第47話 2話狐の面とカモミール(瑠璃色の輝きは導きの証)

 意識が浮上し、新はゆっくりと覚醒を促されるように目を開ける。

 教会の十字架の前でひざを折り、祈りを捧げた状態でゆっくりと目を開けた。

 どうなったのかいまいち分からず、不思議な感覚に心と体がフワフワする。

「新さん!」

 隣で同じような体制で祈りを捧げていたミアが、感極まったかのようにいきなり抱き着いてきた。

 突然の事に意識がついていかず、受け身も取れなかったため、背中を思いっきり床に打ち付けたが、幸い木造だったこともありそれほど痛みはなかった。

「いってぇよ。どうした?」

「それです」

 文句を言いつつどうしたのかと問いかければ、新の首元には一つのネックレスがぶら下げており、そこには瑠璃色の輝きをした石があった。

「さっきまでそんなの付けてなかったよね? ラピスラズリ?」

「なんだラピス、バルスてきな?」

「違うわよ。特殊な鉱石で、持っているだけで不思議な事が起きたり、聖なる石とも呼ばれるものよ。ほら、深い青の中にキラキラと金色が混ざってるじゃない?」

 妙に詳しい七海が、丁寧に石について説明してくれる。

 瑠璃色の中の金色がまるで壮大な宇宙の銀河でも示しているよな、そんな吸い込まれそうな石である。

「これなんなんだ?」

 素朴な疑問で、恐らくその答えを知っているであろうミアに問いかける。

「それは、現実世界、天界、冥界への行き来ができるいわば通行許可証の様なモノです。私も持たされているんです」

 そう言って首から下げていたネックレスの、胸元の服の奥に隠していたらしいネックレスを引っ張り出して新に見せる。

 確かにそこには新と同じ瑠璃色の輝きに、金色の星々を散りばめた様な、そんな石がそこにはあった。

「あのぉ、つまりこれがあるとどうなるんですか?」

 新もそれが気になっていた。

 実際、これがあるからと言って何が変わるのだろうかと。

「これはですね、ここに留まるためのモノでもあるのですよ」

「あ・・・そういう事か」

 それを聞いてようやく、新がこの場所に居て良いための物だったのだと理解した。

 新の理解とは裏腹に、七海は不安そうな顔をする。

「お兄ちゃん?・・・・」

「そんな顔をする・・・なんで?」

 泣きそうになり、顔が歪みだした七海をなだめようと七海に視線を向けて新は気が付いた。

 七海の胸元に、新と同じネックレスがある事に。

「お兄ちゃん???」

「七海さん。それどうしたの?」

「それって・・・・え?! わ、私知らない!」

 七海自身も知らなかっつあらしく、目を見開き自分の首にかかっているものを掌に載せて確認する。

「やったじゃないですか! これで七海さんも出入り可能ですよ」

 いや待てオイ。新はそう思った。

 昨晩散々思い悩み、新が居なくなったらとか、色々不安がってたのに、七海がここを出入りするのは大丈夫なのか?!

 口からそう言いかけそうになり、新はぐっと言いたい事をこらえる。

 七海はと言えば突然の事に一瞬戸惑いの表情を浮かべていたが、新に会えるのだと理解し始めたのか、その表情はみるみる明るさを取り戻していき、自然な形で笑顔を見せた。

 用件も済んだとの事で、再びペチュニアに戻れば、どこから持ち出してきたのか、命がケーキをつまみながらお茶を楽しんでいた。

「ケーキ・・・どこから?」

「すまんな、ショーケースのを勝手に拝借した」

「いや、するなよ」

「良いですよべつに」

「良いのかよ!」

 新はドット疲れつつ、席にその身を投げた。

「お兄ちゃんはこれからどうするの?」

「ひとまず許可が下りたらしいし、居て・・・良いのか?」

 新はそう言いつつ、少し不安になりながらミアへと視線を向けた。 

 ニコニコといつもの笑顔で新を見つめながら、特に何も言葉は発さない。

 どうやら自分で決めて良いらしいと、新は勝手に解釈をして目の前の七海に視線を向けると。

「何それ! 何それ!」

「お、おい。いきなりどうしたぁ?」

 今まで見た事もないぐらいの怒りの形相で、新を睨み、言葉を投げかける七海に少し怖くなり新は恐る恐る問いかけると、彼女は更に睨みを効かせながら。

「何その、分かるよな、分かったぜ。みたいな目だけで会話してる感じ!」

 どうやら傍から見てもそう見えていたらしく、七海は何が不満なのか、席に着くなりカップのお茶を飲み干して「おかわり!」と強い口調で言い放ちながら、ブツブツと、面白くない面白くないわ、とまるで小さな子供のように起こり続けていた。

 新は、これは触らぬ神に祟りなしのやつだ。そう思って静かに紅茶を口に運ぶ。

 そんな新と七海の様子を、安心しきった顔で、慈しむ様な目で見ながら。

「幸せです」

 ミアはそんな事を3人に聞こえる様に言ったのだった。

「ねぇ、この娘、お花畑なの?!」

「知らん。が、俺の命の恩人だ。ほどほどに頼む」

「納得いかないわよ!」

 普段ここまで声を荒げたり、心を取り乱したりすることがないはずの七海が、感情のおもむくままに発言しているのを見て、人間変われば変わるなぁ、と他人事の様に新は思いながら、窓の外を見て現実逃避をするのだった。


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