第44話 2話狐の面とカモミール(欲望と、朝食とお味噌汁)
男とは愚かな生き物である。
自分の欲望と性欲には正直であり、いくら頑張っても無理な時は無理なのである。
そう彼女に説明をしたいと、そう思いつつ、ミアが朝食を作ってくれているであろうリビングへとむかった。
ドアをソロっと開けると、中から景気のよさそうな鼻歌が耳に届く。
「(なんでそんなにご機嫌なの? ま、まさか、俺毒殺でもされるんじゃ?!)」
なおドアホな妄想が頭をよぎるが、先ほどの出来事を見られて鼻歌を歌える人が居るのかというと、多分ノーだろう。
新の迷いや葛藤とは裏腹に、体は正直なもので、ぐぅ~、とお腹が鳴り空腹を知らせてくる。
自分の正直さに内心悪態をつきたい思いでいっぱいになりながら、漂ってくるおいしそうな匂いに負けてリビングへと入った。
「おはよぉ~」
なるべく自然体で、不自然にならないよう意識しながら新はリビングへ。
部屋に入ってきた新を見て一瞬硬直し、顔をみるみる赤らめた後。
「えへへ~へ。おはようございます」
フニャフニャの笑顔であいさつをされた。
え、ナニコレ?!
混乱する頭をよそに、新は席に着くと、それを見てミア朝食を運んできた。
ご飯に、お味噌汁、卵焼きに、焼き魚という日本の食卓の定番メニューがずらりと並ぶ。
近年、こんな朝食朝から作れるわけないだろ? そんな手間かけられねぇよ、などと言う声が数多くSNSなどでみられるが、新の生まれた頃はこのが日常的に出てきており、むしろ今の現代人のやらなさは、レンチンの発展が原因では? とまで思っている。
確かに手間だろうが、こういうのは流れ作業であり、ご飯はタイマーセットしておけばいいし、昔と違って出汁は、ダシの素があるためむしろ昔よりも楽なのではとさえ思う。
何故新がこんなに詳しいのかと言えば、当然であるブラック企業とは、残業もそうなのだが、給料が恐ろしいほど安い、ぶっちゃけてしまえば生活が危ういレベルで安い。
近年の物価高でさらに首が閉まっている生活の中、いかに節約をして自分のためのお金を作るのかが課題となっていた。
故に、彼は自炊もできるし、こういった事への理解力も高い。
ブラック企業は悪しき風習で、高度成長期の負の遺産と言ってもいいが、それもまたある意味では必要に迫られて覚えなければならない事ができる、いわば試練上の様なものなのかもしれない。
「い、頂きます」
「は~い、お召し上がりくださいな」
先ほどのキャミソール事件が尾を引いており、後ろめたさ全開で新は礼儀を通す。
新とは真逆に、ミアの機嫌は気持ちの悪いぐらい良く、何か裏があるのではないかと思ってしまうほどだ。
席に着き朝食を頂く、まずは卵焼きに手が伸び、一つかじれば、ふわっとした中にダシの甘みと、砂糖なのかみりんなのか甘み、黄身の甘みがうまいぐわいにマッチしてとても美味しく、すぐにご飯へと手が伸びてしまう。
すかさずお魚に箸を伸ばせば、鮭なのだろうか少し塩辛さはあるが、寝ているときに汗をかいているのか、すごくおいしく感じる。
人間は睡眠時、汗をだいぶ書いているらしく、朝は水分とちょっとした塩分が割と重要だと医師はよく言っている。
さらに、朝はタンパク質を摂取するのが良いらしく、卵はそのタンパク質の宝庫だとの事だった。
お味噌汁は、わかめ、油揚げ、お豆腐の3つで構成されたお味噌汁で、カツオとおんぶだろうか? の合わせだしの様な感じの味の中に、味噌のコクと深みが冷えた胃を温めてくれた。
「おいしい」
思わず素直に感想が漏れる新。
「うふふ、味わってくださいね」
新の反応に非常に満足したのか、とても嬉しそうにハニカむ。
一心不乱に食べ始めた新を見て、慈しむ様な優しい目をしながら、ミアもまた自分の朝食を楽しむのだった。
おいしい、その言葉を聞くたびに、ミアの心が温かな何かで支配されていき、意識しなくても自然と笑みがこぼれている事に、本人は全く気が付かないままに。
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