中編END.滅亡の果て⑤
「それって、フラストノワールの国宝<宝剣
サマーブリージア王女は僕をお姫様抱っこしたまま、空中で言った。
僕は持っている剣を見ると、純白に輝いていた。
灰色だったはずの鞘も、本来の彩色に戻っていた。
「あれっ」
思い返せば、さっき巨大だいだらぼっちを貫いた時から、剣が変化していた。
「うん。そうみたい。」
「花の紋章、鳥の紋章、風の紋章、月の紋章が揃えば、本来必要ない過剰に増えてしまった闇を消し去る...
夜を昼にすることはできないが、偽りの夜に見せかけられた昼を、明るい昼に戻すことができる...
うちの禁書に、そう書いてあった。」
彼女は続けて言った。
「本来必要ない過剰に増えてしまった闇...偽りの夜に見せかけられた昼...
それってつまり、"あれ"、だよね」
あれとは、巨大すぎるだいだらぼっちのことを指していた。
「おそらくは。」
「じゃあ行こう。これを履いて。」
そう言って地上に降りると、サマーブリージア王女は僕に"靴"を渡した。
「これって魔」
「魔法。空を飛ぶための、魔法の靴だよ」
即答された。けど続きがあった。
「でもこの魔法、違法かなあ?
ちゃんとした技術を駆使して作られてる。」
「ちゃんとした技術?」
「研究した。歴史的に有名なあの魔力事件について。
魔法の術式が途中で阻害されたりして魔力の出力がうまくいかないと、魔法はそのまま体内で暴走して人間が超新星爆発する。だから魔法は禁止になった。
魔力エネルギーを靴の中にあらかじめこめていれば、人間は爆発しない。」
「本当ですか?」
「...靴は爆発するかも」
「不安だなあ...」
そう言って僕はカチッとした独特の感触の靴紐を、きゅっと結んだ。
魔法の靴で、階段を駆け上がるように、空中を飛んでいく。
そして向こう側に戻ってきた。
「ロゼット!」
トキロウが言った。シロも"大丈夫だ"と言わんばかりに吠えた。
「トキロウ、シロ、よかった!」
「シエルから作戦に関しては聞いているね?」
サマーブリージア王女がトキロウに言った。
「ああ、ばっちりだ」
闇の巨人を見据え、僕たちは並び立った。
サマーブリージア王女は言った。
「ここに花の宝剣、鳥の妖刀、風の宝鞭、月の宝盾、そして四人の使い手が揃った。」
僕は言った。
「それじゃあ、行こうか!」
四人は別々に動く、しかし目的地は同じだった。
それとともに色とりどりの花弁が舞い上がり、闇に覆われた森を彩っていく。
トキロウとシロは紫色の鬼火とともに大地を駆け抜けて、
だいだらぼっちはそれらの傷跡をすぐに再生し、その場をより深い闇で覆おうとする。
しかしそれを、ミルクシェ王女の仲間である無数の霊魂たちがおさえていき、だいだらぼっちの再生を防いでいく。
普段彼女を護っている霊魂たちが手一杯になり、がら空きになったミルクシェ王女の体に、だいだらぼっちの豪腕が迫った。
しかし彼女が月の宝盾<
サマーブリージア王女は、風の宝鞭<
彼女が空中で鞭を振るうと、その大蛇に超巨大だいだらぼっちは首を縛り付けられる。
その頭上まで飛びあがった僕は、ブーケ・ド・グラースを振り上げた。
そして、最後の一撃を叩き込む。
脳天から地面まで、僕は突き進んだ。
... ... ...
闇は落ち着いたような呻き声を上げ、倒れて、霧散した。
真っ暗な空は一気に晴れる。
「...」
少し考えてみたけどその断末魔が、やっとゆったりできると安心したような声...なんてふうに聞こえたのは、どんなに悪い相手だろうがどのみち生き物を殺しているのだという罪悪感からくる僕の傲慢な思い込み...だよな...?きっと。
花弁が舞っていた。
鳥が囀っていた。
心地よい風が吹き抜けて、空は-
僕に見えたのは青空だった。
気持ちの良い青空...
すると青空から、サマーブリージア王女が落下してきた。
「お、おおお〜!?うわあっ!!」
僕は彼女の位置を確認しながら後退りしていくが、つまづいて後ろに転んでしまった。
「げふっ!!」
茂みに寝転び情けない声をあげた僕の上に、ちょうどサマーブリージア王女は落ちてきた。
とてつもなく痛い。
「...ふふんっ」
「ちょっと、なんで笑ってるんですか!どいてください!」
「ふふっ」
サマーブリージア王女は上機嫌だった。
そこやってきたトキロウとミルクシェ王女、そしてシロまでもが笑っていた。
「ちょっと!誰か助けてよ!!!」
それからしばらくして、やっと起き上がった僕はまた、綺麗な青空をみた。
「まあ...最高の気分かも、です。」
さっきは笑っていたくせに気まずそうにしていたミルクシェ王女に僕は声をかけた。
「そういえば、ミルクシェ王女」
「はいっ!?」
「お久しぶりです。」
「おおおおお久しぶりです、はい...」
「お兄様や両陛下はお元気ですか?」
「...それはもちろん!」
「お義兄さま...?」
サマーブリージア王女は目を細めた。
「えっ......いやいや違う違う!そう言う意味じゃないですから!
ミルクシェ王女がカウディア第一王子をそう呼ばれるので、合わせただけで...!」
「ふふっ、焦った?」
サマーブリージア王女はあの頃みたいないたずらっぽい顔をした。
「心臓に悪いです...」
「あのさ、婚約、申し込んでくれたよね?」
「...はい。」
「返事...するね」
「......はい。」
「............喜んで、受けさせていただきます。」
「...」
「...」
「...............」
ちょっと、いろいろとテンポ的にイベントが重なりすぎていて...実感するのに時間がかかって。
だけど数秒間した後に、嬉しい気持ちが僕を襲撃した。
僕は、嬉しくてたまらなかった。
「...はい」
中編END / 後編 滅亡後に続く↓
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