第43話 2話狐の面とカモミール(手触りと男のロマンは絶望と紙一重)

 朝の陽ざしが窓際から差し込み、頬を照らして熱を持たせる。

 眩しさと暖かさよりも、少し暑さを感じて目が覚めた。

 昨夜の出来事がまだ脳裏に残っており、暖かさと温もりがあるけれどそれ以上に、何かが満たされているような、そんな感覚が胸いっぱいに広がっていた。

 しかし、その影響なのか。

「超、眠いんだが」

 眠気は限界値である。

 別にす意味を取れなかったとか、興奮して寝付けなかった。

 欲情していたという話ではなく、体がまともに睡眠をとれていないと訴えかけているのだろう。

 近年、十分那須民を取っているはずなのに、睡眠をとれていない、睡眠勘違い障害? とでも言うべき症状が流行っているとは聞くが、それとも流石に違うと新は思った。

 単純に、昨夜の事が尾を引いているのだろう。

 そこで初めて、ヤバいと気がつき、自分の下半身を確認する。

 幸い、今日も特に変わらずなのだが、それでもアレだけの甘さと、魅力的な状況だ。

 体が反応し、夢精を行っていても不思議ではないと思ったのだが、幸いそういう事はなかったようだ。

 安心して、着替えを済ませ、部屋を出ようとして何かに気が付く。

 部屋に見覚えのない服が置かれており、気になってそれに触れ広げてみると。

「なっ!?」

 生地がサンテ素材の白のキャミソールだった。

 少し大人っぽく、色っぽいそれは、新としては普段お目にかからない貴重なもので、女性と一夜を共にするならば一度は着てもらいたい、そう思う男は少なくないだろう夜の部屋着である。

 ブラック企業勤めで、彼女もおらず、居る同僚の女性も死んだ魚のような目で毎日を共に過ごしていたため、色気などは皆無であり、それどころか日々を乗り切るので精一杯だったため、このようなものを目の当たりにすることなどあるわけもなかった。

「な、何故ここに。しかもまだ生あたた・・・・いかんいかん。着替えて行かねば」

 そう言いつつ、どうしてか手放すこととができない新。

 少しだけならと思い、その温もりが残ったキャミソールと顔に近づけた。

 すると、ほのかに嗅いだことのある甘い香りがし、それがまぎれもなくミアのモノであると示しているようだった。

 昨晩、妙に肌触りが良かったのはコレを着ていたからのかもと思うと、朝から興奮しそうになる新。

 こんな事はいけない、変態だろ?!

 そう思うのだが、思うのと行動が一致しない事なんてまれによくあるだろ? そうだろう? などと誰に言い訳をしているのか分からないが、そう思った時だった。

「新さぁ~ん、朝で・・すよ?!」

「?!?!?!?!」

 ドアが開かれ、ミアが現れる。

 当然、新はキャミソールをその手に持ち顔に近づけ、その温もりと匂いを堪能している最中だった。

 キャミソールの持ち主は間違いなくミアであり、恐らく昨晩から今朝にかけてきていた者だろう、それを男性に、あろう事か嗅がれていた。

 ミアは新を見て、手に持っているキャミソールを見て新を見る。

 ミアは踵を返し、両手で顔を覆い隠しながら走り去って行った。

「あ、あああああああああ?!?!?」

 新は手に持っているキャミソールを握りしめたまま、絶望を叫びつつも決してそれは放すことなく、膝を折り、床に跪いたのだった。


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