26.滅亡の果て④

だいだらぼっちが拳を振り下ろすと、広範囲の土が巻き上げられた。

その衝撃で少し空中に浮かされながらも、僕はそれをしっかりと避ける。


一方でトキロウはその勢いのまま回転し、巨大な腕をアブリビオンで斬り付けた。


「シロ!」


落下してくるトキロウを、シロが背中でキャッチする。


僕も走りながら剣でだいだらぼっちの足元に切れ込みを入れていく。


だいだらぼっちはその度によろめく。しかしすぐに再生する。


何度繰り返しても、同じ結果。


キリがない。


しかも、何度繰り返しても同じなのはだいだらぼっち側だけだ。

お風呂のお湯で濡れている僕とトキロウの体は次第に冷えていき、体力も奪われていく。


「退却するか!」


「一体どこに!?」


僕らを、というか森全体を巨大なだいだらぼっちは取り囲んでいて、逃げようがなかった。


「逃げられないなら...むしろ前へ進もう」


「前へ?」


「僕が突破口を開く。」


僕らは隙を見て、茂みに隠れた。

だいだらぼっちはきょろきょろと僕らを探していた。


「できるのか?」


「一点集中して僕がだいだらぼっちに穴を開ける。トキロウはシロに乗って後に続いてくれ!

あいつがすぐに再生するから、なるべく急ぐんだ!」


「いやだよ!通ってる途中で再生されて挟まったらどうするんだ?

巨大なだいだらぼっちに入って抜け出せる保証はない!おれは残るからな」


「はあ!何を今更」


「元々森で暮らすつもりだったんだ。いいだろ?」


「ああ、そうだった。

...いや、あんなのいるのに、暮らせないだろ!」


「ははは、そういえばそうだな」


だいだらぼっちを見据え、僕は剣を構えた。


「でも、本当にできるのか?」


「当たり前だろ!まあ、1回目は失敗するかもだけど」


「失敗するのかよ!じゃあもうやめとこうぜ」


「やめるわけないだろ!婚約者と会わなくちゃならないんだ。

まあ失敗したら失敗したでまた別の策を試すだけさ。」


「ふっ」

トキロウは笑った。


「大抵のことは、とりあえずやってみればいい。

ほとんどのことは意外となんとかなる...そういう考え方か?」


「殺しと賭けと毒キノコ以外はな。

世界の全てが、なんとかなる」


そして今度こそ、飛び出す。


僕はそのまま、一直線にだいだらぼっちへと駆けていく。


すると気づかれた。


だいだらぼっちは腕を振り上げるが、そこにトキロウが現れ斬りつけた。

「行け!俺もまだ間に合う!!」


そう言って落下しシロの背にキャッチされるトキロウを確認して、僕は進んだ。


鋭く、一直線に、水を吸い上げる茎のように、硬く、真っ直ぐ、何もない空間に満開の花を咲かせる。


そのビジョンが、僕に見えた。


「うおおおおおおおッ!」

僕はだいだらぼっちの真っ黒な影を貫いた。


そして穴が開いて、後ろをみる。

トキロウが来ている。


これなら間に合う。


だけどその瞬間だった。


だいだらぼっちが別の腕を振り下ろした。


トキロウたちは打ち上げられて、穴から見えなくなった。

それだけじゃない。


僕のすぐ横にも影が迫っていた。


だいだらぼっちに胸と背中の区別などなかった。


腕は振り下ろされ、僕の体は空中に打ち上げられた。

それも少しじゃない。


高く。高く。ものすごく高く。


さすがにこれはなんとかならないと思った。


僕は空を見た。

こういう時は青空が見え...


真っ黒だった。


くだらない。

そう思って、僕は目を閉じた。


そして何秒か経った後、そろそろなんか助かる術でも見つかるんじゃないかな、と思って目を開けた。

そして下を見ようとした時。


僕の背中に衝撃が走った。

「あっ」


もう、遅かったんだ。目を開けるのが、遅かったんだ。

もう、地面に激突したんだ。もう、死んだんだ。


そう思って、僕はまた目を瞑った。


だけど...よく考えてみれば、その衝撃はやたらと柔らかかった。

そう、なんだか昔、一度だけどこの感覚に会った気がする。


一度だけなのに、鮮明に覚えていた。


僕は目を開けた。


するとそこにいたのは、柔らかい黄緑色の髪をなびかせて、僕に笑う女の子。

サマーブリージア王女だった。


「えっと...久しぶり。ふふっ」

その笑顔は紛れもなく、サマーブリージア王女だった。

目尻に涙が浮かんでいたけれど、それは紛れもなく、サマーブリージア王女だった。


僕はその涙を優しく拭った。

「本当に、サマーブリージア王女?」


「うん」


「本当に?」


「...うん、本当に、正真正銘、本物のサマーブリージア=ウィンディラインだよ。

ロゼット=フラストノワール王子」


しばらく見つめ合っていた。

嘘みたいだった。


だけどハッとした。

「こんなことしてる場合じゃないんだ!俺の親友とその大切な相手が!」


「ああ、それなら大丈夫。あっちはシエルが」


「シエル?」


... ... ...


空中に吹き飛ばされたトキロウとシロは、青白い霊魂によって包まれ、地面にゆらりと着地した。


「あなたは...」

トキロウはミルクシェ=ルカルゴ=ムーニャリウムに言った。

それは間違いなく、あの時の金髪の少女だった。


「お久しぶりです、コトリさん。」


そう言うと、シエルは持っていた操霊術用の杖に隠れた。


「ず、随分、ワイルドな感じになりましたね...!」

傷だらけの顔をちょっと怖がって言っていたが、当然杖は人間より細いので隠れ切れていなかった。


「お友達のとらさんも増えて...えっ!?つがい!?あわわわわわわ...」

霊魂にそう聞いたシエルは赤面して震えていた。


ーーー


次話・中編最終話。

忘却①の案内を読んで忘却②③を飛ばしていただいた方は、ここまで来たらそろそろ読んでもよい頃合いです。

むしろ、読んでくださった方が次のお話的にとても良いです!

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