25.滅亡の果て③

私はお守りにしていた花弁を食べた。

ずっと塩漬けにしていたから、塩辛い。だけどほのかに甘みも感じた。


そして...


式場に現れた私が着ていたのは白無垢ではなく、黒を基調とした武士装束だった。


どよめく会場。


妖刀 鬼火の足音アブリビオンを向けて言う。


「私はシンセイ・タスケとの婚約を破棄する!」

その声で、どよめきに風穴があいた。

しんと静かになる。


「私———いやおれは、シンセイ・タスケに決闘を申し込む!」


竹刀を2本取り出した。

そのうちの1本をシンセイ・タスケに投げ渡した。


「1本取れば、敗者は勝者の言うことをなんでも聞く。

それも一生。一生その約束を守る。


そういう約束を飲んでもらう。」


私はアブリビオンをしまった。


「その妖刀は使わないのだな...。」


私は頷いた。


しかしその途端に、周囲はまたどよめきだした。


「巫女の婚姻に破棄も何もないわ!」

「巫女ごときにそんなことを決める権限などない!勘違いするな!」

「だいたい"俺"なんて下品な一人称!ありえない!」


怒号が飛ぶ。


「黙れえっ!!!」

シンセイ・タスケは言った。


また静かになった。


「コトリ...」


「...」


「コトリ・セセルカグラ。

君は...今までの巫女の歴史も伝統も無駄にして、ここを出ていくと言うのかい?」


「もちろん。」


「君は地位を失って、露頭に彷徨うことになる。

いずれ自分が、いかに恵まれた環境に置かれていたかに気がつくだろう」


「望むところだ。」


「僕は君にずっと尽くしてきた。

それでも婚姻を断りたいと言うのかい?」


「ああ。断る。」


「...いっときの感情だ、きっと後悔する」


「いいえ、後悔しない。

後悔するとすればそれは、このままあなたと婚姻することだ。」


「.........うん。そんな気はしていたよ。

君はいつかこうするって、なんとなく気がついていた。


だけど...もし僕が勝ったら、予定通り、結婚してもらう。それでいいな」


「ああ」


そして見合い、構え、竹刀を打った。


それから、私が勝利した。


しばしの静寂。


それを破り、周りの人々が襲いかかってきた。

私はそれらを全員打ち倒し、家を出た。


「ここにいる皆よ、私に負けたからには一生約束を守ってもらう!

セセルカグラ・コトリは死んだと思え!


そしてシンセイ・タスケ!」


「!」


「私のことは忘れ、決められた相手ではなく自分の愛する者と結婚せよ!

今は難しい風潮かもしれないが、お前がこの国に恋愛結婚を流行させるのだ!」


「わかった..................わかった。


けど...ひどいじゃないか。わたくしが愛していたのは...コトリ、きみだったのに。」


最後に何か小さく呟いていたが、私には聞こえていなかった。

きっと聞こえないように言ったのだろうと、私は去った。


あの赤い花弁の料理の記憶...

それだけを頼りに、なぜか世界で私だけが覚えていた、花の国フラストノワールを探しに行った。


ロゼット=フラストノワールに会いに行くために。

もちろん、生きているかは怪しかったけれど...どうせ行くならそこがいいなって、おれ思ったんだ。


〜〜〜


「なあ、ロゼット」

トキロウは僕に、改まった感じで話しかけてきた。


「ん?」

僕はウェイターやウェイトレスがさっきから頻繁にお風呂に入れてきている、角切り野菜を眺めるのに夢中になっていたのに。


「ありがとう」


「なんで突然?なんのありがとうなんだ?

むしろこっちがありがとう、トキロウがいなきゃそもそもこんなところまで来れなかったよ。


...でも-」


「ああ、そうだな。それよりも...」


俺とトキロウは、やってきたウェイターとウェイトレスに、剣を突き刺した。


「レストランなのにお風呂なんて...」

「最初から怪しすぎなんだよ!!!」


すると傷口から溢れてきたのは、真っ赤な血ではなかった。

真っ黒な影だった。


猫耳ウェイターと猫耳ウェイトレスは風船のように膨らみ、そして建物も黒い影となった。


僕たちが建物を抜け出すと、地面に緑色の草が生えていた。

この店に入る前は、白黒の無彩色だったはずなのに...


その違和感の答えはすぐにわかった。


「おいおいおい、流石に大きすぎるだろ!」


目の前に立ち塞がっていたのは、巨大という言葉すら小さく見えるほど超超超超超巨大な、真っ黒な影だった。


僕はすぐさまコンパスを確認した。

真っ黒な波が揺らめいていて、宝石もわずかに揺れていた。


トキロウは言及した。

「おまえのコンパスの真っ黒だったとこ全部、この巨大なだいだらぼっちだったってわけかよ...!」

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