6.風の国の王女③
「力...強いんですね...」
僕はついそう言った。
彼女は何かを食べていたが...真っ暗だ。
そう、真っ暗。さっきまで携帯灯を持っていたので、目がまだ慣れていなくて、彼女が食べている"何か"がなんなのかは断定できなかった。
「...っ!」
僕は失礼を言ってしまったかもと、慌ててフォローした。
「助けていただいて、強くて素敵だなって思ったから言ったんです!とても尊敬しています!!だから-」
「力...強くなりたい?」
彼女は言った。
「えっ?」
僕は困惑した。
「チカラガ...ホシイカ...」
なんだか魔王とか、そういう雰囲気の声真似をして彼女は言った。
だけど別に怖くはなくて、可愛い女の子の声だった。
「.........はっ、はい!」
だけど僕はつい息を飲んだ。
すると彼女は岩影から何かを取り出した。その直後、突然水のせせらぎのような音が聞こえた。
そしてその音が聴こえなくなる。彼女は僕に"それ"を渡した。
「ん」
ぐいっと押しつけてきた。
「ありがとうございます」
受け取る。
するとそれがなんなのかわかった。
"野草"だった。
しかもなんだか、水滴で湿っていた。
「...?」
「食べたら、強くなれるよ。」
「......?」
僕は、このよくわからない状況を不思議に思い、少しの間静止していた。
「食べないの?」
彼女がそう言った。
「いえ、食べます!」
僕はそれを口に入れた。
「美味しい?」
調理されていない生の野草は、最初は苦いなとしか思わなかった。
「..................いや、確かに美味しいかも」
だけど噛んでいるうちにほんのわずかに甘味や旨味を感じ始めた。
「うーん、じゃあ...」
そう言って彼女は、僕から食べかけの野草をひったくった。
そして彼女は野草を口に咥えた。
僕が驚いたのは、その後だった。
突如として、その場に閃光が走った。
僕は眩しさに驚いて、目を一瞬腕で覆った。
直後腕を下ろして見ると、その場所は少しだけ明るくなっていた。
彼女が咥えていた野草に火がついていた。
真っ暗な夜の寒空を、小さな炎がわずかに温めていた。
「火事!?危ない!」
僕がそう言うと、彼女は手のひらを突き出して、首を横に振った。
そして、その野草を炎ごと、完全に口に入れた。
そして何度か噛んで、飲み込んだ。
「...おいしい。」
「えっ、今、一体何をしたの?」
僕がそう言うのを無視して、彼女は野草をちぎって僕に向けた。
「口開けて。あー」
つい口を開けて、野草を咥えてしまった。
そして彼女は、微かな声で囁いた。
「《
その瞬間。
僕の咥えていた野草の先に、小さな火が灯った。
僕は驚いた。
そしてどんどんと野草は炙られていく。
僕が怖くてたまらず吐き出す前に、彼女が「大丈夫、恐れず口に入れて」と念を押した。
僕は言われた通り、彼女がさっきやっていたように野草を炎ごと全部口に入れた。
「噛んで」
僕は野草を噛んだ。
噛んで、そして飲み込んだ。
「どう?何もしてないのよりおいしかったでしょ?」
僕はかみしめるように頷いた。
「......おいしかった、です。
炙ったことで香ばしさが加わって、より旨味を感じられるようになった......かと。」
「おお...!」
彼女は目を輝かせた。
「じゃあ...!
《
そう言って、残りの野草を燃やし始めた。
その付近が一気に明るくなった。
「...あのさ!」
僕は勇気を振り絞って、切り出した。
「ん?」
「ない......と思うんだけど、これってもしかして、魔ほ」
そう言いかけた僕の唇を、彼女は右手の人差し指で塞いだ。
「しーっ」
火の明るさに照らされて、僕に向かっていたずらに微笑む彼女の顔がはっきりと見えた。
ふわふわとした若葉色の髪が、夜風でわずかに揺れていた。
火にあてられて、全身が汗ばむ。
どきどきと鼓動が早くなる。
僕は彼女の顔を見ていられなくなって、つい目線を落とした。
「...!?」
そして気がついた。
彼女の付けているペンダントには、風の紋章が刻まれていた。
もし僕の眼が正しい像を写しているのだとしたら。もし彼女が幻術で僕を惑わす妖精の類でないのだとしたら。
目の前のこの女の子が、風の国の王女<サマーブリージア=ウィンディライン>だった。
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