第41話 2話 狐の面とカモミール(心と体と、沈黙の先に)
「・・・・」
「・・・・・」
カチャカチャ。
ホークやナイフ、それが皿などに触れるたびに音が鳴る。
絵里奈が居なくなり、静かになった食卓になったなとは思っていたが、本日はよりいっそうに静けさが目立つし、どういうわけかミアは一言も言葉を発しない。
いただきます以降、お互いに一言も会話はない。
「あのぉ~・・・・」
「・・・・」
意を決して声をかけるも、ミアは特に反応を示さないどころか、どこか虚ろな感じさえ見て取れ、考え事をしているような感じだった。
そうこうしている間に、食べていた料理を口に運ぼうとしてこぼす。
こぼした料理は幸い皿の上だったが、彼女の口はそれお含んだかのように、咀嚼している様に動いていた。
心ここにあらず、という言葉が的確な表現だろう。
「お~い、ミア~」
流石に心配になり、新はホークとナイフを置き彼女に近寄ると声をかけた。
「へっ?! あ、はい、どうされました?」
「お前大丈夫か?」
新の問いかけにやっと反応したミアだったが、視線が泳ぎあたふたしていてとても落ち着きが無さそうで、声をかけた新が悪い事をしているような気持ちになってしまうほどに、大変申し訳ない気持ちになってしまう。
「どうした?」
「あの・・・新さんの幼馴染さん。どんな人ですか?」
しどろもどろになりつつ、か細い声で自身の無さそうな心配をするような、そんな感じで新たに質問をしてくるミア。
「会ったじゃん。アレそのまま」
新としては特に何か気負う事も、隠す事もないため、何でもない事のようにそう答える。
ミアはジーと新を見て何事か考えた後。
「七海さんの気持ちにこたえるんですか?」
気持ちというのは、昼間命が言っていた七海の新たに対しての恋心の話だろう。
恐らく会えるのはこの一回が限度なのかもしれない、そうなってしまえば必然と今言わなければ後悔するような事を、意を決して言葉として紬、新にぶつけてくるのだろう。
そのような事になれば新としてもさすがに無視はできず、何らかの答えを出さなければならなくなるだろう。
「でて・・・出て行っちゃうんですか?」
不安の色が混じった瞳があらたをみつめる。
不安だけでなく恐怖の入り混じった感情がそこにはあり、行かないでという想いも少なからず読み取れるほどに、力強さの様なものも感じた。
どう答えるのが正解なのか、新は悩むが、それ以前に答えは既に出ていた。
「お前・・・俺が指名手配されてるの忘れてないか?」
「で、でも、ほら、愛があれば」
「乙女か! 愛でどうにかなれば俺だって帰りてぇよ」
はぁと一つ溜息をついた後、ベールを外したミアの頭部に掌を乗せると、新はゆっくりと撫でる。
撫でられう事になれてないのか、最初少しくすぐったそうにしていたが、嫌ではないらしくすぐにされるがままとなった。
「私、また一人になるのかなって・・・・不安で」
「絵里奈との生活、2日だけだったけど、すごく楽しかったよな」
「うん」
「絵里奈がさ、食べ物を食べるたびに笑顔でさ、見てて飽きなかったよな」
「うん」
「それから・・・」
「うん・・・」
気の利いた事が言えない。
最初こそ勢いがあり、ちゃんとしたことを言えていた自覚はあったが、すぐに言葉が出てこなくなってしまった。
新はミアの不安を解消したいとは思っていても、具体的にどうすれば彼女がその不安を自分の中でしっかりと消化できるのか、それが分からなかった。
35にもなり情けないとは思うが、それ以上に人の心は複雑で難しいのだとあらためて思い知らされる。
どうにかしなければと慌てる新たに、スッと腰に腕が回され、腹部にミアは顔を埋めた。
「お、おい」
「・・・・・」
ミアの行動にどうするのが正しいのか分からず、内心心臓の鼓動が早くなるのを必死で誤魔化しながら、丁度いい位置にある頭部をそっと優しく撫でた。
ミアはそうされるのが嬉しいのか、腹部に顔をこすりつける様に、何度も何度も首を左右に振り腹部に顔を埋め続けた。
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