中編 滅亡中

13.忘却①(サマーブリージア王女視点)

ま、まさか...ロゼット王子から婚約を申し込まれるなんて...


嬉しかった。


それ以上に...

「私から申し込むつもりだったのに...先にやられた、くやしい。」


次の日から、彼に恋文を送ろうと何度も何度も書いては消し書いては消ししていた。


けどさらにその翌日、フラストノワールから正式な婚約を申し込む書類が届いたことで、私のやっていたことは覚悟のかの字もなかったと、ものすごく悔しがった。


父は最初私に見せないつもりだったけど、母が渡してくれた。

それはそれとして両親共に「よく考えるように」とやんわりと反対していたが、彼は第二王子だから私が嫁ぐのではない、彼が来るのだということ。


タ・ケノコ・スの着ぐるみを着てタ・ケノコ・ス・ダンスを踊ってくれた、そんな人他にはいないでしょ!ということ。

それらを話したら納得してくれた。


とはいえ正式な書類の返事を送るのとは別に、彼個人への手紙もやっぱり書きたかった。

「親愛なるロゼット王子...いや、かたいな。

うーん、ロゼットくん...ロゼットさま...?

ロゼット!...ロゼットさん...ロ、ロゼロゼ...?」


「...だめだ!」

私は便箋を投げ捨てた。


もう、なんて書いたらいいかわからないよ...!


私は枕に顔を埋めて、しばらく黙っていた。

けど...


いや、だめだ。書かないと...

ちゃんと書いて、想いを伝えないと!


そして...


「...できた!」


ふん、我ながら、なかなか良いかもしれない。


...あとでなんて書いたか思い出せなくて夜中にふと不安になったら嫌だし、同じ内容でもう一通書いておこう。

保管用、予備、とても大事。


「...よし。」


手紙に封をして、予備の方の手紙は鍵付きの金庫にしまって、これでよし。


早速郵便局に持っていこう。


私はいつも通りスニークミッションをこなしながら城を抜け出し、郵便局に手紙を出した。


「ありがとうございました〜」


ふふっ、どんな返事が来るんだろう。

でも、婚約を申し込んできたってことは、ロゼット王子も私のこと好きなんだよね...


そう思っていたら顔が熱くなってきた。

恥ずかしくて両手で顔を覆った。


「あ!王女!また出てたんすね!?」


「あ」


よく見知った衛兵に捕まった。

そしてお米様抱っこされて城へ強制送還される途中...


「もう、外が気になるからって、勝手に出ちゃ危険っすよ。

たまには王女様を外連れてって上げてくださいってご意見板に書いといてあげますから。」


「えっ、本当?」


「はい、仕方ないっすから、それまでは我慢してくだ---?あれ、何すか...?」


衛兵の向いている方を私も確認する。


すると、まだ昼なのに、真っ黒な何かが遠くの空を覆っていた。

それは不吉で、見ているだけでもおかしくなりそうだった。


「あれって西...フラストノワールの方じゃ...」


「えっ!?」


わたしはびっくりして、衛兵から降りて離れた。

そして走った。


「ロゼット王子...!」


私は走った。真っ黒な空めがけて。


「お待ちください、王女!」


鍛えている衛兵でも追いつけない速度で、風を足裏に乗せて走る。走る。走る。


「ロゼット王子、待ってて、今、助けに行くから...!」


全力で走る。息が切れてもいい。

走らないと、今すぐ行かないと、そんな予感がした。


「ロゼット王子...!ロゼット......!ロ...ゼ......」

次第に減速し、私は立ち止まった。


「はあ、はあ...脚速すぎっすよ相変わらず...」


「空、黒くなくなってる...」


「空?ああ確かに...え?」


「え?」


「空が黒く......って...雨雲でも見たんすか?」

衛兵は辺りを見回した。


「どこまでも晴れ渡るような、清々しい青空っすけど」


私は首を横に振った。

「...いや、さっきまで西の方が黒くなってて...」


「西?西の方って言ったら禁足地じゃないですか。なんか変な魔物とか復活してないといいっすけど」


「禁足地?魔物...?」


「あ、王女知らないんすか。そういうこわーい生き物がいるんすよね、あそこ。」


「いや、西は禁足地じゃなくて............じゃなくて、じゃなくて......?」


「...大丈夫、っすか?具合悪いんなら早く帰りましょうか」


「いや、体の調子は大丈夫」


「そうっすか。

じゃあそれなら...王様とまたケンカしました?


だったら一緒にソフトクリームでも食べに行くっすよ」


「ソフトクリーム...」


「嫌っすか?」


「いや、嫌じゃない。ソフトクリーム...炙りバジル味だけは、嫌いじゃない」


「本当趣味変わってますよね...とにかく、禁足地には近づいちゃダメっすよ」


「...?うん、わかっ...た」

私はなんだかモヤモヤしたけど、それがなんなのかは結局わからなかった。


ーーー


サプライズが好きな方や、なるべくロゼット王子視点で見たい方には、次の『14.忘却(サマーブリージア王女視点)』『②15.忘却③(サマーブリージア王女視点)』は見ずに『16.真っ黒な新世界①』へ飛ぶ読み方もおすすめです。

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