第58話 4話 王冠と勇気(迷いと確信)

 彼の名前は、九重 和也県立の中学に通うごく一般の中学生である。

 意中の相手は、同じクラスに居る鈴木 朱音というらしく、どんな人なのかと聞けば大人しくインドアナ人らしい。

 見た目もめちゃくちゃ可愛いという感じでもなく、いたって普通のどこにでもいる女の子だと和也君は言っている。

 2人は同じクラスで、よく一緒に趣味の話題をしているそうだ。

 趣味というのは二人とも絵をかくことが趣味らしく、見せてもらったがアニメのキャラクターを書いて、居るようで、新の目から見てもそれなりにうまいと思えるレベルだった。「接点あるなら大丈夫だ、問題ない・・・じゃぁ俺はこれでぇ」

「あ~ら~た~さ~ん~?」

 結論を出し、その場から離脱を計ろうとするが、隣に座っていたミアに襟首を掴まれその動きを完全に封じられ、ソファー席に強制的に戻されてしまった。

「仲は良いのよね? 雰囲気は話をしていてどんな感じなの?」

 気持ちいつもよりテンション高めのミアが、和也君にそう聞くと恥ずかしそうに朱音ちゃんの話をし始める。

「あかねこはね・・・」

「あかねこ???」

「あ、仇名です・・・あかねこって呼んでるんです」

 朱音だからあかねこ・・・・ネコでも好きなのだろうか?

 素朴な疑問が浮かんだが、細かい事は横に置いておき、今は彼の話を聞かないと隣にいるミアからご飯抜きとか言われかねないと、新は自分の夕食のためにお話を聞くことにした。

「あかねこがね。今度一緒に映画行こうって」

「デートじゃん、やったじゃん」

「その・・・・」

「なんだ、デートだぞ。青春じゃないの。好きな女の子と遊び行けるなんて俺は最高だと思うねぇ、大人になるとな、デートする時間よりも睡眠時間が欲しくなるんだぞ悲しい事に!」

「新さん・・・・」

「はい・・・すんません」

 雰囲気と話の腰を折るなという事なのだろう、やんわりとミアに窘められる新。

「そのデートなんですけど。俺もその、告白をし、しようかと、思いまして」

 声が段々とか細くなり、最後は聞こえずらいというか聞こえないと言っても良い様な声量で自信なくしめられていた。

「ミアさんはデートしたことあるの?」

「私はずっとここなのでありませんよ。新さんは?」

「ブラック企業戦士で社畜の俺にそんな時間はない!」

「も、もしかして俺、相談する相手間違えました?」

 今更ながらに、相談した相手2名がそろってまともな恋愛経験がない事に気が付いたらしく、画然としたまま固まる和也にドンマイと声をかける。

「あ、でも告白ってどうやるんですか?」

 話を無理やり戻そうとミアが頑張り、一応話を聞いてもらうのが大切だという事なのか、それともほかに頼れる人も、アドバイスをしてくれる人も居ないのか、和也は気を取り直して話を進めた。

「どうすればおkしてくれると思います?」

「そもそもさぁ、脈ありなのか?」

 新は社畜ではあるし、女性経験も少ないがある方である、そして何よりギャルゲーを嗜む人なので、ある程度女性は異性として意識する相手、もしくは一緒に居たい相手にはそれなりに分かりやすい行動をとっていたりする。

「脈って何です?」

「新さん。私も分からないんですけど何ですか?」

「お前もなのか・・・・・」

 新は和也だけならばまだわかるが、ミアまでも脈がある無しの意味が分からないなんて思っても見ず、軽く頭を抱えそうになった。

「良いか。話をしていて、距離が近い、いつも笑ってくれる。席が離れていればよく目があるとか。自分にだけ優しいとか、自分にだけ頻繁に声をかけてきたり、一緒に居る時間が長かったり」

「それ、全部当てはまってますけど」

「まぁそうだよなぁ。じゃなきゃデートになんて誘われない」

 そこでようやくこれが脈がある問う事なのかと和也が気が付く、あr他からしたら手間であり面倒な事だが、一から順序だてて説明をしないとこの手の人間は自覚しないのだと、やっていた美少女ゲームで、鈍感な主人公に対してアタックを仕掛けるヒロインたちが思い思いに胸の内を話しながら言っているセリフだった。

 これが良いのか悪いのかは別としても、少なくても良い方には向いたらしく、自信に満ちた瞳にはなっていた。

「で、でも、お、おれ。緊張するとこう、しゃ、喋れなくて」

 今も緊張をしているのか、新とミアの前で途切れ途切れに言葉を紡いでいた。

「ならお手紙なんてどうでしょう?!」

「手紙って。ラブレター?」

 ミアの提案に確認の意味も込めて新が効けば、ミアは嬉しそうに頬に手を当てながら。

「気持ちの籠ったラブレターなんて最高じゃないですか! それが自分の想い人が書いたもので、初デートにして、初めての告白、そして二人の思い出に残るものとしてそのラブレターが2人の記念日の証に!」

「お~い、もどってこ~い」

 その後もミアだけで話をし続けており、妄想の世界に旅に出た様なので、ミアはいったんほおっておいて、新はまっすぐに和也を見る。

「お前。朱音ちゃんとどうなりたい?」

「え・・・・」

「なんで即答できねぇんだよ。良いか。女性っていうのはだな、そう言う大切な事は即答してほしいモノなんだよ。

 少しでも躊躇してみろ、私には興味ないのかな? 好かれていないんじゃないかな? なんて想像し始めて、勝手に妄想して勝手に諦めて話が終ることだってあるんだぞ?」

 新の経験則であり実話であったため、実に熱のある真に迫った言葉だったため、静かに語ってはいたが、和也には効果てきめんだったらしい。

「お、俺、デートに誘われた時即答できなくて・・・それで」

「あ~マジかよ。そら相手も不安抱えて当日のパターンだぞ」

「やっぱりそう思いますか?」

「そもそも何で躊躇した?」

「それは、言われてパニックになっちゃって、気が付いたら黙ってて。何か言わなきゃって思って言ったのが、行く。だけだったんですが。これってヤバいですか?!」

「や、ヤバくはない」

 そんな話を聞いて、ヤバかったのではないだろうか? 自分は失敗していないだろうかとか聞かれても、正直本人ではないし、その場に居たわけでもないため、新としては明確に断言はできなかった。

「大丈夫です。きっと驚いたんだって思ってくれてますよ!」

「あ、お帰り」

「はいぃ~ただいまです」

 ようやく戻ってきたらしいミアが、タイミングよく励ますようにそう言うので、和也は希望に満ちた瞳でミアと新を見る。

「お前はどうしたいんだ? ラブレターなのか、直接雰囲気の良いときにその時の勢いで告白するのか。どっちだ?」

 少し悩むそぶりをした後顔を上げ、和也は。

「俺、直接言います!」

 そう高らかに宣言をしたので、ミアも新もほっと胸を撫で下ろした。

 こうして今日の営業が無事に終了する頃には和也も現実世界にもどり、事態は一件落着になった様に見えた。

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