31.地下牢にて②

「だからいつも掃除が大変でさ、困るんだよな。お前変わってくれよ」


「嫌だよ、魔物のゲロの掃除なんて。

でもその様子だと、もうそろそろ死ぬんじゃないか?」


「うーん...そうだよな。

でも星の国の王様も残忍だよな。どうせならすぐに殺せばいいのに」


... ... ...


僕は運ばれてきた食事を口に入れる。

しかしいつも、少し経つと吐き出してしまう。


「おぅえっ...う゛おえぇっ...」


落ち着いたら、吐いたものをかき集めてまた口に入れる。


その時、自分の手の皮膚がよれよれでボロボロになっていることに気がついて一瞬固まる。

だけどすぐにすくった手をそのまま口につけた。


酸の匂いが舌に絡みつき、喉をじんじんと通り過ぎる。


すると階段を急いで駆け下りる音、兵士がやってきた。


「おい、もうやめろよ!」


兵士は牢屋の鍵を開けて、吐いた食べものをすくおうとする僕の手首を掴んだ。


僕はコップの水に手を突っ込んで洗ってから、その手を押し除けて兵士の方を向いた。

顔を動かした勢いで、すっかり伸びてしまった髪が目にかかった。


「食事には、何も変なものは入っていないんだろう?」


「...ああ、薬物や変な術の粉はおろか、調味料すら入ってないクソマズ料理だ。俺も食べたけどこの通り安全だ、今のところはな。


だけど、そんなこと関係ないだろ!


もうやめてくれよ、俺だって掃除するの大変なんだ!」


「それは、君が途中で止めに来るからだろう」


僕はそう言って、目にかかった長い白髪を払い除けた。


そのまま吐瀉物の入った器に口をつけ、そして傾けた。

固形物と液体の中間みたいなそれを、ごくりごくりと喉仏を揺らめかせながら飲み干した。


「ご馳走様でした。」


そう言って笑いかけるが、この暗がりで、僕が笑顔だと伝わっているかはわからないな。


ただ唖然とする兵士。


「ありがとう」


僕は感謝した後、間髪入れずに駆けた。そう、兵士が鍵を開けた牢屋の扉へ。


「あっ!?待てっ!」


僕は去り際に勢いよく扉を閉め、そして駆けた。


道中のタルや予備で置かれている槍や警棒やや鎧兜なんかを転がしながら、駆けた。


階段。

冷たい石の階段を駆け上がる。


そして出口。木の扉。

さすが訓練を受けた兵士だ。もうすぐそこまで来ていた。


横に立てかけてあった、扉を閉めるためのものであろう横木を僕は思い切り投げた。


兵士はそれを避けた。

その隙に僕は扉を開けた。

そして勢いよく外へ飛び出す---と、ともに僕は何者かに突き飛ばされて階段を転げ落ちた。


「-危なかったな」


別の兵士が出入り口の前にいたようだ。

僕は頭を石床にぶつけた衝撃で、気を失った。


... ... ...


目が覚めた。


虫のさざめく音が聞こえる。


空気の匂いからしても、夜だった。


僕はまだ、牢屋にいた。

体のあちこちに痛みがある。


少なくとも、階段から転げ落ちたのは夢じゃないようだ。


「眠るか」


僕はそう呟いて、目を瞑った。


すると、誰かが近づいてくる音がした。

しかしそれは兵士の鎧靴が鳴る音ではなく、布が擦れるような音だった。


現れたのは、星の国の法衣ローブを着た、誰かだった。

体格から男だということはわかった。


しかしベールのようなフードを深く被っていて、それが具体的に誰なのかは、わからなかったが......なんだか僕はそいつのことを知っているような、そんな気配だった。


「誰?」


思わずそう訊くと、何も答えずにその人物は突然襲いかかってきた。

でも、牢屋の鉄格子があるから、そんな勢いで突進してきたら思い切りぶつかるだろう。

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