第46話 2話狐の面とカモミール(それぞれの葛藤と決断)
イチャイチャしている。
七海にはそう映っていた。
昔からよく知るお兄ちゃん。
そして私の初恋の人。
私が中学に上がるころには既に社会人で、そのころにはほぼ疎遠になっていたのに、必ず実家に帰ってきた時には顔を出してくれていた。
綺麗だね、可愛くなったね。
そんな言葉を掛けられるたびに、七海自身はどんどんと大人な彼に惹かれて行ったがそれと同時に分かるようになったことがあった。
歳を重ねるごとに、彼の表情や仕草が暗いものとなり、ついには実家にさえ帰省してこなくなった。
合わなくなって3年の、彼の勤めていた会社が不正横領疑惑が持ち上がり、社長と関係者は蒸発、全ての責任が彼、新さんに擦り付けられ、重要参考人として指名手配をされてしまった。
しかし、彼はその少し前から行方が分からなくなっていた。
どうしていいのか分からず、藁にも縋る思いで、小さい頃からおばあちゃんによく連れてこられていた神社の神様に、七海はお百度参りをする事決意した、すぐに夢の中に命さんが出てきて、その必要はないと告げられたのが昨日。
指定された場所にいけば、神と名乗る和服美人の小さな女性が、こちらだと言ってライトレールに乗せられ、気が付けばこんな場所まで来ていた。
半信半疑で付いてきてしまったがと思っていた矢先に、駅を降りてすぐに意中の新さんを見つけ、感極まって抱き着いたのがさっきの出来事。
しかし、目の前では思い人がとても美人のシスターさんとイチャイチャしながら私にお茶をふるまおうとしている。
どうすれば良いのだろうか。
そんな葛藤の中、新は七海の前に腰かけたのだった。
何故、無理やり連れてこられたのだろうか。
ミアはそう思いつつ、席の奥側へと体を動かしていく。
新さんが4人分の紅茶を淹れ、それぞれの席に置く。
自分で蒸らしからポットまではやったため、恐らく味は完ぺきだとは思うが、これはお客様に居れたものであって自分用ではない。
それに、自分は部外者だ、ここに居て良い訳がない。
そう思い、立ち上がるモーションを取ろうとするも、すぐに新さんに肩を掴まれ静止させられてしまった。
自分はどうしたら良いのだろうか。
恐らく七海さんは新さんを連れ戻すつもりだろうし、逢ってすぐに分かった。
彼女は彼が好きなのだと、その想いはおそらく本気であると。
そんな本気の相手に、私のただ寂しいから一緒に居てほしい、と言う浅ましい願いをで2人の関係を邪魔して良い訳がない。
私はこんなに真剣に誰かを思う事なんてできない、できるのは導いて、癒すだけ。
でも、それは真の意味でその人の心に寄り添っているわけではない、そんな事は私が一番理解しているのだ。
新さんと一緒に居たい。
絵里奈ちゃんの件以降、この気持ちがより一層強くなってしまった。
しかし、私はココから出られないし、やるべき事がある。
新さんには現実世界に戻り、人生をやり直すチャンスがある。
私は、どうしたら良いのだろう。
神様は何で、七海さんがここに来ることを許可してしまったのだろうか。
ミアは内心で抱えている悩みと不安と不満を、聴いているのか分からない神に向かってぶつけるのだった。
「でだ、帰れん」
一通りの話を終え、新はそう言って話を完結させた。
「新さん。望めば帰れますよ?」
ミアは優しく諭すようにそういうが冗談ではない。
戻れば確実に逮捕され、恐らく刑務所行だろう事は明白。
今や事情を知る者はだれもおらず、証拠は全て新が犯人だという事を示していると七海から聞いた直後で戻れるわけもなかった。
「お兄ちゃんは・・・ここに居て良いんですか?」
少し不安に満ちた表情でミアに七海が問いかける。
ミアは内心で何かと葛藤しているようなそんな顔をしていたが、ゆっくりと顔を上げまっすぐに七海を見つめて言った。
「だ、大丈夫だと思います」
「何です? その曖昧なの」
「き、聞いた事ないんです。それに新さんの事は私の独断で・・・・」
「聞くって、アレにか?」
新がミアの方へ顔を向け、まっすぐに見据えながらそう聞くと、彼女は恐る恐るといった形で頷いて見せた。
七海は何の話をしているのかさっぱり理解できず、小首をかしげる。
「行ってくると良い。私は外の神だからな・・・・七海、君がここに来れたのはその人物の許可が下りたからだ」
命が七海にすべての事情を話していたなかったのか、七海はソレに興味を示しまっすぐに新を見つめる(連れて行って)
「ミアさん・・・・」
「はぁ、わ、分かりました」
ため息を一つ吐き、動揺しつつも一応、応じてくれるらしい。
3人で立ち上がると、新、ミア、七海で協会へと向かった。
教会の重い扉を開け、中に入ると、外装とは違い、中は割と広いのでその広々とした空間に七海が、わぁ、と声を上げた。
七海の感動とは裏腹に、新とミアは緊張した面持ちで十字架の前まで歩みを進めた。
十字架の前に着くと、膝お折り、祈りを捧げる。
今回は他人事でなく自分の事がかかっているため、新もまた祈りを捧げるために膝を折り、両手を胸の前で握り、鈴鹿に目を閉じて祈りを捧げる。
すると、意識が次第に沈んでいき、やがて真っ暗な闇の底から光が見え始めた。
「何の用だ貴様」
その光が新の目の前に来ると、どこから声がしているのか直接話しかけてきた。
「え、喋ってる?」
「用がないなら飛ばすぞ」
「用事はある。えっとぉ、俺ってここに居て良い人?」
「・・・・・」
おそらくこれが神なのだろうと、そう思った新は、慌ててその光に問いかける。
我ながら知性の欠片もない聞き方に呆れるが、変に回りくどく聞くよりはよほど良いだろう。
「ミア・・・」
突然声音が変わり、ミアを呼ぶ、すると暗闇の中にミアのスタが浮かび上がった。
「はい・・・」
答えた声には院長と不安が入り混じった固い印象があり、明らかにミア自信がこの状況が良いものではないと思っている様に見えた。
「私は許可をしておりませんが?」
「わ、わたくしの独断でございます。お許しください!」
言うと同時に首を垂れ、全力で謝る。
「私にも立場があります・・・管理責任者であるが故の」
「はい」
「新庄 新さんですか・・・なるほど。ミア?」
「はい」
「一度だけ問います。今幸せですか?」
質問の意味が分からず、新はそこで思考が停止してしまう。
声一つだけでこれには逆らってはいけないと、そう本能が告げる様な、そんな感覚におそわれ、無駄に声を発してはいけないと体が訴えかけてくるほどのモノ、それが今目の前にあって、新の身体について聞いている、はずなのだが質問が明後日の方向へ飛んだと新は思っていた。
それはミアも同じだったらしく、祈りを捧げ、首を垂れていた顔を上げて光を見据えた。
「・・・はい。毎日楽しいです!」
「そう」
ミアが光に向かって満面の笑みを浮かべた直後、一言だけそういった瞬間意識が浮上する感覚におそわれた。
寝ていて朝覚醒するときに味わうあの感覚に似ており、どうやら自分たちの意識が戻って行くのだと、新は感じたのだった。
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