第48話 3話 スズランの心(本と押し花と・・・・)
「新さん新さん、これ見てください!」
昼下がりの午後、相変わらず波が激しいペチュニアは、今日は来客数0人を記録しており、ぶっちゃけ暇である。
新のそんな心のうちを知ってか知らずか、ミアがどこかに出かけていたと思えば、戻ってくるなり新に駆け寄り、何かを見せてきた。
「本と・・・栞?」
ミアがもっていたのは、1冊の本と栞だった。
しおりは押し花らしく、見た感じスズランだ。
スズランは甘さ、幸福、心の純粋さ、という花言葉があと七海から一度だけ聞いた事がある。
本のタイトルは「(ブルーもしくはブルー)」90年代にあった文庫本のようで、新も昔ドラマでやっていたのをたまたま見たのをきっかけに読んだことがあった。
ドッペルゲンガーのお話で、お互いの人生を入れ替えるところから話が変わり、ひしひしと浸食されていく日常と、他人の人生を自分は生きられないんだよ、そんな事をすればこうして自分を失っていくよ。
そう問いかけられているような、そんな少し怖さを持ちながらも、色々今大切なものは何? と問いかけられるそんな作品だったはずだ。
スズランが幸福や心の純粋さを意味する花言葉なのに、それを挟んでいた本は割と不釣り合いなもので、新は少し驚いた。
「また懐かしいタイトルだな」
「知ってるんですか?」
「読まんほうが良いぞ、ちと怖い作品だから」
新本人は当時これを見た時は中学2年生で、怖いながらも引き込まれると感じたのをよく覚えている。
良い作品ではあるとは思うが、新はぶっちゃけ怖いので2度はみたくないなという印象だった。
しかし、こうして強烈に記憶に刻まれているのだから、作者さんの思惑としてはしっかりと意図が読者に伝わっているのだろうとも思う。
「それより、その本に挟まってる押し花の栞。多分大切なモノだろうから、絶対に折り曲げたり、無くすなよ!」
「なんか新さん、本に対して詳しいですし。少し厳しくないですか?」
「俺の唯一の趣味だ!」
「凄いです」
「いやぁ・・・・ってなんか馬鹿にされてる気がするなぁ」
胸を張り、公言したらミアがすかさず褒めてくれる。
その流れが心地いい物ではあるが、何故だか妙に虚しくなるのは何故だろうかと思う新は、はぁと一息ため息をついて、本を手に取って、そういえば本なんて最近読んでないなぁと思い出す。
「なぁ、ここ本って・・・・」
「どうぞ」
「ああ、これはご丁寧にどう・・・だれ?」
突然、見知らぬ男の人が店内におり、すかさず本を差し出してきたので思わず手に取る。
新は音もなく店内に現れた人物が人間なのか、神様なのかの判断を慎重にせねばなと度思いながら眺めていると、居心地悪そうにしながら。
「あ、あのぉ、この辺に本落ちてませんでした?」
「え、ああ、こちらですか?」
ミアが先ほど拾ってきた本を差し出せば、慌ててその男はミアからほぼひっさくるみたいな勢いで本を受け取り、中を確認してほっと胸を撫で下ろす。
「大切なものなので。良かったぁ」
「押し花ですよねそれ?」
最近では流行りなどは無いが、一時期押し花が流行った時期というのがある。
すでに20年ほども前の話で、当時新はまだ小学生だったのを覚えている。
押し花にしたい花と、栞を選び、本の圧力で押し花にする。
学校の授業でもやった記憶があり、すぐに手に入りやすい花で挑戦した記憶があった。
だが、新は親にこういわれた事がある。
「(栞で押し花を使っている人は、その栞にとても大切な思い出や願いがこもっているの。だからね、もし拾う事があったら、必ず持ち主に返してあげて。
その押し花の栞がもし手作りのように感じられるのであればなおの事ね)」
そういって微笑んだ母の顔を今でも新は忘れない。
本とは、様々な知識だけでなく、想いや願い、書き手が読み手にどのような想いや願いを伝えたいかが込められていて、感じ方は人それぞれだが、書き手の熱意が必ず本のどこかに絶対にある、
それを読み解き、楽しむのが本を読む代込みの一つでもあると新は思っていた。
「それで、これは?」
「私の書いた本です。読んでください」
「ああ、これはご丁寧にぃ?!」
ナチュラルに話を進めるものだから、新も普通の河合みたいに態様をしていたが、相手がとんでもない事を口走ったので、思わずほんと相手を見比べてしまった。
彼の言葉が正しければ彼は作家という事になる。
しかし、問題なのはなぜそんなすごい人がペチュニアに現れたのか言う事である。
ミアいわく、この場所にたどり着けるのは、心や体に迷いがあり、それを癒したいと思う人だけがたどり着けるのがここペチュニアだという。
ちなみに、ミアの話では裏にある教会にたどり着ける人は基本的に居ないようで、ここどまりの人が多いらしく、ここで様々な事を吐き出したり、納得させたりして心に平穏を取り戻し帰っていくそうだ。
今日のお客はどうやらこの人らしい。
「どうぞ」
「あれ、俺注文していないんだが?」
ミアが何も言わず聞かずに、お茶を入れ始めていたのは新も気が付いていた。
入れられたお茶は、本日は白桃烏龍らしく、エメラルドグリーンの液体から桃の上品な甘い香りが漂ってきて、鼻先をかすめ楽しませてくれる。
「飲んでください。ココはそういう所です」
少し釈然としないらしく、迷うそぶりを見せていたが、やがてお茶の入ったティーカップではなく、今日は湯呑を彼は口に運んだ。
口に含むと目を丸くし、新とミアを見て。
「コレ桃の香りがします!」
とても高いテンションでそう言い、嬉しそうに残りを飲み干していった。
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