ムーニャリウム、月の国の王女。おまえが連れ去った。彼女は、どこへやったの?」


するとローブの男は

「それならもういない。あの方に引き渡したからな。」


「あの方...あの方って、誰のことなんです!?」

僕は訊いた。


「素直に教えると思うのか?」


「教えられないなら、力づくで取り押さえて吐かせる。」

そしてサマーは僕の方を向いた。


「...ロゼット」


「...ああ、そうするよ。でも、僕一人で彼に吐かさせてくれ。」


「えっ、それはどうして?.........っ!?」

サマーは僕とローブの男を交互に注視した。

そして、なんとなく何かを感じ取ったようだった。


「...わかった。」

サマーは頷いて、下がった。


「もう、いいよな。ロゼット」

男はそう言って、ローブのフードに手をかけた。


真紅の髪。


「本当にあなたが...フラストノワールを滅ぼしたんですか?」


真紅の瞳。


「そうだ。」


そしてその瞳には、あの十字架は刻まれていなかった。


「嘘ならよかった...」


「嘘じゃない、現実だ」


「嘘でないなら、無理矢理操られているのだと信じたかった...。」


「俺は自分の意思で、フラストノワールを消し去った。」


「ならば教えてください。どうしてこんなことをしたんですか...


兄様ッ.........!!!」


僕の目線の先で、口元を歪ませてほくそ笑むその男は、フラストノワールの第一王子ヴァント=フラストノワール。


僕のたった一人の兄だった。

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