第59話 王冠と勇気(迷い人とお茶の時間は突然に)

 翌日、和也が去り、その後お客さんが居なかったのもありガレット・デ・ロアが余ってしまったなぁ、という話になった。

 昨晩と今朝、おやつと朝食代わりに頂いて、サァ仕事だと思って掃除をし終え、開店だとなった直後だった、一人のブレザー型の制服に身を包んだ、少し小柄で、見た目の印象が少し地味系の女の子がペチュニアのドアを開けて入ってきた。

「いらっしゃいませ。空いてる席にどうぞ」

「あ、えっと・・・ココってどこですか?!」

「へ?」

 切羽詰まった感じで聞かれ、何となく彼女は迷い込んだのかもしれない、そう思った新は。

「とりあえず座ったら?」

「え、あの、でも学校が!」

 どうやら真面目な人らしく、顔には焦りと不安がにじみ出ており、声もこわばっている。

「新さん。どうされたんですか? あら、いらっしゃい」

 接客応対が新だったのが良くなかったのだろうか、女の子は厨房から顔を出したミアを見て少しほっと胸を撫で下ろしたそぶりを見せる。

 どうやら男性が少し苦手なのだろう、新としては少し面白くは無いが、そう言った人がいるのは新も理解しているので、ここはミアに任せようと視線でどうにかしろと送れば、彼女もないかを察したのだろう、学生の目の前まで来るとその手を握り、こっちですよぉ、と言いながらカウンター席に座らせた。

「新さん、ガレットを出してあげてください。私はお紅茶です!」

「うぃ~」

 少し鼻息荒く指示をするミア。

 新はそれに従いながら、昨日のガレットを持ってきて女の子の目の前に置いた。

「あの、私お金もあまり!」

「あ~、大丈夫だ。ともかく落ち着け、焦ると怪我とか事故の元だ」

 新は少し彼女の方をポンポンと叩き、落ち着く様に促す。

 カウンター内ではニコニコと、楽しそうに紅茶の茶葉を漁りながら、何にしようかなぁ、と声に出して実に楽しそうにミアがクルクルと回りながら楽しそうにしていた。

「道に迷って!」

「大丈夫ですよぉ~。それより落ち着きましょう」

「え・・・あ、はい」

 紅茶の茶葉をポットに入れ、お湯を淹れ終ると、ミアは女の子にやさしく微笑みながらそう促した。

 紅茶が蒸れ、ティーカップに注ぎ、女の子へとミアがカウンター越しにお出しした。

「どうぞぉ、アフタヌーンティーです。ガレットが少し甘いので、スッキリしますよ」

「え、あ、はい」

 女の子はミアに促されるまま、ガレットを一口かじると、口全体に甘さとコクが広がったのだろう、少し甘いなぁと感じるようなそんな感じで顔を少ししかめた後、出された紅茶でそれを胃に流し込むと、目を見開きミアを見た。

 確かにあの感覚は驚くだろう。

 お菓子に合わせて紅茶をチョイスするミアの感覚は、毎日を共にしている新でもたまに驚かされるぐらい、彼女の勘とセンスはバツグンに良いのだ。

 どうやらお腹もすいていたのだろうか、女の子はその後ガレットをあっという間に完食してしまい、紅茶を飲み干したところで一息ついた。

 そのころにはようやく彼女の顔にも余裕が戻ってきている感じが見受けられ、話をする事も出来そうだと新は感じた。

「君名前は?」

 なんと無しに新は気になったので聞いてみると。

「鈴木 朱音って言います。中学2年です」

 名前を聞いてミアと2人顔を見合わせながら、新は内心で「(あ、これ、厄介ごとの匂いがする)」と思った新は決して悪気があったわけではない。

 こうして、昨日からの来客と、本日の来客の接点が明るみに出てしまった事により、ミアが新にキラキラした目で(新さん、昨日のお話の女の子ですよぉ!)と興奮しているのを新は無視したくて仕方なかったのだった。

 そんな朝から忙しくなりそうなペチュニアで、新は今日も平和だなぁと現実逃避をするのだった。


 

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