22.森の鬼火と新人類?④

「本当に?

妖刀アブリビオンって、セセルカグラの国宝じゃ—」


「ああ、本当さ。盗んできたんだ」


「盗んだ!?返さないと!」


「おいおい、いいのか?おまえを1人、この真っ黒な森の中に置いて行ってもいいんだぜ?」


「くっ.........でも、国宝は各国の王家が代々大切に管理してきたもの。

それを盗むなんて、悪いことだ!そのことだけには、嘘をつけない!」


「大切になんかしてない...」


「...どういうこと?」


「...なんでもないさ。」

トキロウは露骨に悲しそうな顔をしていた。


たとえ仲良くなった相手でも、悪事を働いたなら僕は連行するだろう。

だけど、この極限状態の中で、僕自身密猟に当たる行為をしまくってしまっている。


無事にここから出られたら、一緒に出頭しよう。

そうすることにした。


「.........なあ、お腹減らないか?」

僕は言った。


「はっ?」


「お腹が減ってしまった。何か食べられるものはないか?」


「.........おう、それならいい食材があるぜ!」


... ... ...


トキロウの案内で、僕たちは狩りを始めた。


真っ黒な森は、これまでの森よりも更に奇妙な動物達が生息していた。


しかし見た目に反して味は良かった。

トキロウの料理の腕は格別だった。


「美味いッ!!!」


「だろう!?まったく、嫌々積まされた技術も、ここに来てやっと役に立ったってもんだ!」

トキロウは嬉しそうに笑って言った。


「嫌々料理の努力を?」


「...まあな。実はおれはだったんだ。

窮屈な屋敷に押し込められて、いろいろやらされた。


でもその技術を使う日なんか死ぬまで来ない。だから家出してやったってわけだ。全く、ざまあねえぜ!」

トキロウは傷だらけの笑顔で言った。


「どこ出身なんだ?セセルカグラ...だよな?服装的に。」


「さて、どうかな。縁を切った屋敷から持ってきた訳で、言ってしまえば"盗品"だからな。

それにこの釜もそうだ。これを食べた時点でお前も盗賊の仲間入りなんだよ!!!」


「...フラストノワールって国を知らないか?僕の故郷なんだ」

僕はつい焦ったように、すがるように聞いた。


すると、彼は考えるように上を向いて言った。

「...海外から来たのか?」


「いや、この大陸だ。フラストノワール、知ってるだろう?西にある"花の国"だ」


「...今この大陸にあるのは、"鳥の国セセルカグラ"、"風の国ウィンディライン"、"月の国ムーニャリウム"。


そして大陸の中央にある宗主国"星の国コニスカラメル"。


これだけだ。

ここ...西は魔物溢れる禁断の地って扱いなのさ。」


「コニスカラメル!?なんだそれ、知らないぞ!それに、禁断の地って...」

僕はそれを聞いて驚いたと同時になぜだか、怒りが湧いてきた。

ふつふつと、僕の頭に血を昇らせた。


「...知らないも何も、そうなっちまってるんだから仕方ないよな」


「...はあ」

一息つくとわりとすぐに頭が冷えた。

冷静になると、怒りが疑問になった。


「まあ、食えよ」


それから日ももう遅くなったので、僕たちは眠ることにした。

妖刀オブリビオンの紫色の鬼火で、奇妙な動物たち...魔物達は近づいてこないらしい。


中央都市、宗主国、星の国コニスカラメル...決定的に怪しかった。そこに行けば何かがわかる気がする。


それと同時に...なんだか安心した。


トキロウと出会えて、僕はこの世界でたった1人の新人類になんて、なっていなかったんだと安心した。


今世界がどうなっているかの情報も、腹立たしいけど得られたし...

これで少し、進めた気がする。


だけど...


「ふぅ...焦るな...って。ロゼットも...いるんだから、今日は静かに、ゆっくり...んっ...くふぅ...っ!」


(な...何ぃ〜〜〜ッ!?)


夜中にシロとまぐわうのは、やめてほしい。

抑えているつもりかもしれないけれど、それでも十分いやらしい声や音は聞こえてきていて...


(くそっ、眠れない...!)


それまでのトキロウの印象とはとても合致しない、甘い嬌声に混乱する。

彼がなんなのか、わからなくなる。


でも、とにかく、トキロウとシロがふたりきりだったところに乱入したのは僕なんだ。

だから、仕方ない。我慢しよう。


僕は耳に土を詰め、心を無にし、眠った...。

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