2.社交界②

料理を届けると、ミルクシェ王女のご家族の方々はとても喜んだ。

ミルクシェ王女もさっきまでは見せなかった笑顔で、楽しく話していた。


ミルクシェ王女の兄、カウディア王子は感謝した。

「ありがとう、感謝する」


「いえ、元よりミルクシェ様が料理をお二人のところへ運ぼうとされていたので、僕はそのお手伝いをしたまでです。

たとえ王位そのものを継承しなかったとしても、地位あるものとして人を働かせる技術は必要ですから。」


僕がそう言うと、カウディア王子は突如僕に抱きついてきた。

「はーっはっはっは!ありがとう!ありがとう!!!」


「!?」


「やめてよお兄さま!恥ずかしいよ」

そう言ってミルクシェ王女は顔を赤くしてカウディア王子を引き剥がそうとした。


「失礼した、感謝のあまり抱きついてしまった。」

カウディア王子は頭を少し下げた。


「ごめんなさいね、カウディアはあなたのことが嬉しかっただけなの。」

王妃様が優しい声でそう言った。


「いえ、気にしないでください!

喜んでいただけたならむしろ光栄です!

ただ...想像していたより、とても気さくな方で驚きました。」


僕が言うと、カウディア王子は言った。


「僕の方こそ驚いたよ。

君はとてもしっかりしている。君の兄上と同様に。」


僕は驚いた。


「ありがたいお言葉ありがとうございます。

ですが、流石に兄には及びません。」


王位継承権を持つ兄は既に我が国の政治に参加しており、民に積極的に影響を与えている。

それを僕はとても尊敬していた。


「そうか、しかしむしろ...」

カウディア王子は思い出すような仕草をした。


「何でしょうか?」


「君の兄にも以前一度だけ、同じことをしたことがある。」


「それは...兄上に抱きついた、ということですか!?」


「ああ、そうだ。

そうしたら、とても嫌がられた!」


カウディア王子は続けた。


「ヴァント=フラストノワール第一王子...彼は顔の表面では笑おうとしていたが、とても警戒していた。


それ以上に、僕のことをこの世のものではない悪魔か何かのようなものを見たかのように、侮蔑と嫌悪を心一杯に滲ませていたのだ!」

内容のわりに、カウディア王子は快活に話した。


「そ、そうなのですか...」


「そうだ。

しかしなんと!

君にはそれがなかった!


ただ僕を(気さくな人だな...)としか思わなかった!

そしてそれどころか!それを隠さずそのまま口に出したのだ!


そこが、君と君のお兄さまとの最たる差異だな!!!」


「それはご無礼を。気分を害したのなら謝罪いたします、申し訳ありません。」


思ったことをあけすけに発言してしまったことを僕は謝罪した。

反省。

王族として、そのうち民に対しても不信感を抱かれる発言をしてしまったら大変だ。


「いや、それは違う!頭を上げたまえ!

確かに良い心がけをしているようだが!僕の前ではそれは不要だ!」


「君の兄上...ヴァント王子の活躍ぶりはとてつもなく耳に届いている。

確かに彼は王子としてとても優秀で勤勉で、将来有望だ。


しかしそれ故に、1人の人間として、とても疲弊してしまっているのではないかと僕は思うのだ。」


カウディア王子は僕に耳打ちした。

「次に会ったらさりげなくね労ってやると良いだろう!」


「...はい!」


... ... ...


そして僕は一旦ムーニャリウム王家の方々と別れた。

その際王妃様は微笑み、カウディア王子は手を振っていた。


ミルクシェ王女も小さく手を振っていた。

僕もそれに気付いて彼女に目線を向けて手を振り返すと、ミルクシェ王女は恥ずかしかったのかそっぽを向いてしまった。


けど横目ちらっとこちらを見て、手を振り続けていた。

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