33.終焉のセレモニー①

セレモニーの会場に、人々は集まっていた。


コズミキ=コニスが登壇した。


星の紋章が刻まれた大きな白い布。それを背に、話し始めた。


「この素晴らしき記念の日に、これほど多くの方々に足を運んでいただいたこと、何より嬉しく思います。


忌まわしきあの事件から1000年。

ここにおられる誰もが、今となってはその事件のことを直接は知りえません。


ですが悠久の時の中で、それを忘れることなく伝え継ぎ続けたからこそ、今この日がついに訪れたのです。」


コズミキ=コニスは側近の男に「開けてください」と言った。

大男が布を取り外すと、そこにははりつけにされたサマーがいた。


「...!」

僕はつい駆け出そうとするが、その前に止められた。


「こんなところで飛び出して行ったら、自分まで処刑されちゃうっすよ。

自分の仕事を...国に仕える者としての使命を全するんす」

彼女は震えながらも絞り出した小さな声で、自分に言い聞かせるように強く言った。


「既に皆さんご存知かと思われますが、サマーブリージア=ウィンディライン第一王女は魔法を使っていました。」


悲鳴があがる。


「...ご安心ください。磔に使われている柱には<神星術>を施しています。

それで彼女の魔法を遮断していますから、魔法によって皆さんに危害が及ぶことは断じてありません。」


ざわめきが徐々に収まってくる。

コズミキ=コニスは続けた。


「彼女は西の禁足地へと足を踏み入れ、邪悪な魔物に魂を汚されてしまいました。


これより、魔に侵された彼女の魂を浄化し天へと還す儀式を執り行います。


それを魔法をめぐる1000年の因縁の、終焉のお祝いの示しとさせていただきます。」


拍手が起こった。


磔にされたサマーは純白のウェディングドレスに身を包み、そのスカートの裾からは、様々な衣服が縫い合わせられていた。

「まとめて処分されるんすよ。王女の着ていた服も全部。」


大きな箱が運ばれてきた。

そこに彼女の私物が入っているのだろう。


それとは別に、4つの箱が丁寧に運ばれてきた。

箱の蓋が開く。


なんとそこに入っていたのは見覚えのある剣、刀、鞭、盾だった。


「妖刀アブリビオン!?なんで...」

僕はつい呟いた。


あれはトキロウが持っていたはずなのに。


「4つの国の国宝が揃う時、増えすぎた過剰な闇を消し去る。

その伝説は皆さんご存知ですよね。」


コズミキ=コニスは言った。


「知らない...」

「知ってる?」

「いや...」


会場からばらばらとそんな声が上がる。


コズミキ=コニスはほんの一瞬不機嫌そうな顔をしたが、仕方ないと表情を切り替えた。

彼女は箱からそれぞれの武具を取り出して、4人の対応する者たちに渡していった。


ムーニャリウム王に、ウィンディライン王に、そして鳥の国の巫女の配偶者となる彼...シンセイ・タスケに。


「月の宝盾ファーレス・アイン、騎士の瞳で真実を見極める。

風の宝鞭ウィンド・ウィンド、大蛇のごとく暴れ回り、悪鬼を縛りつけ滅多打ちにする。

鳥の妖刀アブリビオン、紫紺の鬼火であたりを包み、妖怪変化の怪しき術をも看破し破壊する。


そして...」


最後の箱の前で止まると、箱に触れずに自身の杖を両手で持った。


星の神杖テリング・テラー、星の光で神と交信し、裁きを下す。」


コズミキ=コニスは最後の箱から、いつの間にかまた灰色になっていたあの剣を。

花の宝剣ブーケ・ド・グラースを取り出した。


「この剣は、サマーブリージア=ウィンディライン元第一王女をかどわかした人型の魔物が持っていたというものです。

これで彼女を介錯した後、4つの国宝の力によって汚された彼女の魂を...不必要に増えてしまった闇を消し去ります」


側近の法衣の男たちはサマーの腹や心臓に向けて槍を構える。

コズミキ=コニスは剣を引き抜き少し段差を登ると、剣をサマーの首に合わせた。


最悪の絶体絶命ピンチだけど、全員がサマーの方を向いている今は、最大の好機チャンスでもあった。

ここまで案内してくれた先輩を振り切って、僕は走った。


「あっ!」


僕は舞台上に上がり、サマーの元へ駆ける。


鎧の兜を投げつけ、処刑を止める。

気がついた大男は僕に飛びかかった。


しかしその時だった。


「シロ!」


その声とともにどこからともなく、見覚えのある獣が飛び込んできた。

大男は自身よりもっと大きな白虎に噛み付かれ、抑えつけられた。


他の法衣たちも避け、そのまま恐れ下がっていく。


「行くんだッ!ロゼット!!」

まだ柱まで遠い僕に、向こうから叫んだその声はトキロウだった。


僕はその声を背に受け、そのまま駆けた。


その隙にすぐさま、鳥の国の彼は、シンセイ・タスケは、妖刀オブリビオンをトキロウに投げた。


トキロウはそれを受け取る。

そして磔を固定する支えを後ろから、紫紺の鬼火とともに豪快に斬りつけた。


柱は崩れ、サマーは磔から落下した。


「サマーーーーーッ!!」


僕は彼女のもとに駆けながら、叫んだ。


「...っ!!ロゼット!!」

サマーは目が覚めたようで、叫び返した。


「通しません。」

立ち塞がったのは、コズミキ=コニスだった。


小柄の彼女を突き飛ばすだけなら簡単だろうが、落下するサマーの元へと駆けつけるには、もはや少しの障害物すらあってはいけなかった。


そんな時、横から飛んできたのは門兵の彼女だった。

「うおおおおおおっ!」


コズミキ=コニスの頬を思いっきりグーで殴り、そして転がったブーケ・ド・グラースを奪った!


「行けえええ!!」


僕は元より、これ以上ない程急いでいた。だけどその瞬間、さらに急いでそこへ向かった。


そして...

すんでのところで...


手を広げるサマーを、僕は思いっきり受け止めた!


いろいろ言いたいことはある。

だけどまずは!


「一緒に行こう!」

「うん!」


門兵の彼女は僕とサマーに、宝剣ブーケ・ド・グラースと宝鞭ウィンド・ウィンドを渡して、背中を押した。

「王女、どうぞご無事で!」


サマーは「うん」と力強く頷いた。

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