14.忘却②(サマーブリージア王女視点)
「ある世界に、大海にぽつりと浮かぶ、丸くて大きな大陸がありました。
それを見た神は、4人の賢者にそれぞれ、紋章を授けました。
風の賢者ウィンディアは風の紋章によって、不毛だった北の大地に自然を芽吹かせました。
鳥の賢者アブリは鳥の紋章によって、人々に歌い踊る楽しさを伝搬させて様々な文化を創生しました。
月の賢者ファーリャは月の紋章によって、摩訶不思議な効果のある儀式や術をいくつも編み出しました。
そしてそれぞれの大地は繁栄し国となり、当時の賢者の子孫が現在の王族となりました。
というわけで、この大陸は遥か昔より<風の国><鳥の国><月の国>の三国でそれぞれ権力を分散することで、平和を保ってきたのです。」
「賢者は4人なのですよね?もう1人はどうなったのですか?」
「いい質問ですね。
もう1人の賢者は、授かった紋章によって西の地を発展させようと試みましたが、その使命感に囚われるあまり"口状し難い何らかの罪"を犯したと言われています。
「何らかの罪って何ですか?」
「さあ、何でしょうね?
ただ紋章の力が暴走して、人間に友好的だった動物たちを凶暴で危険な"魔物"に変えた、とは言われています。
実際西にはそういった魔物と呼ばれる生物がたくさん生息しているため、今では禁足地になっているんですね。
そしてこの中央区も、我が校セントラル・ブランク・アカデミーが建てられる前は長い間放置されていました。
なので、実は賢者は5人いて、その賢者も同じようにこの中央区で"口状し難い何らかの罪"を犯したのではないか?という説も一部の歴史学者の間では唱えられています。
でも本当のところはどうかわからないので、今のは与太話だと思ってもらって大丈夫ですよ〜。」
その時、チャイムが鳴った。
「さて、これでお昼ご飯の時間ですね〜。はあ、疲れた〜お疲れ様です。
それでは本日の歴史の授業を終わります。ありがとうございました〜」
そう言って、歴史の先生は去っていった。
廊下側の机に座っていた私は颯爽と教室を出て、中庭へと走った。
私は中庭に敷き詰められた芝生に寝転び、仰向けになる。
「そう、ここには誰もいない...」
魔法で出した風と水の膜を私の上に貼り付けて、寝返りをうつ。
うつ伏せになった私は口を開け、昼食(ランチ)を食べ始めた。
風と水の膜を回転させることで、体を全自動でスライドさせる。
私はまるで人間高速蒸気機関車だ。
そうすることで、高速回転する水で洗浄された芝生が、高速回転する風でカットされ、私の口に全自動的に入ってくる。
私はまるで人間洗浄機で、人間芝刈り機だ。
そうやって
「あ、サマーブリージア様!また芝生食べてる!
ダメだよ、庭の手入れしてくれてる職員さんが困っちゃうでしょう?」
彼女がそう言ってる間に、私は魔法を解いて立ち上がった。
「あ、やめてくれるんだ」
「...ちょうど、お腹いっぱいになったから。
それにここの芝生、根元さえ残しておけば明日にはまた生えてるから、問題ない」
「もう、そういう問題じゃなくって———」
その時、私のお腹が鳴った。
「...」
... ... ...
どうやら、彼女は作ってきた弁当の具材を私に食べさせることにしたらしい。
「えっと...どうぞ!」
ピックに刺した肉の腸詰めを私に差し出した。
先が切り込みで分かれていて、8本の脚のようになっている。
「これは...」
「お空の上に住んでる天使をモチーフにした形らしくて...
タコサ=ン=ウインナー...っていうんだって。」
「...」
彼女は期待か緊張か、潤んだ瞳をしていた。
私は食べた。
「どうですか?」
「...おいしい」
「ほ、本当?うれしい!」
喜ぶ彼女を横目に、私は弁当のある具材が気になっていた。
「ねえ、これは...?」
「ああ、これは...」
それは赤いトマトを綺麗に切って作られた、美しいバラの花弁だった。
「たくさん練習したんだけど...」
「すごく綺麗」
「えっ、そうかな...?」
彼女は照れ臭そうに笑っていた。
「綺麗...だけど」
「だけど!?」
彼女はごくりと息を飲む。
「それとは別にまた、何か気になるというか...惹かれるものがある」
それを聞くなり彼女はほっと、胸を撫で下ろした。
「そっか。サマーブリージア様もそうなんだ」
「?」
「私、いつだったかこのトマトの花弁を食べてね。
それがすごく印象に残ってて。
それなのに、いつどこで食べたのか思い出せなくて。
お城の料理人に聞いても、そのメニューは出してないって。だから似た料理と勘違いしたのかなって思ったんだけど...
でもそれでも何だか、何か、とてつもなくどうしても気になるんだよね。」
「だから自分で頑張って作ってみることにしたんだ」と、ミルクシェ=ルカルゴ=ムーニャリウムは言った。
「.........」
「はっ、ごめんなさい!私つい喋りすぎてしまって、ごめんなさい!」
「ううん、別に。」
「それでサマーブリージア様、これ、食べたいの?」
「...」
私は黙ってトマトの花弁をひったくるようにすばやく取って食べた。
「えっ!?あっ...」
おいしい。
そのトマトは新鮮ではないはずなのに、体中に沁み渡るかのようにみずみずしく感じた。
「サマーでいい」
咀嚼しながら言った。
「サマー様、私も食べたかったのに...」
「サマが多い、また作ればいい」
「そんなあ...まあ、そうだね。うん、よし!
明日からはサマーちゃんの分も弁当作ってくるから、もう中庭を食べちゃダメだよ!」
「...明日は休日だよ。」
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