5.風の国の王女②
「住宅街は既に、警備していた兵たちも加わって捜索している。
だからお前たちは猛獣のうろつく危険な森の中へわんぱくな王女様を探しに行くことになる。
これを持っていけ」
父はそう言って、重厚な入れ物の中から剣を取り出し、兄に渡した。
「抜いてみろ」
兄は曲線的で独特な形状の柄を握り、鮮やかな色で彩られた鞘から剣を引き抜いた。
すると、
「おお...!すごい剣ですね!」
「これは我が国の国宝である<宝剣
それを聞くと、僕も兄も驚いた。
名前や特徴だけは話を聞いて知っていたので、なんとなくそんな気はしていたけど、断言はできなかった。
でも本当に"それ"だったので驚いた。
「...この剣を受け取る責任はわかっています。」
兄は言った。
確かに国宝を託すというのはなみなみならぬ状況だ。
しかし護衛するだけならば、騎士団員たちが使っている強化鉄製の剣で十分なのではないだろうか...?
「あ、そうか」
父は本当は、元から兄にこの剣を渡したかったのではないかと、僕は勝手に推測した。
「わかっていないだろう。
国宝だからといって大切にしすぎるなよ。使わなければ意味がない。
後からいくらでも治せるのだから、存分に使い潰せよ。」
「...はい」
兄は重々しく言った。
やはり、そういうことか!
... ... ...
森にやってきた。
夜の森は、予想以上に暗かった。
いつも夜は城にいるから、こんなのは初めてだった。
だけど、怖くはなかった。むしろわくわくした。
「怖がるなよ。怖がって焦ったりして足取りを狂わせれば、怪我のもとだ。」
「ご忠告ありがとうございます。そう言う兄様は怖くないのですか?」
「ま、まさか。そんなわけがないだろう。」
携帯灯を持ってそのまま進む。
「サマーブリージア王女ー!サマーブリージア王女ー!いませんかー?お父上が心配していますよー!早く出てきてくださーい!」
そう言いながら、辺りを見渡しながら、進む。
進む。進む。進む。
そして突然、僕の身体は何の変哲もない地面に吸い込まれた。
「!?」
「...!?ロゼット!!」
兄様が僕を呼ぶ声が一瞬聞こえた気がするが、とてつもない勢いで遠ざかっていった。
僕の体は土のトンネルを転がっていく。
あちこちをぶつけて、ただただ痛い。
どうしてこうなったのか、訳がわからない。
一体、何が起きたのだろう?
そう考えていると、急に空中に放り出された。
そして、すぐに地面にぶつかった。
「っ〜!!痛..........っ!!」
すごく痛い。けど、まず状況を把握しないと。僕は立ち上がって、前をみた。が...
「...っ!?うわあっ!?」
そこは崖だった。
綺麗な夜空、それを見つめるには最適すぎる秘境だった。
危険な断崖絶壁であることを無視すれば。
僕は後退りして、そして後ろを見た。
すると、岩壁に体を預ける人影があった。
「わっ、わあああっ!?」
僕はまた驚いて、後退りした。
そして、後退りしすぎて、崖から落ちそうになった。
「うわあああ〜っ!!
............あっ?」
僕は落下していなかった。
僕は左手だけでぷらんと垂れ下がっている。
誰かが、僕の左手を掴んでいた。
咄嗟で顔はよく見えなかったけど、柔らかい手で確かにしっかりと掴まれていた。
そして、その手に引き上げられた。
「...はあっ...はあっ...ありがとう、ござい、ます...!」
引き上げられてすぐは四つん這いになって息切れしていたが、顔を上げて言った。
僕が見上げると、そこにいたのはドレスを着た少女だった。
「えっ...?」
僕は周りを見渡したが、そこに他の人はいなかった。
いたのはただ1人。
僕とそう変わらなそうな年齢の女の子、彼女だけだった。
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