前編 滅亡前
1.社交界①
天井からシャンデリアが煌びやかなドレスを照らし、人々が煌々と輝く会場。
これが、社交界...。
花の国フラストノワールの王子<ロゼット=フラストノワール>は真っ赤な目を燃えるように輝かせていた。
15歳の誕生日。
ロゼットの父、つまり国王は、他の国の王族や有力な貴族たちが集まる<社交界>を我が国で開き、息子である王子を招待した。
花の紋章を信仰する我が国<フラストノワール>は美や芸術を追求する国で、かわいくてお洒落な建造物や服飾、工芸品が特徴だと言われている。
それはこの僕...ロゼット=フラストノワールも理解していたし、誇りに思っていた。
だけどそれ以上に、人々が楽しげに行き交う姿に、感動させられてしまった。
「緊張しているのか?」
「いえ父様、感動していたのです。」
「会場の装飾も料理も、全てお前自身が何度も確認して決めたものじゃないか。
それどころか自分で作ったものまであって...それこそ目に穴が開くほど毎日見ていたというのに、一体何に感動したというのだ?」
父はわざとらしく聞いた。
「人が大勢いると、こんなに賑やかなものなのかと。
もちろん、服職人が仕立ててくれたこの服も、
ですが...」
僕は会場を眺めながら言った。
「他の国からいらっしゃった王族や貴族の方々の服装には、それぞれ差異があります。
それが面白いのです。」
「面白い?それは、他の国々の服飾が我が国に比べて劣っていると言いたいのか?」
国王はわざと、悪い言い方をした。
「いえ、そうではなくて!」
慌てて弁解しようとする僕に、父は笑いながら言った。
「わかっている。少し意地悪な質問をしたな。」
そして、突然告げた。
「ロゼット、1人で自由に回ってきていいぞ」
「え...良いのですか?」
「国王や要人らへの挨拶は、始まる前に済ませただろう。
お前が気になる相手と話してこい。」
父はそう言って微笑んだ。
我が国や他国の貴族の話を聞いて、商談などの社会経験を少しでも積んでこい、ということだろうな!
...と僕は思った。
「はい、ではありがたく行かせていただきます。
失礼しま——」
「きゃあああああっ!!」
突然の悲鳴。
すぐさま声の方を見ると、僕は目を疑った。
金色の髪をした女の子と料理の乗った皿が空中を飛び上がっていた。
そしてなんと、落下していく。
僕はそれを見る間に走っていった。
そして落ちてくる金髪の少女を両手で受け止めた。
背後では、共に走ってきた父が皿から料理を落とさず、受け止めていた。
さすが父だ。
そして僕は空から落ちてきた彼女に言った。
「お怪我はありませんか?」
僕と同じくらいの歳の少女は、それから数秒黙っていた。
「...?」
すると、みるみるうちに彼女の顔は赤く染まっていった。
「あっ、ああああああありがありありあり.........ありがとう」
狼狽したのち、小声で言った。
「いえ」
僕は(ふっ、またいたいけな少女を恋に落としてしまったな...僕としたことが...)と心の中で思いながら少女を腕から下ろした。
「あなた、花の国フラストノワールの、王子さま、ロゼット=フラストノワール様...だよね?」
少女は言った。
「はい、いかにも。
...それにしてもお皿が空を飛ぶなんて、一体どういうことなのでしょうか?」
「そ...それ...わ、わたし......がやりました...」
「そうなの!?」
僕は興奮のあまり、彼女の手を思い切り握っていた。
「!?」
僕はそのポルターガイストめいた超常現象の正体に興味津々だった。
周囲の反応を見るに、ショーという訳でもなさそうだった。
それも当然、今日この会場に大道芸人や手品師などの人物は招いていない。
人や物が空中に浮くなんて、それこそ魔法のようだと思ってしまった。
「もしかしてこれって......魔法!?」
「違います!」
慌てて否定された。
それもそうだ。
魔法の使用は長い間、それこそ僕が生まれるより前から禁じられている。
大勢の人間と都市を亡き者した、あの凶悪な歴史的大事件をもって。
「それじゃあ、どうやって?」
「厳密には...私じゃなくて...」
「じゃなくて!?」
僕の瞳は煌めいて仕方がなかった。
目の前の彼女があまりぐいぐいと来られるのが好みでないことはすぐに察していたが、それをわかっていても好奇心でワクワクと浮き足立つ僕の心を僕は止めることができなかった。
「
「操霊術!?」
「は、はい、操霊術ですうう!!」
彼女も負けじと(?)勢いよく返してきた。思ったよりノリが良い子なのかもしれない。
「料理を...お母さまやお兄さま、あとお父さまのところに持っていってあげたくて...
それで、1人じゃ運ぶの大変だから、霊魂に手伝ってもらおうとしたんだけど...」
「お優しいんですね、きっとご家族の方々も喜びますよ」
「でもわたし...霊魂にあんまりすごくないってバレてて...それで遊ばれてて...」
少女は少し涙目になった。
僕は慌ててなだめた。
「泣かないで、きっと霊魂もあなたのあまりの優しさに感激してはしゃいじゃっただけですよ!
やったーやったー!って、担ぎ上げちゃったんですよ、僕がもし霊魂だったら多分そうしますから!」
「...っ!?」
「ですから...ね?」
少し時間を置いてから、少女は黙ってこくこくと頷いた。
「僕が料理を持っていきますから、一緒にご家族の方のところまで行きましょう?」
「...は、はい...」
少女は笑顔になった。
「どこの家の方ですか?
参加されている方の名前は全て名簿で把握していますから-」
「わっ、わたしは......ミルクシェ=ルカルゴ=ムーニャリウム...」
「えっ?」
「わっ!?...わ、たし...!」
驚かせてしまったかと思ったが、彼女は少し強気で続けて言った。
「ミルクシェ=ルカルゴ=ムーニャリウム、です...!
月の国ムーニャリウムの王女、です...!」
しかし小さな声で付け足した。
「............い、一応.........」
やっぱり弱気だったかもしれない。
... ... ...
花の国の国王は、ずっと持っていた皿を、息子ロゼットと月の国の王女ミルクシェに手渡した。
2人が去ると、月の国の国王がやってきた。
「いやあ、ロゼット王子はしっかりしていますなあ、国王殿下。」
月の国の国王はふざけて言った。
「見ていたのか...ならお前が助けるべきだっただろう」
「いやあ、いいじゃないか。ロゼット王子が助けてくれたんだし。」
「だとしても私がいなければ料理は無事じゃなかったがな。
お前の娘なんだぞ?もし危険な目に遭ったらどうする、もう少し面倒を見てやったらどうなんだ」
「ずっと見守っていられるわけじゃない...
あと20年?30年?40年...50、60、70」
「それくらい生きてたら十分だろう」
「...でも、だから1人で行かせたんだろう?
もし自分が死んだ後も、自ら考え行動して生きていけるように。その練習をさせたくて。」
「お前こそ」
「しかし本当にロゼット王子はしっかりしているな。」
「それに引き換え、ミルクシェ王女は少し危なげがあるように思えるが?」
花の国の国王は、ちょっとふざけて言った。
「...ッ、よくも人の娘に失礼なことを言うじゃないか...!
15歳といったら...どこかの誰かさんはその歳の頃はもっと悪ガキだった気がするけどなあ!
一体どうやってあんないい子が生まれたんだ?」
「いいだろう。似たんだよ、母親に」
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