4.風の国の王女①
「うちの娘が!!!!」
慌てふためく風の国の国王の元に、僕はいのいちばんに駆け寄った。
「落ち着いてください、一体どうされたのですか?」
「消えたんだ、うちの娘が!!!」
... ... ...
社交界は中止された。
控え室にて...
「父様、大丈夫なのでしょうか?」
「ああ。風の国の国王も水を飲んで少しだけ落ち着いた。
捜索隊が現在探しているところだ。」
「心配ですね。
我が国で他国の王女が行方不明になったと広まれば、国際問題になりかねない。
そうしたら数世紀にわたって続いてきた平和が崩れ、戦争が起こる。」
「縁起でもないことを冗談でも言うな、ヴァント。」
父は続けた。
「サマーブリージア王女は元々目を離すとどこかに行ってしまいがちな子だったらしい。風の国の国王はそう言っていた。
しかし妙なところがある。」
「妙なところ?」
「それは何です?」
「捜索隊を派遣したことを伝えたら、彼は一瞬だけ言ったんだ。
"やめて"、と。」
「は...?」
兄は少しイライラしたような口調が出た。さっきからばちばちと痺れを切らしていた。
「私は風の国王を不安にさせないように口に出していなかったが、彼がずっと迷うような素振りをしているから言ったんだ。
もし盗賊にさらわれていたり、猛獣に襲われたりしていたら大変だ。だから捜索隊を派遣する...と。」
父は続けた。
「するとやつは、それはない。と言った。」
意味が...わからなかった。
「意味がわからない」
兄は自分の髪をぐしゃぐしゃと掻いた。
「その言葉の真意はわからないが...そんなことは言っていられない。
結局捜索隊を出すことにした。
さっきは冗談だと言ってしまったが、確かにヴァントの言うとおりこのまま見つからなければ戦争の口火となってしまうかもしれない。
たとえ我が国フラストノワールが戦争をしなかったとしても...」
「いえ、他の国だって、どの国の王たちも戦争を始めるようには思えません!」
僕はつい言った。
だって父と国王たちは皆仲が良い。うわべだけの関係ではなく、友達そのものな関係であると知っていた。
だからこそ、そんな彼らが戦争を始めるだなんて...そんなわけないじゃないか!
「子供だな、ロゼット」
兄が言った。
「革命...などと称して、民衆が勝手に戦争を始める場合もある。
王族を反逆者だと称して処刑するのだ。」
「えっ...!?」
「...まあ、2人とも落ち着け。」
「俺は落ち着いています!」
兄はむきになって言った。
ムーニャリウムのカウディア王子...彼が言ったように、兄はかなり疲れているように見える。
実際この社交界の参加者を選定し、招待状を送り、始まってからも様々な管理を行ってくれていたのは兄だった。
普段から第一王子としてしがらみに揉まれていると言うのに...
「とにかく、お前たちももし何かあったら危ない。
ここでしばらく待機...」
「父様!お願いがあるのですが!」
僕がそう言うと、父はなんとなくその意図を汲み取ったようで、すぐさま訊き返した。
「なんだロゼット、言ってみろ」
「僕に、風の国の王女を探しに行かせてはいただけないでしょうか」
「何を言ってるんだ?漫才をしているんじゃないんだぞ」
兄が怒った。
「まあ、聞こうじゃないか。」
父は言った。
「風の国の国王は、サマーブリージア王女は盗賊にさらわれたり猛獣に食べられたりすることはない、そうおっしゃったのですよね?」
「ああ、確かにそう言った。」
「そして元々目を離すとどこかに行ってしまいがちだと。
そうともおっしゃっていたのですよね?」
「ああ、そう聞いた。」
「であれば、ただどこかに遊びに行ってしまった。そうなのではないでしょうか?」
「それで探しに行きたいと、そう言うのか。」
「はい。僕はこの辺りの地形には精通しています。」
「それは我々が住んでいるこの城...そのすぐ周り、すぐ近くなのだから、当然だろうな。
しかしそれは捜索隊たちも同じだ。
我が国の騎士団員から構成された捜索隊は、お前よりも優秀なのではないか?」
「いいえ、必ずしもそうとは限りません。
だって、騎士団員の方々は皆"大人"ですから。」
「だったら尚更-」
兄が言った。
「今回いなくなったサマーブリージア王女は僕と同い歳の子供...なんですよね?」
「ああ、そうだ。お前ともあまり体格に差はない。」
父はもうわかっているようだった。
「サマーブリージア王女殿下がどこかへ行ってしまったというのなら、子供にしか入れないような場所も探すことができた方が良いのではありませんか?」
「なるほど...もしそんな場所に本当に王女が行ってしまっていたとすれば、大人である捜索隊では確かに、見つけるのに時間がかかってしまうだろう。
わかった。良いだろう。
だがロゼット、もしお前が探しに言った場合、猛獣と出会ったらどうする?
それで襲われて死んでしまうかもしれないぞ。」
「その時は逃げます。」
「逃げられなかったら?」
「いえ、絶対逃げます!」
「絶対などありえない。お前が逃げた方向にもう一体の猛獣がいることもある。
護衛をつけることもできないぞ。
騎士たちはこの社交界の来賓らの護衛で手一杯だ。残った人員も既に捜索隊に回した。
それでも行くというのか?」
父からそれを聞いて、僕は一度目を閉じた。
そしてすぐに開けて、言った。
「...僕は、ロゼット=フラストノワールは、花の国のフラストノワールの第二王子です。
父様の後を継いで国王になるわけではありません。
僕がいなくても、この国はちゃんと続いていきます。だから、僕が死んでも大した問題ではありません。
それよりも、ウィンディラインの第一王女であるサマーブリージア王女がいなくなってしまう方が問題です。
彼女が本当に行方知れずになれば、ウィンディライン王家には他に後継はいません。
そのせいで四つの国の均衡が崩れて、戦争が起こってしまったら...僕はそんなの絶対に嫌です!
だから、探しに行かせてはくれないでしょうか!?」
父も兄も驚き慌てていたが、一応最後まで黙って聞いてくれた。
そして、覚悟を決めたように父は言った。
「...はっはっはっはっは!!!
お前がそこまで言うなら仕方ない。だがなるべく死ぬなよ」
「はい!」
「ヴァント、お前もそれで良いな?」
「良いわけないでしょう!
ロゼット、お前が無様に獣に喰われてフラストノワール王家の恥になったりしないように、俺もついていくからな!」
「...はい!」
僕は嬉しくてつい元気に返事をした。
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