20.森の鬼火と新人類?②
あれから何日、何週間...何ヶ月経っただろうか?
髪もかなり伸びた。
流石に1年は経っていない...と思う。
僕はついに、コンパスが示す"真っ黒な場所"にたどり着いた。
「なんだこれ...」
そこは本当に真っ黒な空間だった。
森が突然、クレヨンで線を引かれたように"真っ黒"になっていた。
光が突然闇に。その境界線は完全に二分されていて、グラデーションはなかった。
空の彼方までも突然真っ黒になっていた。
ここに来るまでは空はずっと普通に見えていて、気がつかなかった。
僕は唾をごくりと飲む。
そして慎重に、まず枝を空間に差し入れてみた。
「............」
何も起こらなかった。
そして僕は慎重に、ゆっくりとその枝を引き抜いてみる。
すると枝は...
「............」
前と変化はなかった。
僕は意を決して足を踏み入れてみる。
地面の感触は、それまでの森の土と変わらないように感じる。
そのままもう一歩足を踏み入れ、僕は完全に真っ黒な空間に入った。
そのまま歩いていく。
本当に何も見えない。
両手を前に突き出しながら一歩一歩慎重に歩いていくと、固い何かにぶつかった。
動物の鳴き声などは聞こえていなかったので、僕はそれを触って確かめた。
間違いなくそれは"樹皮"だった。
(ここも森ってことか?)
僕はそのまま後退りして、真っ黒な空間から出た。
僕はしゃがんで、手だけを空間に差し入れた。
そして土を掘って、こちら側に引きずり出した。
すると、そこには土があった。
無彩色の土が。
やっぱり真っ黒な空間の中も森ってことか。
僕は枝に、ヘビガエルの油に漬けた布をぐるぐる巻きにして、火をつけた。
そして真っ黒な空間へと足を踏み入れた。
ずんずんと歩いていく。
本当に真っ黒だったが、炎の揺らぎが及ぶわずかな範囲は明るくなった。
わずかな範囲だったが、それでも僕の心を大陸まるまる1個分くらい大いに勇気付けた。
だが...突如その炎は何者かに握り潰されるように消された。
「!?」
メラメラパチパチと鳴っていた炎の行進曲が、シューッと煙が立つ音に変わった。
恐怖。不安。
僕はそれに負けずに状況を把握しようとする。
まだ慣れない目を閉じて、耳を澄ますことに集中する。
わずかに足音のようなものが聴こえるが、それもかなり遠く。
今起きている状況とは別件だろう。
僕は後退し、光へと戻ろうと一歩踏み出した。
その時僕の体は何かに掴まれ拐われた。
何か、巨大な手のようなモノに。
咄嗟に剣を抜こうとするが、何かがおかしい。
「...!」
水の中にいるように、動きが鈍くなっている。
なんだこれ...!?
だけど僕は必死に手を推進させて、剣を取り、抜いた。
そして、その"何か"を斜めに切り裂く。
その時一瞬、光が...花が開花するようなビジョンが見えた。
それとともに、遅くなっていた周りの時間は再加速する。
"何か"の手中から切り抜けたのだ。
僕はその勢いのまま、地面をぐるぐる滑り転んだ。
しかしすぐに立ち上がり、逃げる。
走る。走る。走る。走る。走る.........
しかしずっと真っ黒な空間のまま。
道を間違えたか...?
僕が方向転換しようとすると、また剣から花のビジョンが見えた。
気配を感じて周りを見回すと、うっすらと何かの輪郭が見えた。
巨大な何かは複数体いて、僕の周りを取り囲んでいた。
どうする...!?
僕は首から下げたコンパスを開いた。
宝石はわずかに赤く光っていたけど、流石に暗すぎて詳しく見ることはできなかった
別の足音もこちらに近づいてきている。
これも"何か"の仲間なのか?
「...」
開きっぱなしのコンパスから手を離し、思案に暮れた。
そして思いついた策は一つだけだった。
無理矢理剣で突破口を開き、走るしかない!
どっちから来たかわからない。
だから間違えたら、いくら走っても抜け出せない。それより先に息が切れて終わりだ!
だけど...やるしかない!
僕は覚悟を決めて、剣先を向ける方向を定めた。
そして自身が剣と一体化したように鋭く直進する。
"何か"のうちの一体にトンネルを開けた。
通り抜けて、走る。
走り抜ける。
あとは運次第だった。
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