35.終焉のセレモニー③

「そういえば、髪の毛白くなったね」


「ああ、そういえばそうだった。

牢屋に来たコズミキ=コニスに老化の魔法をかけられて、こうなっちゃった。


手も、しわしわボロボロで...」


サマーは口元に手を当てて、考えるように僕を見ていた。


「顔はそんなに変わってないように見えるけど」


「ええ、そうなの?見てないからわからないな...」


「...脱いで」


「えっ!?」


「脱いで。確かめよう。どこが老化してるのか」


...


...


...


そしてわかった。

髪や爪が白くなっていて、しわしわになっているのは主に手足。

背中や胴体も少し老化しているような気もするが、手足ほどのボロボロ具合ではなかった。


サマーは僕に靴を渡した。

「これ履いて。」


それは風の魔法を充填して空を飛ぶ、前にも見たあの靴だった。


「...どうやって持ってきたの?」


ムチと一緒に、受け取った。」


「いや、そんなに大きかったら気づくよね?」


「気付かなかったの...!?」

サマーは傷ついたように衝撃的に言った。


「えっ、いやっ、ごめん!本当に気付かなかったんだ!」


「ふーん」

サマーはぷいっとそっぽを向いた。


「本当に気付かなかったんだ...」


僕はわなわなした。

けど彼女はそれを横目で見て、笑った。


「...ふっ、ふふっ、そりゃあ気付かないよね」


「えっ?」


得意げに言うと、サマーは突然自分の口に手を突っ込んだ。

そして小さい何かを取り出して、それに魔力を流し込んだ。


実は魔力というやつが一体どうなってるのか、僕には見えないしわからない。

けど、風が吹いたように彼女の髪が揺れたのはわかった。


これが、魔力を流し込んだ、魔法を使った、ということなのだろう。


みるみるうちに小さな何かは変形して、彼女の手の上に1セットの靴が乗っていた。


「全部風。圧縮して小さくするのも、元の大きさに戻すのも、使うのは全部、風。

前にも話したけど、空を飛ぶのに蓄積するエネルギーも魔力を帯びた風。全部風。」


「すごい...!」


「風、すごいでしょ?」


「風、すごい...!」


そしてサマーは、2人の靴に風の魔力エネルギーを充填した。


それから少しして...空が暗くなりだした。

真っ黒な雨雲...いや、これは雨雲じゃなくて...あれは...!


そう思った瞬間、列車が何かに激突して、ものすごく揺れた。


僕はサマーを抱きとめ、屈んだ。


揺れが収まる。列車は止まってしまったみたいだ。

僕たちは外に出る。


すると列車の先頭を、あのだいだらぼっちが押さえていた。


だいだらぼっちは車両をなぶっていて、僕たちに気がついていなかった。

僕たちはとりあえずその場から逃げた。


足元は砂だったが、風の靴のおかげですいすいと走っていけた。

空は真っ黒だったが、砂や特徴的な街並みから見るに、ここは月の国ムーニャリウムだった。


...


僕たちはムーニャリウム城にやってきた。


するとそこでは、兵士たちが倒れていた。


「大丈夫ですか!?」

僕は声をかけた。


「ゲホッ、ゴホッ...!」

どうやら生きてはいるようだった。


すると声がした。

「ロゼット=フラストノワール第二王子...」


それはカウディア王子だった。

「カウディア王子!何があったのですか!?」


「父がセレモニーに...出席している間...僕とミルクシェで留守番をしていたんだ...

だけどその時突然空が真っ暗になって...やってきたんだ...ローブの男が...うぐっ!」


「今すぐ手当てをしますから!お話はそのあとで-」

「いや、今話す...手当てなら、自分でできるからな...!

ムーニャリウムの者は、他の国の人から見れば驚くほど、自然治癒力に優れている...だから問題ない、話を聞くんだ!」


「...わかりました」


「まず、ローブの男に...ミルクシェが拐われた...取り戻してほしい...

それで、手がかりなんだが...!


ローブの男の...心を覗いた...彼は...ロゼット、君に最近会ったようだ...!

牢屋の中で...戦っていた...剣が............」


「!?」

ローブの男、牢屋、剣...心当たりがあった。


「.........」


「...カウディア王子?カウディア王子!」


「...ああっ!ちょっと、眠っていただけだ!

というか、一瞬眠って、少し回復したようだ!...そうだ、彼は...!


ロゼット王子、君を名指しで..."ロゼット、フラストノワール城があった場所に来い、今日中に"と...そう言っていた...!

だから...ミルクシェを頼む!」


「...はい、だけど治療を—」


「今日中に行けと!だから早く!じゃないとミルクシェが殺されてしまうかも...そしたら僕はロゼット王子、君を呪っちゃうぞ!」


「わかりました。だから安静にお願いします。」


「ありがとう。話しているうちにどこが痛いのか、なんだか鮮明に...わかってきた、どこを負傷したのか...僕はどうやら、足を骨折してしまったようだ...!


全治一ヶ月、いや一週間、三日...それくらいあれば行けるから、ローブの男と実力が拮抗して勝敗がつかないようなら...三日耐えてくれ!そしたら僕が駆けつけ加勢しよう!」


「いえ、大丈夫です。必ず今日...もしくは明日までにミルクシェ王女とともにここに来ます。


だから加勢しようとかの無茶は考えずに、安心して待っていてください。」


「...わかった!...頼んだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る