24.滅亡の果て②
レストランで、僕たちはお風呂に入っていた。
気がついたら、何故か服を着たまま、剣も持ったまま、お風呂に入っていたんだ。
お湯があったかい。いや、ちょっと熱すぎるくらいかな?
「なんていうか、ラッキーだったな。もう何ヶ月風呂に入っていないかわからないよ」
僕は言った。
「でも川や湖で水浴びくらいはしただろ?」
「いや、してないけど」
「う、嘘だろ、きたならしい...」
「なんだよ、別にいいじゃないか。ほら、なんかお湯の色が変わってきたな。
出汁が出てきたんじゃないか?」
「生きてる間は出汁は出ないんだぞ」
「ははは!でも、お腹空いたな...レストランなんだし、食べ物も運ばれてくる...よな?」
「机や椅子じゃなくて、お風呂があったのはさすがに驚いたな。
でも、食べ物か...」
そう言って、トキロウはお湯のなかで手をグーパーとさせて、それを眺めた。
そして回想した。
〜〜〜
おれは...私は、幼い頃から礼儀作法やいくつもの習い事を厳しく教えられた。
母はいなかった。
私の一族に生まれた女はみんな20歳になるまでに命を落とすらしい。
お茶を
どうせ20歳で死ぬのに、こんなことをして意味があるのだろうかと、来る日も来る日も思っていた。
しかしそんなことを考えていても意味がない、考えたところで何も起こらない。
ある日、そう気がついた。
それを境に、私は次第に考えるのをやめていった。
だけどあの日...
社交界の日。
帰る間際。
セセルカグラ行きの高速蒸気機関車に乗りかけた時に、彼女は私に声をかけてきた。
「はあっ、はあっ、はあっ.........」
金色の髪の少女が息を切らしながら、料理の乗ったプレートを持ってきた。
「あの、これを食べてもらいたくて!」
「これは?」
シンセイ・タスケが訊いた。
彼女は気圧されて一瞬固まったが、すぐに勇気を振り絞って答えた。
「ロゼット=フラストノワール王子がっ、作った料理です!」
「ああ、彼が...。」
「どうして、それを?」
私はつい、彼女に訊いた。
許可なく自分から相手に話したのは、これが初めてだった。
「なんだか元気がなさそうだったから、どうしてもこれを、あなたに食べてもらいたくて」
彼女は私を見て言った。
「じゃあ、まず
「ああ、はい!ぜひどうぞ!」
真っ赤な花弁状のその料理を、シンセイ・タスケは食べた。
「...おお、これは確かに美味ですね。ありがとう。彼にそう伝えておいてくれ。」
「よかったです!」
そう言った時、発車時刻を知らせる蒸気が鳴った。
... ... ...
その時の花弁の一欠片を、私は隠し持っていた。
塩漬けにして、お守りにしていた。
少しずつ、私の中で暗かった世界が色づいて見え始めた。
気がつくと、空気の匂いや些細な音にすら、微かに喜びを感じるようになっていた。
「なんというか、変わられましたね」
「そうでしょうか?」
「実は1年くらい前に、何かが変わったんじゃないかと。
そんな気がしたんです。
大袈裟ですが、世界が変わったのだと...そんな気がしました。
でも変わっていたのは世界なんて大それたものじゃなくて、コトリだったみたいですね。」
「それは大袈裟ですね」
「明日...ついに明日お別れですか。」
「...」
「コトリ、最後に手合わせできますか?」
私は竹刀を構えた。
...
「弟子に負けるというのは、なんとも悔しいです。
これで全てを教えられました。
これなら、心配ありませんね」
「...はい!」
「思い返せば、コトリは本当におてんばでした。
小さな頃は、気がついたらどこかにふらっと出かけてしまいそうでとても心配でした。」
「ええっ、それは...心配をかけました。」
「最近はまた、興味や体力がありあまりだしたのか、西の禁足地に行ってしまうんじゃないかとひやひやしていました。」
「.........でも、それだけでおてんばとは、言い過ぎではないですか?」
「大衆漫画や大衆小説をこっそり見ていたのにも気がついていましたよ」
「えっ、それは...」
ほほほと笑う。
そして...17歳の誕生日。
シンセイ・タスケとの婚姻の日がやってきた。
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