第38話 2話 狐の面とカモミール(幼馴染と思いの強さ)
教会まで強制連行され、気が付けば十字架の前で膝をつき祈りを捧げるポーズまでするようにミアに言われ、意味が分からずになすがたまま、言われるがままにそれに従う新はいったい何が起きているのか、説明してくれと言いたくて仕方がなかった。
「新さん、あの女性とどういう関係ですか!」
ものすごい剣幕で顔を近づけてきたミア。
どうやら相当怒っているらしく、原因は新本人にあるらしいのだが、心当たりがない。
「ごめん言ってる意味が分からんのだが」
「あの人貴方の知り合いです。しかもわざわざ生霊になってまで貴方を探しに来たみたいです」
これです、といって差し出された、絵里奈の時に見た神と全く同じものを新たに差し出すミア、そこには海野 七海と記載されていた。
七海という名前に、新はすぐに思いたる、
「はぁ?! いやいや、確かアイツあんな清楚系じゃないぞ。もっとこぉ、地雷オタク系な感じの見た目とか服を好んでいたし」
好みは人それぞれだし、特にそれについて新から何かを言ったことは一度だってない。
12歳年下の、いわば妹の様な存在で、小さいころ面倒をみていただけの間柄である。
その事をミアに説明するが、彼女は納得してくれない。
「新さん。女の子はその程度で生霊になってまで人を探したりはしません。好かれていたんじゃないんですか? もしくは何かいやらしい事をしたとか?」
「お前は、ドンだけ俺をどん底に突き落としたいんだ! 誓ってない!」
流石に失礼な発言をされたので、新もそのまま黙ってスルーは出来ずに、声を荒げて言い返すと、彼女も冷静さを欠いていたのか、ごめんなさい、と一度謝り一旦お互いに落ち着くためにペチュニアに戻る。
ポットに残っていたカモミールティーが、彼女が確かにそこに居た事を示す。
「新さん、カップ用意しますので、それもったいないので飲んじゃいましょ」
「おい、大丈夫なのかそれ?」
「特に嫌な感じが無いので、問題はないかと」
嫌な感じとは何なのか、それを聞きたくはあったが、こないだの邪神様騒ぎで嫌な感じとはアレですとか言われた日には、あの時の恐怖が蘇るのでそっと知らんぷりを決め込む新。
ポットをレンジに入れ加熱し、中の液体を温め、新しいティーカップを2つだしてそちらにミアが注いだ。
「どうぞ」
「ありがとう、凄い花の香りがするなこれ」
「ハーブティーです。心を落ち着ける作用があり、リラックス効果も得られますよ」
へぇ、と思いながら口に含めば、香っていた花の香りが口から花を突き抜け、体全体にしみわたるようなそんな感覚を覚える。
割と強めな匂いだったので少し癖が強く、苦手な人は苦手なやつかもしれない。
「その、新さんに会いに来た七海さんて、どんな人なんですか?」
「どんなと言われても、引っ込み思案で。どちらかというと文系の子で。外で皆がワイワイしていてもお家でゆっくりしていたタイプっていえば良いのかな」
「つまり、大人しい人だと?」
「まぁ端的に言えばそうなる。だから無茶をしたり、アクティブな事とかも苦手だったはず」
新の回答にある程度は納得したのか、なるほどぉと言ってカモミールティーを口に運ぶ。
「そもそも、なんで七海が俺を探しているんだ?」
「心配で好きな人だからでは?」
何でもない事のようにミアが言い、新はないを言われているのかいまいちピンとこない。
「いやいやぁ、あの七海が? しかもアイツ美人だぞ割と。俺みたいな中年オヤジに恋とか・・・・」
「女の子の恋に年齢はあまり関係ないですよぉ」
有り得ないと言い張る新たに、ミアは即答で返す。
新もさすがにそこまで自信たっぷりに即答されてしまうと、もしかしてそうなのでは? という想いが沸いてきてしまう。
男として、女性の割と自分よりも若い女の子に言い寄られるというのは決して悪い気はしないし、むしろ舞い上がって喜ぶべき事でもある。
ただ、昔からよく知っている相手であればあるほどに、自分は恋愛対象になりえないのでは? と自分を除外しがちなのもよく聞く話ではある。
新はその手の漫画を割と好き好んで読んでいるのもあり、どうしても自分を本当にあの七海が? という疑問がループしてしまう。
「新さんは、七海さんの事好きではないのですか?」
「好きだぞ」
「へぇ~」
「なんだその不満たっぷりの目は」
今日は妙にミアが新に突っかかるので、流石に新も少し鬱陶しくなってきて少し強めにそういうが、彼女はけっしてその態度を改めようとはしない。
いつもの彼女であれば、素敵ですねぇ、とか言ってニコニコと微笑を浮かべていそうな事柄なのに、今日に限って妙につかかってくるのだ。
「なぁ、人間てそんなにこう、生霊とかになれるのか?」
「なれますけど。普通には無理です。よほど思いが強いか、何らかの力ある者に助けを求めて力を得るかしないと」
そこでふと、新はある事に気が付いた。
七海がしていた面、アレはいったいどういう意味なのだろうかと。
「七海さんて、ご実家が狐さんとか、お稲荷様に関わったりとかは?」
「ない・・・・と思う。少なくても俺は知らない」
新が今まさに考えていた事、それに言及されたので少し驚いた。
「それについては、私からお話ししましょうね」
「へ?」
「は?!」
突然声がしてそちらに顔を向ければ、先ほどまで七海が座っていたところに、小さな着物を着た女の子が腰かけており、銀色のスプーンで、少し溶けてしまったパフェのアイスを口に運びながら、座っていた。
突然の、音もなくそこに来客が居たので、ミアも新も心臓をバクバクと言わせながら突如現れた女の子に驚いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます