第52話 3話スズランの心(探し物と決意)
一悶着あったが、江梨香が食べ終えるころには全体的に落ち着きを取り脅していた。
江梨香も先ほどの親の仇を見る様な目つきではなくなり、子供本来のあどけなさがある愛らしい顔で新たちを見ていた。
「それで、どうしてこんな所に?」
「私探し物がありまして」
「探し物? おもちゃ的な?」
子供の探しもと言えばおもちゃだろ、という変な固定概念がある新は、自然そう口に出すと、ミアは軽蔑するようなまなざしを向け、江梨香もそれは無いだろという様に頬を膨らませて威嚇するような目で新を見ていた。
「まてまて、俺が悪かった・・・探し物って、まさかこれじゃァないよな?」
なんとなく嫌な予感がして、ここ数日の栞放浪事件とでもいいのだろうか。
問題のスズランの栞を、クリアファイルごと掲げてみせると。
「それです・・・・盗んだのお兄さん?」
疑いの目と、大変鋭い視線が向けられ、新は一瞬たじろいだ。
泡立てて否定し、ここ、この状況に至るまでの説明をしたが、彼女から理解ある反応は得られなかった。
「そもそもこれなんなんだ?」
新の反応はもっともである、ここ3日持ち主と探し主が変わり、最終的に行きついたのが現在である。
しかも挟まっていた者に一貫性はなく、さらに言えば年代もバラバラ過ぎた。
「おばあちゃんの形見だそうです」
「形見? これ?」
そう言って新が栞の入ったクリアファイルを持ち上げると、江梨香がこくりと唸ず。
「そんな大切なモノなんで無くしたんだ?」
「お父さんが何かにしまっていたらしいんだけど。お母さんと大喧嘩した時に、お母さんが何かを全部売っちゃったらしく。それでなくしたって」
「売った・・・無くした・・・ああ」
「新さん今ので分かったんですか?」
だいたいの流れは新自身把握したらしく、何故か遠い目をした後おててのしわをしわを合わせて合唱ををし「そうか、災難だったな。心中お察しする・・・恐らくパソコンも破壊されたか消されたんだろう」などとつぶやいていると。
「お兄さんすごいね。まるでその場に居たみたい」
「あ~。パパにやさしくしてやるんだぞ」
恐らくパソコンも無事では済まなかったのだろう、相当数のPCゲームが死地に(売りに)出されたに違いなく、しかもスズランの栞が入っていたのはプレミアがついている作品だ、さぞ奥様はホクホク笑顔で帰ったのだろうなぁ。
新が遠い目をして、そういう女性とはけっこんしまいと、固く誓いながらも、こんなかわいい子供が居るんだし、卒業しろよ、とも思った。
一人百面相を行っていた新を見て、いまいち話についていけないミアは少し頬を膨らませる。
「新さん。説明!」
「ああ、悪い。つまりだな、江梨香ちゃんのパパさんが大切にしていた形見を、絶対安全安心、ましてや絶対に自分が売る事がないだろうモノの中に隠したわけだ」
「はい・・・それなのにどうして?」
「江梨香ちゃんのお母さんはパパの趣味を心よく思っていなかった。そして、大喧嘩した際それらを全て売りに出したんだと思う。その時に形見の入ったさっきの箱までもが売りに出されてしまった。
これであってるかな?」
「うん!」
どうやら新の推理は当たっていたらしく、江梨香が元気よく肯定してくれたが。
同士よ、心中お察しするぜ。強く生きてくれ。
新は確信したことで改めて江梨香ちゃんのまで見ぬ父君(同士)に敬意と憐みの言葉を心の中で送っていた。
「まぁ、パパが悪いみたいだからそれは良いんだけど。一度ね、パパにね、見せてもらった事があるんだよそれ」
新は、なるほどそれでこれがその大切なモノだって分かったのか、と素直に納得した。
見た事も無ければ、この栞が探し物であるとは気が付けないので、何故この子はすぐに反応できたのか不思議だったが、すぐに答えは出てくれた。
こういう所は大人よりも子供は素直で助かると、色々な腹黒い大人たちを見てきた新としては心から感謝していた。
「ねぇ、もう一つ聞いて良いかな。おばあちゃんと、お父さんの特徴教えてくれる?」
「おばあちゃんはね、良く分からないの、会った事が無くて。もう石の下なんだって。でもね、お写真見たんだよ。えっと、こんな感じ!」
そう言って江梨香は自分の髪の毛を束ね、頭部の右寄りに寄せてギュッと絞る。
「サイドポニー・・・昨日の人ですよ新さん」
「お父さんは?」
「えっとぉ、本が好き・・・なのと変なの読んでる事がある」
