8.交流計画②

社交界の1週間後、僕は中央区へ向かった。

大陸全土を通る最主要交通機関高速蒸気機関車トレイン・ポスタから乗り継いで、乗客はおろか車掌すらいないまま勝手に動き続ける危険な古のオーパーツ"完全自立駆動列車"に乗る。


機械音声が聞こえてドアが閉じる。

列車は徐々に加速し、ガタガタと荒々しく僕を揺らしながら線路を進んでいく。


苔むした廃墟のようでありながら、ちゃんと動き続けている。

そんなある種のお化け屋敷的な、この列車にとてもワクワクする。


街は通り過ぎ消えていく。


車窓の外を眺めていたが、しばらく同じ景色が続く草原に入った。

結構見たが、どこまで続くんだろう?


本当に長い間続いていた。


長い。


すごく長い。


とても長くて-


長かった。


「...」


ついに僕は眺めるのに飽きて、誰もいない列車の座席に寝転んだ。


「寝ておこう」

独り言を呟いた。

目を瞑った。


何もしない時間。


「......」


突如、車窓から差し込む日差しが眩しかった。

僕は手のひらで顔を覆った。


それから少し経って。


日差しが弱まったので、列車の揺れに乗せられて手のひらをずらしていく。

そして指はなんとなしに、まぶたに触れ、鼻を下り-そして唇にぶつかった。


サマーブリージア王女のあの、いたずらっぽい笑顔が思い浮かんだ。


僕は恥ずかしくなって、自分の手を唇から勢いよく離した。


「何考えてるんだ、僕は!


ロゼット=フラストノワール、しっかりしろ!

お前は王子としての責任を持ち、女性と接する時も常に冷静でなくちゃあならないんだ!!」


誰に言うでもなく、いや誰もいないからこそ大声でそんなことを言った。

そしてばかばかしいことを言った自分に呆れて脱力し、落ちてきた腕で目を覆った。


こんなの、初めてだった。

社交界のあの日以来...他に何かしていないと、サマーブリージア王女のことをつい考えてしまう病気に僕はかかっていた。


であれば、今は眠ろう。眠るしかない。


僕は眠った。


「.........」


その時突如、僕の唇に何かが触れた感触がした。

僕は目を開ける。


そこに見えたのは、サマーブリージア王女の姿だった。


「わっうわああ!?」

僕は驚いて起き上がった。


「わっ!?」

サマーブリージア王女も驚いた。


「ごめんなさい!...でもなんで、ここに?」

僕は辺りを見回すと、そこは間違いなく無人自動列車の中だった。


「いや、なんでもなにも、学校遅れちゃうよ?」


そう言ったサマーブリージア王女は見慣れない服を着ていた。


「学校...?まあいいか。それよりもその服良いですね。」


すると彼女は言った。

「いいも何も、これ制服でしょう?」


僕はふと自分の腕を見ると、明らかにさっきまで着ていたのとは違う服を着ていた。


「本当に遅れちゃう、行こう?」


そう言って彼女は僕の手を取った。

僕は引っ張られていく。


そして列車のドアを通り抜けた。

と思ったら、視界がどんどん白くなっていって...


目が覚めた。夢だった。


僕が起き上がると、顔に開いたまま乗せていた分厚い本がずり落ちた。


『学校の建て方 リギモル建設』


校舎から運動場、理科室からプールまで!これを読めば学校という建物の全てがわかる!

『猫の流星群』デレクタ監督絶賛!「導線や増築の余地まで想定して書かれている」


そんな文章が書かれた帯がちょっと外れかかっていて、きれいに付け直す。


整えきると同時に列車のドアが開いて、機械音声のアナウンスが流れてきた。


「ただいま       中央区公園前〜       中央区公園前〜

この列車は快速列車の通過待ちのため5分ほど停車します。」


その機械音声は、間が開いたりノイズが入っていたりした。


「快速列車なんか来ないのにな」

僕はちょっと悲しくなりながら呟いて、荷物を持って列車を出た。


「おお...」

見回して、僕はつい声がでた。


そこにあったのは、苔やツタに覆われた寂れた看板の駅だった。

そして中央区そのものは、見渡す限り自然であふれていた。


「すぅーーーーーはぁーーーーー」


僕は手を思いっきり広げて、深呼吸した。


澄んだ空気が肺に入っていくのが感じられた。


"空気が綺麗"というのはこういうことかと、生まれて初めて理解した。


小鳥のさえずりが聴こえる。

日差しと日陰の入り混じり具合が心地いい。


他にも小さな動物たちがいたが、こちらのことをあまり気にしていなかった。


そのまま歩いて行き、僕は目的地についた。

中央区の中でも本当の中心、大陸のへそと呼ばれる場所。


この場所だけは、不思議と木も草も生えておらず、動物も一切いなかった。

それこそ我が国の城の面積くらいある広大な空き地だった。


まるで最初から、学び舎が建てられるのを待っていたかのようだった。...さすがにその発想は傲慢すぎるか。


僕はその場で、持ってきた角木材を取り出した。

1時間くらいで、簡素な机と椅子を作った。


そして僕はその机に紙を広げ、鉛筆を手に取り、校舎の計画を立て始めた。

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