18.真っ黒な新世界③

「僕が...殺す?


僕がやらなきゃ、むしろあっちに殺される...!だから」


殺しは殺しだろ。自分を正当化するのか?


それはここにいないはずの、兄の声だった。


「兄様...!?」


ウサギが突進してくる。

僕はそれを避ける。


いやいやと、僕は首を振る。

僕の中の偽善的な感情が、兄の幻聴となって聞こえてしまっていた。


正気に戻らないと!


「料理にだって肉は使われてるし、今更躊躇うことはない」


本気で言ってるの?


「...!?」

僕の偽善的な感情は、サマーブリージア王女の声でそう言った。

僕は動揺して、ウサギを避けるのを少し失敗して、避けたと同時に地面に突っ伏した。


擦り傷。泥。


僕は立ち上がり、顔の泥を拭う。

そして言う。


「本気で言ってるさ」


突進してくるウサギを鈍い剣身でなぎ払った。弾き飛ばした。


剣に切れ味はないらしい。

ウサギに切り傷は付いていなかった。


僕は両手で剣を持ち、構える。


「覚悟を決めろロゼット=フラストノワール!

そして君よ許せ!」


僕は姿勢を保ったままウサギを避けながら、叫ぶ。

自分自身に、目の前の相手に。


ウサギは突進の後、自身の肉を皮をひっぺがすようにひっくり返して頭をこちらに向ける。

そしてすぐさまに突進するのだ。


「僕は腹が減っている、このまま己を騙し、生き物を殺し食らわないままでいれば、動けなくなりついには僕は餓死するだろう!


だから僕は君を殺し、食らう!

生きるために!生きて、故郷を、父を、兄を、探すために!婚約者の元へと行くために!」


僕も負けじと、避けるたびにすぐに振り返って相手の全身と瞳を同時に見て、叫ぶ。


「もしもそれで、君の父母兄姉弟妹恋人友人恩師教え子、ありとあらゆる君を愛する者たちが!

僕を恨み殺しに来るのだとしたら!それすらも一羽残らず切り伏せよう!!!


僕は生きる、そのために君を殺し、食らうのだ!!」


切れ味のない灰色の剣で、目の前のウサギを殺すには、斬り払ってはダメだ。

それでは斬撃ではなく打撃になってしまう。


ならば尖った剣の先で、刺突し首を貫くしかない。


僕は向かってくるウサギに剣を構えた。

剣先が滑り台のように見え、それをウサギは降ってくる。


そしてウサギの勢いを利用するようにして、首の一点を狙い剣先を突き刺す。

純白の日の光に当てられた剣先は、一瞬だけ煌く。


その点で突き刺し、樹木にぶつける。


力を込め、文字通り息の根を止める。


ウサギは、動かなくなった。


「...はあ、はあ、はあ、はあ............ふうー...」


僕は息を整えた。


そしてウサギの死肉を開いた。

皮を剥ぎ、直接内臓を貪った。


食べながら「毛皮ってさ、何かに使えないかな」

モゴモゴと口を動かしながら言った。

食べながら喋ったことなんてなかったけれど、自然とそうしていた。


だけど、ナイフもないので、皮から肉を綺麗に全て削ぎ切ることはできなかった。

腐ってしまうといけないから、皮を持っていくのは諦めて埋めてお墓を作ろう。


食べ終わった皮を持って、頑丈な枝を集めた。

そして地面を掘ると、ウネウネしたものがたくさん現れた。


ミミズ。


嫌だなと思ったので、僕は急いで走った。走った。走った。


そうしたら、水を見つけた。

森の中の幅の狭い川。綺麗な無色透明の水。


そこで洗いながら、小石でグチュグチュと肉を削いだ。

毛皮を干す。


洗えた...。

まあでも、墓にするか...


そして最初に目覚めた場所へと走って戻った。

迷わなかった。ペンダントの中の宝石が、僕のいる位置を示していた。


まだウネウネしていた大きめのミミズ群。

それらを土で埋めた。


置いてきていた灰色の剣を鞘にしまう。

ボロボロの服を1枚脱いで、鞘を結びつけて、襷掛けにした。


「...もう喉渇いたな」

喉の渇きを思い出した僕は、かすれるような声で呟いた。


そしてまた、川辺へと向かった。

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