34.終焉のセレモニー②
僕はサマーをお姫様抱っこしたまま走った。
「おい、待て!」
そう叫ぶウィンディライン王はムーニャリウム王に、後ろから羽交締めで押さえられていた。
僕たちが走っていくと会場の民衆たちは避けていき、広い道ができていた。
「はやく追うのです!」
コズミキ=コニスがそう言うと、法衣の者や兵士たちが追いかけてきた。
するとウィンディライン王は強く暴れてムーニャリウム王を突き飛ばし、拘束から抜け出す。
そのまま前の法衣たちを押し退けて追いかけてくる。
「《ファレムファーレ》!」
サマーは炎の球をいくつも作り出し、放った。
火球は地面に着弾すると途端に吹き上がり、追手を阻む炎の障壁となった。
しかし...なんとその炎の幕を突っ切って、ウィンディライン王は走ってきた。
「ロゼット=フラストノワールーーーーッ!!!!」
サマーは少し考えてから、炎をウィンディライン王に直接当てようとした。
だけど僕はその手を止めた。
「大丈夫。」
「大丈夫じゃないと思うけど!」
普段ふわふわしている彼女は珍しく、ほんのちょっと声を荒げた。
「詳しいんだ。王族よりも、コニスカラメルの道案内が得意な自信がある!」
民衆は炎の幕を恐れて後退する。
それで開いたスペースを、法衣や兵士たちは通り追ってくる。
そして一人の法衣が言った。
「コズミキ=コニス様より伝言である!
あの2人を捕まえた者に1000万ルコニの報償金を与える!生死は問わない!」
すると少しして、次第に民衆たちも走ってきた。
最初は恐れていたが、一人また一人とぽつぽつと走る者が出るとすぐに、同調するように皆向かってきた。
僕は野を越え、草木を掻き分けて走った。
途中地形が変わっていたりもしたが、方向感覚は確かだった。
あの駅についた。
あの。
寂れた自動無人列車の駅だ。
しかし...
「現在、事故により列車を停車させています。
20分後に、列車は発車します。」
アナウンスが告げた。
「嘘だろ!」
しかし、草木を飛び出しウィンディライン王はいの一番に現れた。
僕らは仕方なく、列車内に逃げ込んだ。
すごい勢いでやってきたウィンディライン王。
僕は彼と戦う覚悟を決め、剣を抜いた。
その勢いでウィンディライン王は、扉を蹴破った。
列車...の横にある、小さな小屋の扉を。
「えっ!?」
そしてそこに入り「カチッ」というスイッチ音を鳴らすと、列車の扉はしまった。
「聴こえていたぞ。さっき道に詳しいと言ったな、小僧。
...いや、ロゼット=フラストノワール第二王子。サマーブリージア。」
「パパ...!」
ウィンディライン王はサマーに微笑んで頷くと、僕の方を向いた。
「私は元は王族ではない、技術者の出だったのだ。自動無人列車の操作板も作ったことがある。
だから、第一王女と結婚したらまるで王家を乗っとったみたいだとか、そういうことは言われても気にしなくてもいいぞ。
それにサマーブリージアはそんなタマじゃない。世界でこれ以上ないくらい芯を持った立派な王族だ。」
「やっぱり、記憶が戻ったのですか!?」
わかっていたけど、僕は確信を持ちたくて訊いた。
「ああ、思い出したよ。
でも生まれつきの王族じゃなかったからこそ...だからこそ、大事なことを忘れてしまったのかもしれない。
そして君や娘にすら、ひどいことをしてしまった。
本当に...すまなかった!」
そう言った王は、頭を苔だらけの地面に擦り付けて謝罪をしようとしたので、それは引き留めた。
「...でも、思い出してくれました。サマーも、そう思うよね?」
「うん。」
「...ありがとう」
ウィンディライン王は少しだけ泣きそうに言った。
「おい!閉まってやがる!入れねえぞ!」
追ってきた民衆の一人が扉を叩いた。
「やめろ!!」
王はすごい剣幕で怒鳴った。
「去れ!!!」
「なんだこのおっさん!?ひいいいいい!!」
「ロゼット=フラストノワール。
今から厚かましいことを言わせてもらうが、どうか許してくれ。」
「はい、望むところです!」
「君は、父と兄を...家族も故郷も、失った。だけど、それは全てを失ったわけじゃない。
まだ君には、守るものがあるはずだ。」
「はい。」
「サマーブリージアを。うちの娘を、君が守ってくれ。
そして一緒に生きて、幸せになってくれ。」
「はい...!」
僕は肯く。するとウィンディライン王は今度はサマーに言った。
「そしてサマーブリージア、ひどいことをした私のことをいくらでも嫌ってくれていい。」
サマーは首を横に振った。
「......だけど、これだけは言わせて欲しい。
今まで一緒にいてくれて、ありがとう。これからは彼と一緒に-」
民衆が押し寄せてきていた。
ウィンディライン王は小屋に入り、スイッチを操作した。
「列車が発車します。黄色い線までお下がりください。」
すぐさま小屋から出てきたウィンディライン王は、民衆を押し退け列車を追いながら、僕とサマーに叫んだ。
「花の国の王子ロゼットよ!風の国の王女サマーブリージアよ!
振り返るな!進め!風のように駆け!花のように強く優しく!この世界を生きるのだ!!!」
僕たち2人だけを乗せ、列車は寂れた駅を後にした。
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