7.交流計画①
しばらく黙っていた。
目の前の君に、燃やされたわけでもないのに、まるで溶かされそうな感覚になる。
...いやいや、ロゼットしっかりしろ!
僕は自分の頬を殴った。そして正気に戻って言った。
「ここから帰らないと!」
「どうして?」
サマーブリージア王女は無邪気に訊く。
「ええと...あなたのお父上も心配していますから!」
「心配してる?」
「ええ、それはもう!」
王女は「うーん...」と少し考えてから、「わかった」と言った。
そして立ち上がった。
「よかっわああ!?」
僕が驚きの声を最後まで発しきらぬうちに、彼女は僕をお姫様抱っこした。
状況がわからないまま、全身が風を纏うような感覚に包まれて-
気がついたら崖の上に...木々が生えた森の中に戻っていた。
同じくらいの体格差なのにどうやって僕を抱きかかえてここまで...!?
これも魔法ってこと...だよね?
そんなふうにじっくりと考えている余裕はなかった。
周りにあった風の感覚が、どこかへ消え去っていくと同時に彼女は僕から手を離し、僕は地面思いっきり激突した。
「ゔッ!?」
「あ、ごめん」
「いえ、大丈夫。問題ありません!」
「...いた!ロゼット!」
草を掻き分けて現れたのは兄様だった。
血眼になって、息も絶え絶えだった。
「兄様!」
「もう1人いるな?誰だ」
兄は真っ黒でよく見えない中、僕の隣にいた王女の気配のことを言った。
一方で王女は警戒したのか、僕の後ろに隠れた。
僕は2人に互いを紹介した。
「2人とも、大丈夫ですよ。兄様、彼女がサマーブリージア王女です。
サマーブリージア王女、彼はヴァント=フラストノワール王子、僕の兄です。
2人ともそんなに警戒し合わないでください、大丈夫ですから...!」
すると、王女は僕の背後の影からおそるおそる姿を現した。
彼女を見ると、兄は紙を取り出し、情報と見比べた。
どうやら合致していたようだ。
「まさかロゼットが見つけていたとは。
貴女がサマーブリージア王女だったのですね。
先ほどの非礼な口調、お許しください。」
兄は業務的に言った。
「いえおきになさらず」
王女も、呪文を詠唱するみたいにカタコトで言った。
警戒して固くなったというよりは、知っているけど言い慣れていない口調で話した...といった感じだった。
先程のことを思い出すと、彼女は王族にしてはかなり砕けた口調をしていて、見知らぬ僕に対しても距離感がとても近かった。
それを思い出すと、耳が熱くなってきた。
周りに真っ暗でよかった。僕の顔は今ものすごく赤くなっているであろう、それがばれたら恥ずかしいから。
「では、迅速に会場に戻りましょう。国王である貴女のお父上が心配しておられる。」
兄が言った。
そして、3人で戻った。
... ... ...
風の国の国王はとても安堵していた。
泣いて娘との再会を喜んだ。
娘の方はいつものことだというような顔をしていたが...
風の国の国王はお礼に何かできることはないかと言った。
何かを提供したり融資したりしたいと。
しかし父は断った。
提供に関して言えば、既に四国間で貿易は盛んに行われているし、融資に関しても風の国よりも花の国の方が産業が盛んなため裕福だった。
ここでお礼を受け取ったら『フラストノワールはお礼をもらうために自作自演でウィンディラインの王女を誘拐した』なんて噂を流す奴が出てくるだろう、と兄が小声で僕に言った。
「...でしたら!僕に提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
僕が提案したのは、この丸い大陸の中央...
四つの国と接しながらどの国にも属さない"中心区域"に、王族や貴族の子供が通える学び舎を作る。
そういう計画だった。
子供の思いつきだから、きっと穴も粗もたくさんだった。
だけど、僕が普段から感じていた、いろいろなことを調べて知識を深めたり、自分なりに工夫して何かを作ってみる楽しさ。
そして今日社交界で感じた、今まで会ったことがなかった人たちと交流する楽しさ。
この二つを満たせるのが"学び舎"だと思ったこと。
その想いを素直に伝えた。
学び舎は大昔こそ、王族や上流貴族しか教育を受けられない贅沢な機関だったという話だが、今では学校がたくさん設立されて、庶民にとって学校に通うことは当たり前になった。
しかしその一方で、王族や貴族の子供は、自分の住む城や屋敷の中でしか教育を受けることができなくなってしまった。
だから、大陸で唯一固有の国の領土でない、あの土地に学び舎を作りたいと話した。
うまく言えたかはわからないけれど、それでも熱意を持って伝えた。
そこまで聞くと、国王は言った。
「しかし中央区をどうこうするとなると、四国の国王全員での合議が必要だな。」
「......」
僕はごくりと唾を飲んだ。
「しかし...偶然だな。ちょうど会場に、各国の責任者が全員揃っているじゃないか。」
風の国王は僕に向かって笑みを見せた。
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