新はそれを聞いてなるほどと思ってしまった。
そもそも最初に出会った時に所持していた本からして特殊である、それ以外にも興味の引かれた本には手を出していたと考えれば、変な本を読んでいるという子供の答えもあながち間違いではないのだろう。
「ミアさん、これ、間違いなく江梨香ちゃんのお父さんの持ち物みたい。返していい?」
「大丈夫だと思いますよ。でも皆さんお若かったですよね?」
「お前は何か知らないのかい!?」
「いいえ、何にも」
この不思議現象を知っているものとばかり新は思っていたので、ミアが特に悪びれたふうでもなく素直に答えたので、その場に膝を折りそうになった新。
恐らくだが、時代が違う年代の人がここに飛んできて1日ずつ関わっていったのだと新は思っていたが、それに何の意味があったのかがさっぱり分からず、目の前の小さな女の子を見る。
「ねぇ、江梨香ちゃんはどうしてこれを探しているの?」
「あのね、あのね。ママとねパパね。これが無くなってから毎日喧嘩してるの。それでね、それで・・・・」
後に続く言葉を必死に探し、どうにか言葉にしようと頑張っているのが見て取れるが、まだ知識の浅い子供にとってどう表現すれば良いのか、なんていえば伝わるのか分からないのだろう。
必死に言葉を探しているうちに頭が混乱してきたのか、目が泳ぎ始める。
「だからね、だから必要なの!」
恐らく、仲直りにはこの栞がどうしても必要なのだろう、それを伝えたいが、言葉にならず、ただただ必要だと、そういう言葉になってしまっているのが見て取れた。
新も馬鹿ではない、こんな小さな女の子がこんなか教え必死で探しているのだ、恐らく相当もめている事なのだろう。
しかし、問題はこれを素直に渡しても恐らくその2人は納得しないだろう。
「返してあげないんですが?」
「返したいんだが。入ってたものが問題あってだな・・・・えっとはぁ。どうするか」
「お兄ちゃん・・・・」
縋る様な、助けを求めるような瞳がまっすぐと新を見つめる。
恐らく助けを求めているのは間違いないだろうし、縋っているのも気のせいではない。
「江梨香ちゃん、今からいう事に素直に答えて」
「うん・・・なぁに?」
「パパとママは好き?」
「うん大好き。だから喧嘩してほしくない!」
はぁ、と一つ溜息をついてミアの方へと顔を向けた。
「ミアさん、現実世界に行ってきても?」
「え・・・いや、良いんですけど。危なくないですか?」
「そうなんだが、これが入っていたものが問題ありましてね。この子がこの栞を一人で持ち帰っても恐らく喧嘩は収まらないどころか最悪の事態になりかね愛んです」
新の言っている事がいまいち理解できていないのか、不安そうな顔をしたまま新を見つめるミア。
「新さんは、どうにかできるんですか?」
「えっとぉ。少なくても最悪の、江梨香ちゃんの両親が喧嘩喧嘩したままというのは無くなると思います」
視線をそらさず、ミアはじっと新を見つめ、やがて。
「帰りはこちらで迎えをしますので、帰りたくなった場合、そのペンダントを握って私の事を強く思い出してください」
「そんなんで帰れるの?」
「普通の方法ではないので、緊急時はそうしてください」
どうやら緊急の対処法だったらしい。
行きはおそらくライトレールに乗れるのだろうが、帰りも同じ手が使えるかは不明である。
何せ新は指名手配犯である、駅などのカメラがいっぱいあるところに顔を出せば、それだけで存在がバレてしまうだろう。
最初は良いが、指名手配犯だ、すぐにライトレール周辺や駅は警察などに囲まレってしまう可能性があり、2度目仕様はかなり厳しい。
とはいえ、一家庭の崩壊の危機である、リスクを冒す必要性は十分にあるのではないだろうか?
そう感じたからこそ、新は仕方ないかぁと思う事にした。
「準備してくる。一緒にお父さんとお母さんにこれを渡そうか?」
「お兄ちゃん、付いてきてくれるの?!」
「あ~、はい、行くしかなさそうなので行きます」
「ありがとう!」
邪念のまったくない、素直な純粋なありがとうに、いつぶりだろうこんなに素直に人から感謝の言葉をもらったのはと、新は改めて子供の素直さとまっすぐさがいかに力強いのかおもし知らされる。
こうして、指名手配犯が、一家族の大ピンチを救うべく、身の危険を侵してまで現実世界に戻る事となった。
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